第八話・問題解決に向け
時差計算がぐちゃぐちゃです。途中で間違ってる疑惑が出てすぐに諦めました。あってるか間違ってるかも確認してません
【新生歴1948年 5月22日 昼過ぎ−−−レンツ帝国ヨルド諸島 帝国海軍ヨルド基地】
レンツ帝国の帝国海軍におけるナマール海での活動の要所、ヨルド海軍基地。
近年の情勢悪化に伴う配置換えで、現在は西部防衛軍第9艦隊を中心として、他にも南部防衛軍第5艦隊の一部部隊が駐留している。
司令部の廊下を歩く男は気が立っていた。
ほんの数時間前、巡洋艦の一隻が座礁したのだ。
「被害は巡洋艦一隻だけだな?」
「いえ、ベリモーの他に、フリト駆逐艦に体当たりして艦首を凹ませた駆逐艦がいますので2隻です。」
とは言っても駆逐艦ネリバートンの被害は小破で収まっている。
「で、日本とかいったか?フリトの衛星国じゃないか。全く面倒なことになったぞ」
すると引き連れられた部下が切り出す。
「そのことですが、本国が今回の件で日本との会談を検討していると通達がありました。」
「ほう。フリトはなんと言ってる?」
「まだなにも。本国からは日本の情報をできる限り集めろとのことです。」
ここでようやく、目的地である執務室に到着した。部下が前に出て扉を開けると、自身は足を止めることなく部屋に入り、自分の執務席に腰をおろす。
「ベリモーの周囲にいる日本の軍艦はどうなんだ?」
「情報では9隻を確認しているそうです。フィルムが届き次第、現像して報告します。戦艦と空母は確認されず、全てフリゲートや駆逐艦だそうです。」
現在巡洋艦ベリモーが座礁した地点にいる帝国海軍の艦艇は、西武防衛軍第7艦隊の第53巡洋戦隊、同第19駆逐戦隊と同第27駆逐戦隊の5隻と8隻がいる。計13隻だ。
南部防衛軍第5艦隊の第68巡洋戦隊と同第69巡洋戦隊の巡洋艦9隻はヨルド海軍基地に帰投中である。
「わかった。ネリバートンの二の舞だけは避けろ」
__________
【新生歴1948年5月22日 深夜−−−レンツ帝国帝都パルメッツ 帝国軍参謀本部】
夜遅くにも関わらず、帝国軍の総本山では軍人が慌ただしく動いている。
12時間ほど前、今日の昼前であるが、現地時間で23日の未明に帝国海軍の巡洋艦が一隻座礁した。問題なのは、フリト帝政国と一触即発の状況にある中でフリト帝政国の衛星国の島に座礁したということだ。
「参謀長、外務省がヨルド基地での外交会談が可能かどうか聞いてきてます」
「ヨルドで?なんでだ、」
「もし会談をするなら、やっぱりマカルメニアでなく、ヨルドで行いたいそうです」
政府内では、日本国とは会談を行う方針が決まりつつあるが、そもそも日本国側からはまだ外交的接触は無い。
現在、日本国と国交を有しているのはフリト帝政国、マカルメニア民主国、ルロード共和国、セント人民共和国、ペント・ゴール帝国の5ヶ国だ。
そのうち、現在対立しているレンツ帝国とペント・ゴール帝国。そしてこの二ヶ国と親しいセント人民共和国を除けば、第三国として期待できるのはルロード共和国とマカルメニア民主国だ。
だがルロード共和国は東側にエルトラード皇国を打ち破ったフリト帝政国と国境を接しており、西側に面するガルム洋はセリトリム聖悠連合皇国とペント・ゴール帝国の庭である。
ペント・ゴール帝国はロブロセン共和国に対する陸軍部隊の派遣を決定しているが、その輸送にはガルム洋を通る航路を選ぶだろう。現状でのペント・ゴール帝国のガルム洋における警戒は相当に高いものと予想される。わざわざ刺激するようなことは避けたい。
そうなると政治的、外交的に好都合で、ナマール海の島国である日本国との位置関係を考慮して地理的に近いヨルド諸島が、最も適しているというわけだ。
最初はマカルメニア民主国での会談も話に上がっていたそうであるが、3ヶ月前のカムラ国際会議の件があるのでなるべく避けたいらしい。
「会談自体はできるだろうが、日本の船舶の入港に関してはまだ何も言えん。」
「おそらく日本も軍属船舶で来るでしょうし、国交がありませんから、入港は拒否しても問題にはならないと思います。」
カムラ国際会議では各国ともに民間船舶や非武装の輸送艦で来国していたが、ボルボ橋事件の直後だ、そんなことを言っていられる状況でもないだろう。
___________
【新生歴1948年 5月23日 深夜−−−レンツ帝国帝都パルメッツ 大統領官邸】
昨日に引き続き深夜まで灯りの消えない中央省庁、とりわけ今回の件の大部分を所管する軍事省と外務省は激務であった。
マカルメニア民主国を通した日本国からの外交文書が、今日の夕方に届いたことで、予定していた大統領官邸での大臣会合が先延ばしとなって現在、深夜の日付変更直前だ。
「日本国は会談場所にルロード共和国かマカルメニア民主国を求めています。」
「マカルメニアでは絶対にできない。」
なにしろ3ヶ月前に本来ここにいるはずの者が1人、殺害されたのだ。
「はい。そしてルロード共和国も現実的ではありません。」
大統領と言葉を交わす、臨時に外務大臣へ繰り上げとなった元外務副大臣は続ける。
「こちらからはヨルド海軍基地を候補とする旨、伝えるつもりです。」
「日本はフリトの衛星国だそうじゃないか、フリトはなんて言ってるんだ」
「今回の件で、フリト帝政国の干渉は今の所確認されていません。」
基本的に衛星国に外交権が認められる例はあまりない。時代によって変化するかもしれないが、少なくとも今回のような件で宗主国が一切の存在を見せないことはまず無いだろう。
「そうか、どっちにしろ、ロブロセンにペンゴ陸軍が来る前に解決しなければならん。」
ロブロセン地域にペント・ゴール帝国の帝国陸軍が到着する12月上旬までの約半年、この間に事態を解決させることは難易度が高い。
「まだ座礁の程度も、日本との会談の行方も不透明な現状では、たった6ヶ月で事態収束を図ることは非常に難しいと思われます。」
とそこへ軍事大臣が割って入る。
「少なくとも、フリトが介入してくる前になんとかするべきです。鹵獲されることだけは絶対に避けなくては、」
大統領は少し考えてから口を開く。
「日本との会談はヨルドを提案して、すぐにでも返答してくれ。日本との話し合いがなければ現状前へ進めない。」
日本国はフリト帝政国の衛星国であるそうだが、フリト帝政国が介入してこずに日本国から解決に向けた外交会談の申し出があったことは、非常に好ましい状況だ。
このままフリト帝政国が顔を出す前に駒を進めたいところだ。フリト帝政国が日本国を通じて、又は直接的に帝国海軍の巡洋艦を鹵獲しようと動くことも考えられる。
「おそらく日本はフリトに対して小さくない配慮が要されるはずです。我々も慎重に動かねばなりません。」
「しかし日本に関する情報が無いのが痛いところだ。なにか無いのか?」
「日本は閉鎖的な外交政策をとっていて、外交窓口もフリトかマカルメニアにしか設置していないので不明な点が多いんです。まるで一昔前のセリトリムです。」
「本国の場所くらいわからないのか?」
「フリトの東側、西ナマール海上の島国ということしか情報がありません。もう一度情報を精査させて、改めて報告します。」
__________
【西暦2042年 5月28日 昼前−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地政令指定特別区域 首相官邸北棟3階 総理執務室】
「人員の選定は1週間もあれば可能でしょうが、会談の準備には3週間はかかります。レンツとは連絡網も確立できてませんので、一回の連絡でも数時間から数十時間がかかってます。−−−」
閣僚会議の直前、閣僚らは総理執務室に集まっていた。
「−−−なので最短でも、2ヶ月弱は欲しいです。」
レンツ帝国の巡洋艦が座礁してもうすぐ1週間になる。当初は帝国海軍もかなりの数の艦艇を派遣していたが、人命救助が終わってからは数を減らし、現在は1隻までに減っている。
これはレンツ帝国政府との話し合いの末決まったものだ。向こうからすれば、日本国とは国交を有さず、そして対立するフリト帝政国と関係深い国だ。
自国の巡洋艦の状態を継続した監視下に置きたい気持ちもわかる。しかしその場所は日本国の領土である。艦隊規模で常駐しているのを容認するわけにはいかない。
結果的に、外交会談が実現して両国の同意によって巡洋艦の処遇が決定するまでの間、日本国とレンツ帝国は巡洋艦に対するいかなる接触も行わない。レンツ帝国による日本国の領海内における監視活動は、同時に軍艦1隻までとするという合意に至った。
国交もないので法的拘束力などはない口約束であるが、フリト帝政国との関係があるので、お互いに関係を悪化させるような行動が取れないことが違反に対する抑止力となっている。
「会談の時期は9月を目処に考えましょう。次に会談の場所についてですが、レンツ側がヨルドの海軍基地が候補地として提案してきました。」
これは日本国側も予想していたものだ。提案したマカルメニア民主国については、理由など言わずとも良いだろう。そして地理的に考えて、ルロード共和国は単純にお互いから遠い。他にも理由があるのかもしれないが、
それに問題の座礁事故は西大平洋上、この惑星での西ナマール海で発生したものだ。問題解決に向けた外交会談をナマール海の島で行うことは、普通に考えておかしなことではない。
レンツ帝国側の状況が不確かだったために、配慮して記載しなかっただけで、日本国側が考える候補地にはマカルメニア民主国とルロード共和国の次に、ヨルド諸島があった。
「向こうからの提案であれば、ヨルド諸島を回答しましょう。」
石橋 内閣総理大臣の決定に異論はないようだ。
「次に輸送に関してですが、−−−」
そう発言したのは朝比奈 国防大臣だ。
「今回も国防軍が行う想定です。しかしナマール海での情勢を鑑みて一桁護衛隊を動員するべきなのですが、そうなると国防にどうしても穴が開くことになります。」
「空路では無理なの?」
「日本からヨルド諸島までは一万キロ弱の距離があります。ヨルドで燃料の補給が可能と仮定すれば空中給油でなんとかいけるかもしれませんが、広いナマール海の上で空中給油をするのであれば、結局空母を使うことになります。」
この広いナマール海の上で空中給油をしようとすれば、海外で使用できる空港がないため空中給油機自体も航続距離が足りない。
すると必然的に航空母艦をプラットフォームにして空中給油機を使用するしかない。
結局航空母艦を使うことになるのであれば、初めから海路の方が安く済む。それに、ヨルド諸島で燃料の補給ができるかどうかもわからないのだ。
「使える空母は?」
現在、国防海軍が擁する現役の航空母艦は軽航空母艦が1隻、通常動力の正規航空母艦が2隻に、同規模の原子力航空母艦が同数である。洋上における航空機展開能力という点で言えば、この5隻に強襲揚陸艦と輸送揚陸艦が2隻づつ加わる。
この計9隻から訓練、任務、定期修繕のローテーションを考慮して運用できるのは軽航空母艦が1隻、正規航空母艦が1隻、原子力航空母艦が1隻、強襲揚陸艦が2隻に輸送揚陸艦が1隻の計6隻だ。
ここからさらに母港と管区を考慮すると、まずこの中の原子力航空母艦は鶴舞基地を母港に旧日本海側を担当区域としているので除外される。
通常動力型の正規航空母艦は、佐世保基地を母港として旧東シナ海方面を担当区域としている。現在ロブロセン情勢が悪化しているため、この地域から航空母艦を移動させることはしたくない。
そうなると消去法で、運用できるのは軽航空母艦の1隻となる。
「第一国防艦隊の軽空母が一1隻、1護隊のかがが使えます。ただそうなれば、−−−」
朝比奈 国防大臣の目配せを受け、石橋 内閣総理大臣の質問に答えたのは矢賀 国防総軍統合参謀総長だった。
予算的に、原子力航空母艦か正規航空母艦を使うとなれば護衛の戦術艦艇、ミサイル駆逐艦やミサイル巡洋艦などの戦闘艦艇や補助艦艇等は使える数に限りが出る。
しかし軽航空母艦となれば話は変わってくる。逆に前述の戦略艦艇よりも少ない搭載機数を補うという意味で、強襲揚陸艦や輸送揚陸艦を部隊に加えることも考えねばならない。
となると、原子力航空母艦や軽航空母艦を基幹とした部隊を運用するよりも
「−−−通常よりも隻数が増えるかもしれません。ヨルドでの補給が不可能と考えれば尚更です。」
おそらく第1護衛隊にはかなりの数の艦艇を追加することになるだろう。二類ではなく三類艦隊で編成をしても良いくらいには。
すると再び赤城 外務大臣が発言する。
「弱腰の印象を与えるのは避けたいところです。」
現地で働く外交官曰く、どうもこの惑星の外国人は日本国をフリト帝政国の属国や衛星国だという印象を持つそうだ。
衛生面や技術の保護といった考えの他に、日本国転移等一連の特異的不明事案によって多くの外交官が失われた。よってこの惑星にやってきてからの2年間、日本国は玄関口を大きく開けることができず、消極的な外交方針、外交政策を取らざるを得なかった。
「今回のレンツの態度は高圧的ではありませんが、それは後にフリトがいると思われているからです。過小評価されることは、いらぬ争いを招くことにもつながります。」
レンツ帝国は現状ではフリト帝政国との争いを避けようと考えているらしい。しかしこれが戦争に発展すれば、日本国の立地はレンツ帝国から見た時にフリト帝政国に対して大きく有利に働く。
つまり、軍事的抑止力においていつまでもその勘違いを利用することはできないというわけだ。
「そうね、それらを考慮して、編成を考えてちょうだい」
「わかりました総理。」




