第四話・撃沈−1
【西暦2042年 8月20日 明け方−−−日本国東京都小笠原諸島 沖ノ鳥島より東3km地点 西太平洋上】
無人航空機、無人車輌、無人航走体、無人宇宙船。
20世紀初頭、第一次世界大戦頃において[搭乗者を必要としない軍事的輸送機械]という構想が提唱されて以来、特に第二次世界大戦後からの1世紀においては同大戦とその後の東西冷戦、対ゲリラ・非対称戦による軍事拡大に伴う研究開発が、これを新たなゲームチェンジャーとして急速に戦略、戦術上の地位を拡大させた。
軍事的緊張に押された技術革新によって、やがて無人機は陸海空および宇宙といった、領域横断作戦で想定される物理的空間を定義した領域の全てにおいて、重要な役割を担うまでに昇華する。
航空機から陸上車輌、水上艦艇、潜水艦、宇宙船。これまでに存在した各領域の軍事的輸送機械は、全ての種がこれを一部代替されるに至った。
そしてこれを遠隔から運用することを無人機運用、近年では誘導制御などと呼ばれる。
「当該艦、まっすぐUSV01に近接する、距離1800。本艦より3マイル」
武装を外された1号型無人防空艇の2艇は、横隊でまっすぐに当該の艦艇に向かう。相対距離は2kmを切っている。通常の警戒監視活動では、有人艦が絶対に近づかない距離である。無人艇や無人船でも大体1,500mまでだ。
しかしこの1号型無人防空艇はまっすぐ当該の艦艇に向かう。減速どころか増速しながら。
2艇を誘導制御するミサイル巡洋艦かすがの戦闘指揮所では、モニターに無人艇のカメラ映像がリアルタイムで表示されていた。船体が小さいためピッチング、ヒービングが大きく、深さ2mに対して喫水が1mのため、その視点は非常に低い位置にある。
全長12.5m、全幅3.8mの1号型無人防空艇は武装と最低限の装備、設備を取り外されている。
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『我が軍は領海内において軍事作戦を実施している。貴艦は我が軍の自動推進式無人船の進路上に位置している。直ちに退避し、我が国の領海から直ちに退去せよ。妨害するのであれば、敵対行動と見なし、実力を持ってこれを排除する意思がある。』
日本艦隊から何度も同じ文言で警告がなされる。目の前には、小型の船が立ちはだかろうとしていた。すでに距離にして1800mほどまで接近している。
巡洋艦ダウムは18ktn、向かってくる2隻の小型船は目測で30ktnほど出ているのではないだろうか。つまり
「艦長、このままでは1分で衝突します!」
「ただの小型船だ!」
といった艦長の表情は険しい。
この軍艦ダウムは全長200mを超え、装甲厚は最大厚が125mmを超える巡洋艦だ。ぶつかったとしても小破以上にはならずに押しつぶせるはずだ。しかし
「ネリバートンの件もあります。それに自爆型の新兵器かもしれません。」
「距離1500」
「艦長!」
しかしここで巡洋艦ダウムが舵を切れば、後ろにいるサルベージ船第3コードル号にぶつかるかもしれない。
第3コードル号は、制海権の確立された自国領土の沿海域で運用されることを想定したものだ。そのため軍艦ではない民間船舶という点を考慮しても、大きさの割に船体板厚は非常に薄いものだ。そして巨体ゆえ、機動性は最悪である。
「コードルに当たったらどうなる!避け切れないぞ!」
火器を使用すべきだろうか。逡巡した次の瞬間、副官がそれを提言したことで思考に整理がつき、錯綜する考えがまとまり思いとどまる。
「人は乗ってないんだな?」
日本艦隊は無線で自動推進無人船と言った。
「おそらくは、」
目標が小さいため、1000m以上離れた場所からはその構造がよくわからない。操縦席のような構造物はあるが、光の反射具合などから、どうも窓は無いように見える。
双眼鏡を覗けば、白波を立て大きく上下に揺れながら猛スピードで尚も近づいてくる。
「機銃で沈める」




