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第一話・沖ノ鳥島緊張、再び

【新生歴1948年 8月13日 朝−−−西ナマール海 洋上】


ヨルド海軍基地にて、日本国と行われた外交会談から1ヶ月程が過ぎた。


平行線をたどった外交交渉は早々に絶たれ、今や解決への道筋には外交官の言葉ではなく軍靴の音が響いている。


卓上から移り行く先の舞台は海であった。


西ナマール海の白化した珊瑚礁。そこに進路を定める水上艦艇群はレンツ帝国に帰属する海軍組織のものであり、それは世界に3つしか存在しない列強海軍に類される精強な軍隊だ。


レンツ帝国、帝国海軍南部防衛軍第5艦隊所属、第68巡洋戦隊。現在は隷下の艦艇1隻が座礁したため定数の5隻には満たない4隻の艦隊だ。


「ロブロセンで王国が越境したそうですね。」


休戦中であったユト大陸のロブロセン内戦は8月2日、現地時間の3日にレンツ帝国の駐留軍と共同して、ロブロセン王国が反王国体制派の実効支配地域に対する軍事行動を開始した。


「ここと同じで、ユトでも反体派の抵抗にフリトの介入はないらしいな。」


第68巡洋戦隊の4隻は、残る1隻が着底する地点へ向かっていた。これは日本国という新興国の領域内であるが、外交交渉が決裂すると本国は本件の所管を外務省から軍事省へ移管した。


「上は日本と事を構える覚悟だが、向こうが折れればそれまでだ。今回我々は進んで攻撃するわけじゃない。」


「わかっております。まだフリトの出方がわからないですからね。」


ここ最近のフリト帝政国は、アドレヌ大陸での覇権確立から手に余る領域を守り切ることもままならず、対外政策においては他列強国に対して大きく遅れをとっている。


「しかし日本か、ここまでの情報統制とは思わなかったな。何も情報が無いではないか。」


「わかっているのは海軍の主力艦艇の特徴くらいですからね。灰色の塗装で砲が小口径の一門限り。ほんとに海軍なんですかね」


「フリトの旧式艦を供与された沿岸警備隊かもな。空母がいる沿岸警備隊なんて聞いた事ないが、」


日本国について判明していることは非常に少ない。現状では、本国の位置さえ判然としていないのだ。

__________


【西暦2042年 8月13日 昼前−−−日本国東京都小笠原諸島 沖ノ鳥島より東21km地点 西太平洋上】


今、沖ノ鳥島の沖合いでは、日本国の国防海軍とレンツ帝国の帝国海軍の艦艇が並んで航行している。


合同での訓練なぞではない。ベリモー座礁事故。これを発端としたレンツ帝国との関係悪化によって、事故現場である沖ノ鳥島に派遣されたレンツ艦隊と、海上警備行動中の日本艦隊が緊張状態のもとに相対しているのだ。


「レンツ艦と2マイルで並走しろ」


帝国海軍の艦艇群を発見して一刻。日本国側は付近にて海上警備行動中であった部隊を当該艦隊の警戒監視任務にあてていた。


第二即応機動艦隊隷下の第104即応戦隊。ここに所属するながら型ミサイル護衛艦1隻に、第二地方支援艦隊隷下の第6海防隊を臨時に加えた編成種別が2類に分類される水上部隊だ。


→第二即応機動艦隊隷下、第104即応戦隊所属

[ながら型ミサイル護衛艦−8番艦きぬ|DDG−190]

[もがみ型多用途護衛艦−6番艦なるせ|FFM−6]

[もがみ型多用途護衛艦−14番艦こよし|FFM−14]

[もがみ型多用途護衛艦−22番艦おんが|FFM−22]


「艦艇番号からしてベリモーと同型艦で、同じ部隊の巡洋艦でしょう。」


「1番最初に来たやつだな。呼びかけには?」


「応じません、」


晴天の元にどこまでも広がる青い海。その上には2マイル、つまり約3.2km離れた場所には重厚な鉄塊が浮いている。4隻で菱形の陣を形造り、相対位置に一切の乱れが無い。


双眼鏡で覗けば、そこには前時代的な大艦巨砲主義に則った巡洋艦が映る。厚い装甲に大口径の連装砲。


機動力を両立させた艦種であるため、この二つは戦艦のような極端なものではない。だが国防海軍の艦艇と比べれば、この状態からの戦闘において、圧倒的な優位にあることは間違いない。


なにせ国防海軍の運用する艦艇とは、水上戦闘艦艇の本懐である戦闘においては、遠距離から誘導弾を用いたものを主とし、機動性を重視した設計思想の現代艦艇だ。


この距離での撃ち合いともなれば、相手が攻撃の意志を砲の指向で示すよりも前に対艦誘導弾を撃つ判断をしなければ勝ち目はないだろう。


この状況は、隊員たちの精神を大きく疲弊させる。地球にいたころの、当該艦艇が設計思想の同じ現代艦艇である人民解放軍海軍のものである時とは比較にならない程だ。


レンツ艦隊とそれを追う日本艦隊は、1時間もせずに沖ノ鳥島が明確に目視できる距離にまで近づいた。


「周りを回るだけみたいですね。」


「わからんぞ、揚陸隊が乗ってるかもしれん」


ミサイル護衛艦きぬの艦橋ではこのような会話がなされていた。


「一応、エスエッチ上げる準備だけしておくか」


国防海軍は海上自衛隊時代から対潜水艦能力に注力している。


そのため戦闘艦艇では、複数の無人航空機で1機の回転翼機を代替するという思想の元に建造された、まつ型ミサイル駆逐艦とすずや型ミサイル巡洋艦の2艦種16隻以外、7艦種68隻に回転翼機の運用能力が備わっている。


とは言っても航空母艦や揚陸艦の配備によって肝心の回転翼機自体が足りておらず、68隻中の半分弱が、前述の2艦種のように回転翼機1機に対して複数の無人航空機でそれを代替して運用している。


そのため今回の第104即応機動艦隊が擁す回転翼機も、旗艦であるミサイル護衛艦きぬに搭載された[SH−24S哨戒ヘリコプター]が1機のみである。

__________


【西暦2042年 8月13日 昼前−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地 政令指定特別区域 首相官邸北棟3階 総理執務室】


レンツ帝国の艦隊が確認されてからすぐに、首相官邸地階の国家危機管理中央対策室には官邸連絡室が設置され、程なくしてそれは官邸対策室へと姿を変えた。


そんな中、総理執務室では関係閣僚緊急協議が行われていた。


「レンツ艦は現在沖ノ鳥島の周囲1から2kmを航行中で、国海の護衛艦を4隻、警戒監視にあてています。」


現場の状況を報告するのは矢賀 国防総軍統合参謀総長だ。すると続いて赤城 外務大臣が発言する。


「レンツ帝国とはヨルド会談で交渉が決裂して以降の外交はありません。現在フリトやルロード、マカルメニアなどの第三国を通して接触を試みているところです。」


それに朝比奈 国防大臣が続く。


「レンツはカムラ会議以降、我々だけでなく他の国に対しても高圧的な態度で、実際に武力行使も行っています。沖ノ鳥島でも地域紛争に発展する可能性があります。現状は十分な、武力攻撃予測事態です」


すると今度は、山下 経済産業大臣が慌てるように口を開いた。


「今もし戦争にでもなれば経済が破綻します。この情勢下で国防省の予算の急増には、まぁ仕方がないことはわかりますが、これ以上国防にお金を回すのが無理なのは、わかっていただきたい。」


日本特事が発生して、最初の概算要求の総額は国防省・国防軍では30兆1284億円であった。ちなみにこの遷怜9年度予算の概算要求は、他の全ての中央官庁も併せて日本特事の影響で提出期限が10月末日までに延期されている。


2040年10月31日に締め切られた遷怜9年度予算の概算要求は、日本特事の影響によって各省庁ともに大きく増減したが、総額では140兆円を超えていた。最終的に、閣議決定の後に衆参両院が決議した当初予算は127兆円であった。この決定額は遷怜8年度予算における当初予算135兆円から約6%減っている。


しかしこの内、国防省・国防軍の決定予算28.7兆円だけを見ると前年の20.2兆円から約42%も増えている。年間予算の総額に占める割合で言えば約15%からなんと約22.6%だ。


8.5兆円という金額もさながら、予算総額に占める割合が15%から22%とは、とてつもない増加だ。


余談であるが、当初予算が前年よりも低い127兆円であった遷怜9年度予算の補正予算は、なんと20兆円を超えて、最終的に148兆円に登った。言わずもがな過去最高額である。


そして補正予算も含め、この年の予算はその半分が日本特事の混乱収拾に当てられた。だがこれだけの投資にもかかわらずその経済効果は、増え続ける損失の曲線を緩やかにするにとどまり、プラスに転じたものは存在しない。


「私も、戦争だけは避けていただくよう赤城大臣には強くお願いしたい。」


山下 経済産業大臣の発言に賛同したのは、財政において致死量とも言える程の悩みを抱える大蔵 財務大臣その人だった。


「戦争にだけは絶対にしてはならないけど、だからといって沖ノ鳥島を実効支配されるのも避けなければ」


「もちろんです。航空機艦艇を増やして、沖ノ鳥島の警戒を厳にします。またフリト軍との情報共有に関しても、外務省を通して実務者協議を行っており、遅くとも3週間以内には設置できるよう進めています。」


石橋 内閣総理大臣の意見に沿うように、朝比奈 国防大臣が発言する。


直接の外交窓口を持たない以上、フリト帝政国とペント・ゴール帝国やルロード共和国、マカルメニア民主国などの第三国が頼みの綱だ。重ねて軍事面での強固な協力体制においては、それが築ける程の関係を持つのは現状ではフリト帝政国のみだ。


「しかしヨルドで自らの要望が通らなかった以上、レンツに再びの外交交渉という選択肢が無いことも考慮しなければなりません。」


それはつまり、武力衝突という未来が待ち受けているということだ。すると内堀 内閣官房長官は総括する。


「とにかく対応としては、沖ノ鳥島に関しては国防海軍による警戒監視を強め有事即応体制の下、同時に第三国を通したレンツとの外交交渉による解決を目指す。これを軸に、対処していきましょう。」


どうやら異論は無いようだ。


「ではこのままNSCで大丈夫ですかね。地階に、移動をお願いします。」

お久しぶりです。[虎石_こせき]です。


しばらく消息を断ちましたが帰ってきました!

あれを書いたタイミングで非常にタイムリー(?)といいますか、例の22年前の感染症にかかっておりました(前話参照


初めてかかりましたよ。喉が痛すぎて、3〜4日は毎食、10秒チャージみたいなゼリーを1つと3錠の薬でした、、、


失踪したとか、活動やめたとか思わせてしまった方には、ごめんなさいm(__)m


ではまた! 1週間程開けて更新します〜

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