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第二話・前編:警告

【西暦2042年 8月13日 昼前−−−日本国東京都小笠原諸島 沖ノ鳥島より東3km地点 西太平洋上】


ミサイル護衛艦きぬのヘリコプター格納庫から、後部甲板の中央にまで伸びる軌条がある。


それに沿って動くのは、ベアトラップと呼ばれる着艦拘束具と、それに機体下部の支柱を拘束されたSH−24S哨戒ヘリだ。


ヘリコプター格納庫から、拘束された支柱を軸に着艦拘束具にゆっくりと押し出されたSH−24S哨戒ヘリは、甲板上で折りたたまれた回転翼を展開する。


『MIYAKODORI, KINU LSO. Wind 130 degrees at 13 knots, pressure 1007hPa. Rolling 4°, pitching 3°.over』


艦長より発せられた航空機即時待機命令の後、発艦が指示され、隊員らはSH−24S哨戒ヘリコプターの発艦準備を進めている。


機長はエンジンの始動と計器類の確認を済ませると、航空管制官と無線でのやりとりを行う。無線の周波数帯域を合わせ、気象状況と艦艇の揺れ具合の報告を受ける。


『KINU LSO. weather 130° for 13 knots,1007hPa. Vessel, Rolling 4°, pitching 3°.MIYAKODORI roger.』


今日の天候は波の高さ共に穏やかだ。艦の揺れも小さい。


エンジンの音と金切り音が少しづつ高音になると、機体が浮き上がる。


『All clear』


艦艇との相対位置を左後方に向けて徐々に上昇させる。一定の距離を離すと、艦の左舷側面を横切り、SH−24S哨戒ヘリは沖ノ鳥島に機首を向けた。

__________


SH−24S哨戒ヘリは沖ノ鳥島周辺に展開するレンツ海軍に接近する。同時に、無線での警告を行っていた。


『こちらは日本国国防海軍機である。我が国の環礁島付近を航行する艦艇等に告ぐ。当海域は我が国が主権領有とする地域であり、貴艦隊の行為は、無害通航の概念を大きく逸脱した侵犯的行為である。直ちに当海域より離脱せよ。


This is a Japan Navy aircraft. Issuing a warning to vessel numbers 439, 442, 445, and 448 navigating in the vicinity of the atoll island.


These waters belong to our sovereign territory. The actions of your fleet are in violation of the principle of innocent passage. Depart this area immediately.』


SH−24S哨戒ヘリの眼下には、沖ノ鳥島から東に1kmから2kmを低速で徘徊するように航行するレンツ艦隊が見える。まるでこの海域が我が物でそれがさも当然だと言わんばかりだ。


『ミヤコドリよりキヌATC、当該艦艇に変化無し。接近する』


航空母艦や各種揚陸艦などをはじめ、戦闘艦艇であれば航空機の運用を本旨としない艦種でも、航空管制を掌握する専門の部署は存在する。


そして現在の国防海軍では、後述の艦種においては戦闘指揮所に統合されている場合がほとんどだ。前述の艦種のように、独立したそれが置かれているわけではない。


そのため呼称号令の統合を目的にATCと呼ばれているが、実際にはCICとの通信となる。


沖ノ鳥島の真上60mを飛行するSH−24S哨戒ヘリは、機体を前に傾け当該の艦艇群に接近し始めた。


次第に4つの鉄塊は大きく映りはじめ、甲板上の構造を鮮明に確認できる距離にまで近づいた。


高度を変えず、艦艇との距離を1km弱にまで近づけた。

__________


【新生歴1948年 8月13日 昼過ぎ−−−西ナマール海 洋上】


「回転翼機どころか、艦載と海上での運用も実用化しているのか、ますますわからん。どういうことだ一体、」


レンツ帝国の海外領土であるヨルド諸島からやってきた帝国海軍南部防衛軍第5艦隊所属、第68巡洋戦隊。


帝国海軍では通常、麾下とする艦艇が6隻未満の部隊であれば、補佐官を付けた上で旗艦の艦長が部隊指揮官を兼任する。


ラブドレイク級巡洋艦2番艦−プエリス|CC−439の艦長も、例に漏れず第68巡洋戦隊の戦隊指揮官を兼任している人間だ。


「フリトが回転翼機を輸出したとしか考えられませんが、しかしそこまでするとも考えにくいです。」


レンツ帝国が確認している情報であるが、回転翼機の開発を行っている国は自国の他にフリト帝政国、ペント・ゴール帝国、セリトリム聖悠連合皇国、エルテリーゼ大公国、セント人民共和国、ヴォルコビア=ヴォルノバル共同体の6カ国のみだ。


そのうち国軍で実戦配備を行っているのはセリトリム聖悠連合皇国とフリト帝政国、ペント・ゴール帝国、そしてレンツ帝国だけだ。


エルテリーゼ大公国は、開発自体は成功しているが、国内の情勢が波及した経済的な理由で国軍での実戦配備には至っていない。


そして艦艇に搭載して洋上での運用はといえば、


「しかし海軍での本格的な運用は、セリトリムで試験的な部隊が発足されたばかりと聞いています。」


どの国も陸軍でしか未だ実戦配備は行われていない。


「日本はフリトの属国だと思ってたが、まさかセリトリムも一枚噛んでるのか?」


艦長はしばらく考え込むが、やはり答えは出ない。その顔には若干の焦燥感が滲み出ていた。


「とにかく、これ以上接近させるな。警告を発する」

__________


【西暦2042年 8月13日 昼過ぎ−−−日本国東京都小笠原諸島 沖ノ鳥島より東3km地点 西太平洋上】


ミサイル護衛艦きぬの艦長はこの事態を武力攻撃予測事態と見て、即応の観点から居場所を艦橋から戦闘指揮所へ移していた。


「『我々は当海域において、我が軍の巡洋艦の監視任務を実施中である。これ以上の接近が認められる場合には、武力行使も辞さないものである。』とのことです。」


「一旦戻した方が良さそうだな。しばらくしてからもう一度あげて、接近警告する。」

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