第十一話・再戦−1
【新生歴1948年 8月3日 未明−−−ロブロセン王国 西部戦線 停戦合意境界線より13km地点】
王政への不信による武装蜂起を発端とした、ロブロセン内戦は休戦中であった。しかし休戦協定の法的拘束力が無き今、その戦端が再び開かれようとしていた。
[ユト大陸でのロブロセン王国と反王国体制派における軍事活動に関する一方ロブロセン王国宰相及びロブロセン王国軍総司令官と他方ロブロセン革命軍総大将及び諸外国義勇軍総司令官との間の協定]によって定められた停戦合意境界線は、破棄された今でも国境としての体を成していた。
この協定の破棄は内戦の再戦を望む、レンツ帝国の一方的なものである。そして、ロブロセン王国もロブロセン共和国を名乗る反体制派が実効支配を行う、ロブロセン王国西部を奪還したい考えがあった。
しかしロブロセン王国は、これ以上戦争という行為に自国経済が耐えられないことは知っていた。それに、ロブロセン内戦で王国軍の一部が反旗を翻したことで、王国政府とレンツ帝国政府からの王国軍に対する不信や、軍内部でも互いに疑心暗鬼になっていたりといったことがあったのだ。
拮抗状態ゆえの国境線の維持とは、このようななんとも脆い理由で成されていたのだ。しかし、レンツ帝国の陸軍部隊の進駐によって、釣り合っていた天秤の一方に重い錘が乗せられた。
「射撃開始」
「発射!」
「撃て!」
レンツ帝国より供与された野戦砲を備えた砲兵部隊。大隊長の攻撃開始の合図に呼応した4人の中隊長による各麾下部隊への射撃の指示は、それぞれ3人の砲長もとい小隊長へすぐさま伝わり、全12門の鋼鉄の筒が順に、腹に響く重い射撃音を響かせる。
同じような仰角で空を向く12門の野戦砲から目にも止まらぬ速さで穿たれた砲弾は、音だけを残して停戦合意境界線を悠々と飛び越えていく。
「再装填!」
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【新生歴1948年 8月3日 未明−−−ロブロセン共和国 東部戦線 停戦合意境界線より9km地点 東部戦線司令部】
ロブロセン共和国は停戦合意境界線を監視するため、そこから3kmの場所に等間隔で前哨基地を置き、ロブロセン王国軍の動向を監視していた。
「4前哨が砲撃を受けています」
「撤退させて正解だったな。」
1時間前、第4から第6までの2つの前哨地が管轄する停戦合意境界線の沿線、距離にして8kmの区間にロブロセン王国軍の集結を確認していた。
報告にあがっているだけで砲兵部隊が2個大隊規模、歩兵部隊が1個師団規模だ。兵力の少ないロブロセン共和国は敵砲兵部隊の射程内と思われる基地に撤退を指示していた。
「司令、8前哨が王国の航空戦力を確認しました!」
ここ東部戦線司令部は停戦合意境界線から9kmほど離れている。そして、3kmの距離を開けそれに沿って設けられた前哨線には4kmの間隔で前哨基地が置かれており、第8前哨地はここ東部戦線司令部から北東に進んだ場所に位置している。
「我が方の砲兵陣地に対するものと思われます、司令!」
「砲兵陣地はなんとしても守るんだ、」
もしもここで砲兵陣地を敵航空戦力に攻撃されれば、第4、第5、第6前哨地の管轄区域から越境してくるであろう敵歩兵部隊に対する効果的な対抗手段を失うことになる。
おそらく敵はそのために航空戦力を持ち出してきたのだろうが、こちらも無策ではない。フリト帝政国から対空火砲の供与を受けている。
「司令!敵機甲部隊を確認しました!」
「戦車か、」
ロブロセン共和国側は、想定してはいたもののここまで早い侵攻がある可能性は少ないと見積もっていた。ロブロセン王国の機甲部隊へは、フリト帝政国からの対戦車砲の供与で対策しようとしていたのだ。
しかし供与された対戦車砲はまだ配備されていない。ロブロセン共和国軍東部戦線司令官の顔には焦りの表情が浮かぶ。
しかし、続く部下からの報告は彼をさらに青ざめさせた。
「自走砲を確認しました!」




