第三話・前編:避難
【西暦2042年 8月19日 夕方−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地 政令指定特別区域 首相官邸1階 記者会見室】
1週間弱が経った。
沖ノ鳥島における緊張状態は現在までも継続されている。沖ノ鳥島の沖合3km圏内には、今も巡洋艦4隻からなるレンツ艦隊が居座り続けている。
この1週間、初日から事態に大きく進展はなかった。しかし、国防海軍の艦艇や航空機が警告を受けるといった事例がすでに8回を超えている。
また、戦艦とサルベージ船を擁する後続の艦艇群を確認したことを受け、政府はついに最悪を想定した行動をとる。
『−−−このような状況で、目指す外交努力による解決がより困難であると判断し、国民の生命と私有財産の保護。これを目的にまず、武力攻撃事態において被害が予想される小笠原諸島の父島母島両島、および大東諸島の南大東島と北大東島の民間人、3,500人に対して、避難指示を発令いたしました。』
1日目から2日目にかけての初動対応にて、すぐさま事態対策本部を設置した。その後、自治体の担当者を招いての国民保護協議会を開催し避難計画の策定を目指した。ここまでで5日である。
避難指示の発令は離島で島外への移動が航空機と船舶に限られていることから、少しでも自主避難となるような可能性を完全に排除し、沖縄本島と本州に辿り着くまでの道程を完璧に管理すべく緻密な計画策定を求められていた。
「−−−既に国防軍、自治体警察、協力いただいた民間の運送事業者等による住民の避難は既にはじまっております。国民の生命と私有財産の保護、これを大原則として−−−」
住民避難の完了は明日の未明。それまで事態発生から1週間も経つことになるが、政府はそれより以前に武力攻撃事態へ発展する可能性は低いとして正確性を求めた結果だった。
その根拠とは、後続の艦艇群の存在である。編成を見る限り本事案において主力とみられ、沖ノ鳥島に接近するより前に、先行する巡洋艦4隻が武力攻撃を行うとは考えにくかったためだった。
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【西暦2042年 8月20日 未明−−−日本国東京都小笠原諸島 沖ノ鳥島より東3km地点 西太平洋上】
「艦長、レンツの戦艦級艦艇の領海侵犯を確認したそうです。」
未だ日の上らぬ空の下、機器らが並ぶ白く明るい部屋の中で、モニターを通して外の様子に視線を向ける。そこには巡洋艦ベリモーが座礁したのも納得の漆黒が広がっていた。
護衛艦きぬの戦闘指揮所である。そこで事態の変遷における重大な節目を知らされたのは、護衛艦きぬ艦長だ。
「無人艇はいくつあったか?」
先日、新たに合流した艦艇2隻は多数の無人航走体を引き連れてやってきた。
→第二即応機動艦隊隷下、第104即応戦隊所属
[ながら型ミサイル護衛艦−8番艦きぬ|DDG−190]
[いつくしま型ミサイル巡洋艦−6番艦かすが|MCS−217]
[まつ型ミサイル駆逐艦−8番艦いなづま|MD−359]
[もがみ型多用途護衛艦−6番艦なるせ|FFM−6]
[もがみ型多用途護衛艦−14番艦こよし|FFM−14]
[もがみ型多用途護衛艦−22番艦おんが|FFM−22]
無人航走体に関しては1号型無人汎用艇が3艇、そして1号型無人防空艇が7艇と1号型無人ミサイル艇が2艇ある。1号型無人防空艇はうち4艇が意図して武装を外されていた。
「計12艇です。」
日に照らされる前には、有視界内に現れるだろう。艦隊はその時をじっと待つ。
哨戒機からの情報を合成したレーダー画面には、当該の艦艇群が印付されていた。距離にして20kmといったところか。
ー次話、ep.64の投稿は2024/05/29/00:00を予定




