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日本国の指針〜第五世界との接触  作者: 虎石双葉_こせきふたば
第三章・環ナマール=ユト緊張
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第十二話・再戦−2

【新生歴1948年 8月5日 夕方−−−フリト帝政国帝都エアセル ロームルス城】


「王国軍が越境し、すでに境界線から10kmに浸透しています。未確認の情報ですが、自走砲も確認されているそうです。」


ロブロセン王国軍は近代化がそこまで進んでおらず、戦車はあったものの自走砲は実践配備されていなかった。


つまり確認された自走砲は駐留するレンツ帝国の帝国陸軍の砲兵部隊か、もしくはレンツ帝国から供与されたものの可能性がある。


「レンツが自走砲の供与に踏み切ったという情報はつかんでいません。−−−」


ロブロセン共和国に駐留する帝政国陸軍や周辺海域を哨戒する帝政国海軍が、ここ数ヶ月のロブロセン王国と駐留するレンツ帝国の帝国陸軍の動向を直接監視していた。


レンツ帝国から自走砲が供与されたという情報はロブロセン共和国からも、レンツ帝国における諜報活動でも報告されていない。


加えて供与されても戦力化までには時間がかかると想定される。他国から与えられた、自国には無い先進的な装備の扱いになれるには、相応の時間がかかるのだ。


「−−−そのため、これは王国に駐留するレンツ陸軍の砲兵部隊だと考えられます。」


「ペンゴ軍が来るまでにとは予想していたが、これほど早いとは、」


ペント・ゴール帝国の帝国陸軍が東航路、すなわちナマール海ではなくガルム洋を通る航路でロブロセン共和国に派兵されるのは今年の12月5日だ。あと4ヶ月もある。


「レンツが直接でてくれば、共和国は3ヶ月もあれば簡単に降ると試算されています。」


無論この卓上演習のシナリオに、フリト帝政国による介入という要素は含まれていない。


「軍は共和国の首都防衛のみで、それ以外は後方支援に徹し、海軍も展開中の第一艦隊を一度シャンロスに呼び戻す方針でしたが、」


本来はペント・ゴール帝国の帝国陸軍がロブロセン共和国に進駐するまで積極的な軍事介入は行わない方針であった。


「当初の予定通り静観したいところだが、」


相手が声を上げねば、強いる側というのは増長していく。そうなればどうなるだろうか、着実にその勢力圏を広げ、すべてを降すまで止まらないだろう。


特にこのアドレヌ大陸とその周辺における地域でフリト帝政国が静観を選べば、それが属国とする弱小国は次々とその標的となることが予想される。


「しかしなんらかの手を打たねば、ユトでの影響力を失います。」


「日本の参戦に関してはどうなのですか」


フリト帝政国は日本国とユト大陸とアドレヌ大陸の情勢に関する、双方国外務省の政務官級の会合を行った。


ここでは日本国の軍事的介入の可能性についても話し合われたが、結果は分かりきってはいる。


「今の所、今回も積極的な介入は望めないでしょう。日本は我々が戦争にならない限り、武力行使はしない方針です。」


以前からの日本国の姿勢を見れば答えなど見えているし、今回は沖ノ鳥島の座礁事故におけるレンツ帝国との仲介を断った直後の事だ。この結果は当然と言えば当然だ。


レンツ帝国と戦争になった際の軍事的支援は取り付けたが、現状況下で日本国が進んでユト情勢に介入してくることは考えられないだろう。


又は、日本国自身が戦争状態にならない限り。

__________


【西暦2042年 8月6日 昼−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地 政令指定特別区域 首相官邸北棟3階 総理執務室】


「フリトがこの件に非介入の姿勢である以上、恐らくレンツの姿勢はより強行的になると思われます」


ユト洋と旧エルドラード皇国に関しては多少強気に行動しているようだが、ここ最近のフリト帝政国は、レンツ帝国の軍事活動に対する対抗の姿勢を見せていない。


ロブロセン情勢でも、アシュニスィ海峡でも、ガムル洋でも、沖ノ鳥島でも。経済的な理由があることはそうだが、それにしても度が過ぎる程に及び腰になっている。


このままではフリト帝政国は本国の周辺地域における覇権を失う日も近いだろう。


「沖ノ鳥島の対応を考えましょう」


すでにレンツ帝国海軍の巡洋艦が座礁して2ヶ月、レンツ帝国との交渉が決裂して1ヶ月だ。


当初は終戦記念日である8月15日までに解決の目処を立てることを目標としていたが、もはやそれは叶わないだろう。


「しかしヨルド会談でもそうでしたが、レンツは我々を対等と見なしていません。このような認識ではまともな外交交渉など不可能です。その後を考えねばならない段階です」


赤城 外務大臣の言葉を補完するような内堀 内閣官房長官の発言を受け、石橋 内閣総理大臣は少々食い気味に言う。


「戦争だけは絶対にさけなければならないわ、特に8月12月になんて最悪よ」


フリト帝政国もであるが、日本国もその経済状況は非常に低迷している。対外政策においては出入国をフリト帝政国との貿易に限定した鎖国政策を続けて2年が経った。


最近になって食料やエネルギー関連の、生活の基盤は徐々に固まってきているものの、まだまだ不足していることには変わりなく、また防疫の観点から自由な出入国は制限されている。


「もちろんです。しかしフリトが頼りにならない以上、我々がこの世界で積極的に動くには鎖国を解く必要があります。」


そんな赤城 外務大臣の言葉に反対するのは三須 生物災害対策防疫大臣だった。


「しかし、未だこの惑星の病原微生物が判然としません。もし現状パンデミックなんて起これば、今度こそ経済に回復できない規模の打撃ですよ」


その発言に山下 経済産業大臣が補足するように続ける。


「20年前のパンデミックによる経済的損失は、感染拡大とその対応施策で2020年の実質GDPは前年比4.8%減少で、これは日本特事による2040年の前年比マイナスの5分の1弱です。」


22年前に発生した世界的な生物災害での影響を最初に大きく受けた2020年をモデルケースとして、その比較対象に挙げられた日本国転移等一連の特異的不明事案の影響を受けた国内総生産の前年比は、2040年1月1日から同年12月31日までを期間とした数値であり、これは2039年と比較して22.78%ほど減少している。


しかし日本特事は6月末に発生したので、それまでの半年間は概ね例年通りの経済活動が行われていた。


では日本特事が発生した2040年6月28日から1年間の国内総生産を計算すると、前年の同期間と比べどれほど変化したのか。


国内総生産の統計は四半期毎に公表されている。ほんの数日ほど誤差が生じるが、四半期区切りで2039年の第三四半期(7月初め)から2040年の第二四半期(6月末)までの1年間と、2040年の第三四半期(7月初め)からからの同じ期間を比べてみる。


2038年の第三四半期から(7月初め〜翌年6月末)の1年間が648.5兆円であり、約0.6%上昇した2039年の第三四半期から(7月初め〜翌年6月末)の1年間の国内総生産は、652.4兆円である。


これを日本特事の発生と重ねた2040年の第三四半期(7月初め)から2041年の第二四半期(6月末)までの1年間を比べると、なんと前年比47.8%の減少である。金額にしてこの1年の国内総生産は340.1兆円だ。


そのため単純な年別、2039年と2040年の前年比約−23%で日本特事の影響を語るには不適切である。


ちなみに2041年の第一四半期(1月初め)から第四四半期(12月末)までの国内総生産は、国府田 前内閣総理大臣の打ち出した政策が功を奏し、上昇はしなかったが、急激な減少に歯止めをかけることに成功して338.9兆円であった。


国内総生産340兆円とは、国内総生産の年平均が10%以上の高度経済成長期とその後の安定成長期を経て、それらの恩恵たる潤沢な資金が日本銀行の市場銀行に対する金利引き下げという吹子の下に市場経済を熱狂させた、バブル経済真っ盛りの1988年が近似値である。つまり、半世紀以上も前だ。


「防疫もですが防諜でも課題があります。それに東京なんて特に、観光ができる治安ではありません。フリトの外交館を我々が警備しているレベルです。私からも、国境の解放は待っていただきたい。」


今度は三須 災害対策防疫大臣に賛同するように国家公安法執行議院長が続けた。


現在、旧首都圏政府直轄開発地の復興は瓦礫の除去も完了しておらず、崩れた街がそのまま放置されている地域も少なくない。そして、東京自治会が残した違法物品の数々と、彼らの残党や反政府思想を持つ浮浪者らはたくさんいる。


「しかしこのままでは沖ノ鳥島の交渉どころではありません。物の出入りだけでも増やさないと、」


もう現状の経済状況では鎖国政策は限界だ。江戸時代の江戸幕府ように、はたまた現代の中華人民共和国のような国であれば1国でもやって行けただろう。


それに、日本経済が直面しているのは地域紛争や国際情勢に伴う一時的なサプライチェーンの断裂とは比べ物にならないものだ。なにせ再構築するための別の相手がいないのだ。


「出島を作れれば良いんですが、そのような土地はどこにもないですからね。」


今日本が欲しているのは直接統治ができてかつ、本国と物理的に分断されていて、この惑星における対外政策の舞台に足り得る土地だ。


しかし、だからといって民主主義の旗下に平和の追求を国是とする日本国にとって、1世紀前の世襲君主政による帝国主義を起想させるようなことはあってはならない。国内の思想や主義主張の分断が目立つ現状にあっては尚のことだ。


「今は第三国に頼る他ありません。」


「セリトリムはどうなの?」


レンツ帝国とは国交は結べていないが、公式的な外交接触という点で未だ至っていない列強国はセリトリム聖悠連合皇国とエルテリーゼ大公国の2カ国のみだ。


後者は内戦中であるため不可能だろうが、前者に対しては国交樹立に向けた動きを取っている。


「マカルメニアを通じて接触を試みていますが、会談の返答はまだきていません。」


どうやらうまくいっていないらしい。以前のカムラ国際会議でセリトリム聖悠連合皇国の在マカルメニア大使とは伝手を作ることに成功した。


しかしこの国はこの国際情勢下で中立を維持している。そのためレンツ帝国との対立を煽るような行動はとりたく無いということだろう。


「とにかく早急の課題は沖ノ鳥島です。マカルメニアに第三国となってもらえるよう交渉しますので、レンツとの会談は早くても来年になると思われます。」

そろそろ終わりそうな第三章は不幸な展開で完結です。


初めてまともにルビ機能を使ってみました、


今回サブタイトルと内容がいつも以上に合ってないですねぇ。

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