第二話・後編:後続船団
【西暦2042年 8月13日 昼過ぎ−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地 政令指定特別区域 首相官邸地階 第二会議室】
今開催されている国家安全保障会議、通称NSCの議題は言うまでもなく、沖ノ鳥島沖合に展開するレンツ帝国の海軍艦隊に関するものである。
形態は石橋 内閣総理大臣、内堀 内閣官房長官、朝比奈 国防大臣、赤城 外務大臣、平野 総務大臣、大蔵 財務大臣、山下 経済産業大臣、福本 国土交通大臣、池辺 国家公安法執行議院長の9大臣会合だ。
他に輿水 内閣総理大臣補佐官や長原 内閣総理大臣補佐官をはじめとした関係者。そして事態対処専門委員会の構成員として内閣や内閣府から、内閣官房副長官や内閣危機管理監、内閣情報局長など、他関連省庁からも国家公安法執行議院政策統括官、デジタル庁サイバーセキュリティ局長、出入国在留管理庁次長、外務省総合外交政策局長、加えて今回に限りが地域別外務局暫定的統合外務局副局長、国際情報分析研究所情報官、技術研究省国際統括官、農林水産省消費・安全局長、経済産業省貿易経済協力局長、資源エネルギー庁次長、国土交通省国土交通大臣官房室国土交通危機管理・政策審議官、海上保安局長、国防省国防総軍統合参謀総長、国防省統合軍戦略情報収集軍団幕僚総監、国防省統合軍通信システム軍団幕僚総監。以上の約20名が参加している。
事態対処専門委員会より提出された複数の案を審議し、また方針の実現に向けた諮問などを経て、事案対処における方針を示すものである。
「−−−ています。フリト帝政国は沖ノ鳥島における情勢に対して、かねてからの非介入姿勢を崩さずに静観を続けることと考えられ、レンツ帝国の領域侵犯に対しては国防陸海空3軍による強力な警戒監視活動をもって抑止力とし、沖ノ鳥島における緊張状態を武力衝突事態への発展を避けるものとする。また同時に早急な事態収束を図るべく、第三国を通じた外交交渉に努力していくという方針とします。」
「フリト帝政国に対する外交に関しては、現在フリト軍との迅速な情報共有ラインの設置に向けた外交官以下、国防省職員をはじめとした実務者協議団を組織し、3週間以内の実現を目指して協議を進めている最中であると。レンツ帝国との外交交渉に向けた仲介国に関しては、現在マカルメニア民主国以下3カ国を選定し、在フリト大使館らを通した交渉を進めており、レンツ帝国への接触を図るものとします。」
これが現状での基本的対処方針である。武力攻撃事態を最悪とし、外交努力による解決を実現することを想定している。
「まずはじめに、沖ノ鳥島とその周辺の情勢に関して、レンツ側の狙い。これを明確にすることと、レンツ帝国と武力攻撃事態へ発展した場合に対処が可能なのか、周辺の島嶼防衛に関する体制、特に有人島における住民避難について、これらに要される事項についてお願いします。」
「はい、えぇまず予測されるレンツ帝国側の方針については、これは沖ノ鳥島に座礁した巡洋艦の保護回収を目的としているものであると考えられます。諸外国からは、我が国がフリト帝政国の被保護国であるという認識があり、レンツ帝国の強行姿勢は、我が国が巡洋艦を確保し敵対するフリト帝政国に提供することを懸念してのことだと考えられます。またレンツ帝国はロブロセン地域において、ロブロセン王国と共同の軍事作戦を展開中であり、ユト大陸への航路上の不安要素を払拭したいと考えていることも予想されます。
そのため、座礁した巡洋艦の処遇に関して不透明な状況では、レンツ帝国も強行な姿勢で保護回収を目指すはずです。第三国を通じて早急に、我が国が巡洋艦のサルベージと返還に協力的な姿勢を示す必要があります。」
そう答えたのは坂木 外務省総合外交政策局長だった。それに続いて、今度は矢賀 国防総軍統合参謀総長が答える。
「次に、レンツ帝国と武力攻撃事態へ発展した場合の備えに関して。まず島嶼部、特に付近の有人島における住民避難について、事態発生直後に早期の避難が要されるのは、小笠原諸島父島以下2島の1,906名と、大東島諸島の南大東島以下2島の1,276名です。
現在小笠原諸島の近海にて、民間人の収容を想定した揚陸艦と輸送艦を計2隻配置し事態に備えております。また同時に、初動以降の指定避難区域の拡大に備え、現在自治体や運送事業者と調整を進め、航空機及び船舶の確保を進めています。
小笠原諸島の住民避難に関しては、避難誘導任務にあたる国防陸軍の普通科部隊を既に島嶼部へ派遣しており、直ちに展開が可能な状態にあります。事態発生から1時間半以内には民間人の乗艦を始めます。
大東島諸島の2島に関しては、国防空軍の輸送機で沖縄本島への移送を計画しています。南大東空港と北大東空港には複数機を駐機できるスペースがなく、上空待機も限界があるので、こちらは沖縄本島からの航空機と船舶の二つで分散しての避難を考えております。
両諸島、事態発生から12時間以内に民間人の避難を完了する予定です。
レンツ帝国との武力攻撃事態へ突入した場合、誘導弾等のスタンドオフ攻撃を主として対抗する想定です。レンツ軍の設計思想は地球での大艦巨砲主義に相当するもので、有視界戦闘においては我が方が圧倒的に不利な立場となります。
相手からすれば、いつどこから攻撃を受けるか不明な状態は士気に大きく影響すると思われます。そのため早期の事態収束と抑止力としての効果を期待することもできます。−−−」
小笠原諸島の周辺には現在、国防海軍の第421水陸機動打撃群が展開している。擁するのは強襲揚陸艦と輸送揚陸艦が1隻づつと、ミサイル巡洋艦が1隻にミサイル駆逐艦2隻の計5隻だ。
他にも第一国防艦隊の複数隻が海上警備行動を行っている。地域は限定されるが潜水艦も活動しはじめているそうだ。
諮問は続く。
「当該事案についての基本的対処方針で想定した外交的解決が失敗し、武力攻撃事態に発展した場合の国防計画の計画大網について、また国防計画に基づく国内産業等の調整計画、そしてこれによる経済的影響について説明をお願いします」
「はい。えぇまず事態が基本的対処方針に沿わず武力攻撃事態に立ち至った場合の国防大網に関しては、遷怜5年に策定された改訂中期国防戦力整備計画の島嶼部における攻撃を企図する敵性勢力に対する領域防衛を主とした作戦行動にある通り、国防省の統合司令室内に統合作戦司令部や統合軍を設置し、統合司令室長をトップとした一元的な作戦指揮による国防陸軍、海軍、空軍、特殊作戦軍、宇宙作戦軍5軍の領域横断作戦を実施、必要な部隊の機動展開による当該の地域における各領域の優勢を確保し、防衛奪還するものであると、しています。
しかし今回の場合は、レンツ軍の情報が著しく不足しており、適正な戦力評価が行えていないこと、加えて周辺地域並びに各列強本国の情勢についても不明瞭な状態であり、より高度な作戦指揮、政治的判断が要されるものと考えられます。これについてはフリト帝政国との情報共有、これが重要であり、在日フリト大使館からフリト軍の駐在武官を招致し情報顧問として作戦に参与してもらうよう調整を進めております。
また、我が国と同様にレンツ側も我が国国防軍に関する一切の知識を持ちません。インターネットを通じた情報発信による抑止力という従来までの戦略を改める必要が浮上しました。十分な抑止力を展開するのであれば、やはり有人の大型艦艇や航空機、これを展開することが必要であると考えられます。−−−」
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【西暦2042年 8月13日 昼過ぎ−−−日本国東京都小笠原諸島 硫黄島より東3,400km地点 西太平洋上】
レンツ帝国の巡洋艦ベリモーが座礁してから、国防海軍は南部、特にヨルド諸島の面である南東の警戒を強化していた。
レンツ帝国の巡洋艦が再び沖ノ鳥島に姿を見せてからというもの、その哨戒域は大きく東まで拡大し、ヨルド諸島を基としたレンツ帝国の帝国海軍の動向を注視している。
そんな時であった。哨戒行動中のP−2哨戒機が国籍不明の船舶を発見する。
『−−−5隻を視認。大砲等の火器を確認、特徴から、おそらく戦闘艦と思われる。うち一隻は戦艦クラス、もう1隻は特徴からベリモーと同一艦種の可能性。他2隻は駆逐艦規模の同じく武装船舶。』
機下の船舶群は、特徴からうち3隻が戦闘艦艇と判断できる。問題は、そのうちの1隻が規模からして戦艦であると判断できることだ。
中央に聳え立つ艦橋構造物と、周辺の機関銃群。前2門、後1門の各3連装砲。全長は目算で270mを超える。
『でけぇ。ミズーリと同じくらいあるんじゃないか?』
しかし前を戦艦で、駆逐艦が左右を、巡洋艦に後ろを守られた、ある一隻の船舶は一際存在感を放っていた。
その造形はこの4隻の中で異質と言えた。
武装は見当たらないが、その代わりに広く薄いような見た目で、その甲板上には巨大なクレーンを搭載している。
『サルベージ船だ、』
しかし、この場所は日本国の領海内でなければ排他的経済水域内でもない。つまり状況から見て進路が明らかに沖ノ鳥島を目指したものであると推測できても
『−−−帰投する。over.』
現段階では何もできることはない。
お久しぶりです。[虎石_こせき]です。
未だインターネットはなおっておりません。今回は近所の公立図書館よりフリーwi-fiに乗せて投稿しました。
プロットって大事ですね。プロットを作成せずに第二章、ep.59以前のような書き方なら、作中時系列で今回書いた場所に至まで5〜6話使ってたと思います(笑)
次回の更新はいつもより早く投稿したいと思います。今回は会話ばかりの話だったので、面白いと感じる方は少なかったのではないでしょうか。次回は現場を描きます!
ー次話、ep.63の投稿は2024/05/20/00:00を予定




