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日本国の指針〜第五世界との接触  作者: 虎石双葉_こせきふたば
第三章・環ナマール=ユト緊張
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第十話・ヨルド会談−2

【西歴2042年 7月14日 未明−−−ナマール海上 ヨルド諸島より西420km地点】


「対空目標探知、本艦の30度、58マイル、機数1。当隊の右舷を通過する」


液晶画面にはその対空目標が、報告が省略された高度と速度といった情報と共に表示されている。針路を維持すれば当隊、第1護衛隊の右舷遠くを通過する的針だ。


その報告はすぐさま艦内電話で艦橋に伝えられ、第1護衛隊司令官に伝えられた。


「むこうから接触があるまで、まてばいいだろう」


軽航空母艦かがの艦橋の左側に置かれる、赤いカバーが被せられた席に腰をおろして言う。


「この世界のEEZは410kmだそうですから、既にレンツの哨戒域内と考えられます」


この世界は地球よりも2倍以上大きく、そのため排他的経済水域やそこに含まれる領海も非常に比較して非常に大きい。具体的には、こちらも約2倍の海岸からそれぞれ410kmと40kmだ。


「UAV以外は戻そうか」


海図がまだ信用できるものでは無いため、目で見て確認するべきであるが、他国の排他的経済水域内で航空機の離発着を行うことは避けるべきだ。挑発行為と取られてもおかしくないものである。


すぐ後ろに付いて航行する強襲揚陸艦せきには、隊司令の判断で帰投した航空機が次々に着艦していく。第301機動輸送飛行隊のMH−60R多用途艦載ヘリコプターだ。


今回は戦闘機を運用する支援飛行隊は載せていない。その代わりに甲板下の格納庫には20型と40型の26式特殊コンテナなどが複数積み込まれている。


そして外交官たちが乗っているのも同じ強襲揚陸艦せきだ。


しばらくして、艦隊は排他的経済水域の境界である410kmを超える。


「先ほどの対空目標が転針、当隊にまっすぐ近接する」


「当該機より入電、『こちらは帝国海軍哨戒機である。貴艦は我が国の経済水域を航行中である。所属と航行目的を明かされたい。』」

__________


【新生歴1360年 7月14日 明け方−−−レンツ帝国ヨルド諸島 ヨルド海軍基地】


朝日と共にやってきた日本国の艦隊は注目の的であった。


フリト帝政国の属国と思われていた新興国家が、小型であるが航空母艦2隻を基軸とした総数6隻の艦隊でやってきたのだ。


先行するものが特に、その艦艇は今までに見たことのないような姿形をしている。武装が非常に少なく、しかしそれに比べてかなり大きな体をしていた。


基幹であろう航空母艦2隻を護衛している艦艇3隻は同型艦ではないようで、先行する薄灰色のものが特に目立つ。フリゲートだろうか。


「空母2隻に護衛が3隻だけか、武装も大したことないな。」


戦艦、最近では航空母艦もそこに加わったが、海軍組織においてこれらの艦種は花形、その海軍の象徴とも言えるものだ。


「見栄を張った余り、護衛の駆逐巡洋まで手が回らなかったんでしょう。」


内海での哨戒任務や連絡業務を担当するようなフリゲート艦が、航空母艦の護衛をしているのだ。相当に状況は悪いのだろう。


自身の執務室から、窓越しに双眼鏡を覗いてそう話しているのはヨルド海軍基地の基地司令官と参謀長だ。


「報告ではベリモーの時に来た日本艦隊も、あの巡洋艦とほとんど同じやつだそうです。」


「確かあの時も5隻程度だったらしいな。」


「えぇ。我々の潜水艦を追い回したのが1隻いたので、途中で分離したんでしょう。日本の艦隊運用は6隻を基本としているのかもしれませんね。」


「少ないな、水上部隊の一個戦隊規模じゃないか。」


「やはり日本は特に心配しなくてもいいでしょう。」


すると、部屋の扉がノックされる。入室を許すと下士官が1人姿を表した。


「司令、外交官の方々がお待ちです」

__________


【西暦2042年 7月14日 朝−−−ナマール海上 ヨルド諸島より西10km地点】


強襲揚陸艦せきの艦内の一室に、外交官たちが集まっていた。今回の会談は滝沢 輝 外交官が担当することになっている。


強襲揚陸艦は、それを基幹とした艦隊編成で着上陸作戦を行うことも想定している。そのため軍艦としては珍しく、用途の定まっていない大きめの多機能部屋が設置されている。


「資金拠出は無理でも、最悪作業の主導権だけはなんとしても通さなきゃならない」


今回の会談で日本国側が要求するものは、全面的な資金拠出とサルベージ作業の主導権、そして全てが終わった後でレンツ帝国との国交樹立に向けた場の設置だ。


帝国海軍の巡洋艦ベリモーが座礁した沖ノ鳥島は、沖ノ鳥島保全法こと排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する法律や、海岸法に基づく海岸保全区域などの法律とその制度によって守られている場所だ。


日本国では生物多様性基本法や生物の多様性に関する条約などに基づき、環境省が策定した生物多様性保全戦略を基として、様々な法律や制度、取り組みによってこれらを保護している。


それに、排他的経済水域を主張する都合もある。


これ以上沖ノ鳥島を損傷させるわけにはいかないのだ。とりわけ、この世界の領海と排他的経済水域は地球よりも2倍ほどの広さがある。


日本国の西側にはフリト帝政国があるためあまり期待できないが、旧太平洋側、日本国の東側は元々公海であり、排他的経済水域と領海を増やせるチャンスなのだ。そんな時に沖ノ鳥島を失いたくはない。


「レンツ帝国は列強国ですから一筋縄ではいかないでしょうが、資金拠出を捨ててでも、共同作業の主導というのは最低の条件ですね。」

__________


【新生歴1948年 7月14日 昼過ぎ−−−レンツ帝国ヨルド諸島 ヨルド海軍基地 会議室】


「これ以上話し合っても埒が飽きません。一度休憩をとり、改めて話し合いましょう。」


先ほどまで続いていた1時間以上の話し合いで、日本国が合意したのはこの言葉だけであった。


レンツ帝国側が日本国に求める事項は3点、資金の拠出と周辺地理や自然環境の情報、そしてサルベージ作業の主導権である。


日本国にフリト帝政国との友好的な関係がある以上、軍事機密である巡洋艦を調査できる状況はなんとしても避けなければならない。


「日本側が折れる様子はありません。もしかしたらこの時間稼ぎがフリトの狙いなんじゃないでしょうか?」


「本省からは、1ヶ月以内に解決の目処が立たなければ、本件を軍に委任すると連絡が入ってます。」


実力行使も考えているということだ。いや、現状ではその可能性の方が高いだろう。ユト大陸でのロブロセン情勢を考えれば妥当な結論だろうか。


「あれはただの珊瑚礁です。あれを領土としての領有は、認められるものじゃないですよ」


本件における日本国との合意は無理だろう。これ以上話し合っても時間の無駄だ。それにまだ不確定だが、情勢と外務省の態度、ここヨルド海軍基地の様子を見ればなんとなくわかる。


我が国は近いうちに宣戦布告を行うのだろう。それがロブロセン反体制派に対するものなのか、フリト帝政国に対するものなのかはわからないが。


「我々が折れるつもりは無い。日本が認めないなら、それまでだ。」


フリト帝政国による時間稼ぎという可能性がある以上、平行線の会談を続けることはできない。

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