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日本国の指針〜第五世界との接触  作者: 虎石双葉_こせきふたば
第三章・環ナマール=ユト緊張
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第七話・沖ノ鳥島緊張−5

【西暦2042年 5月23日 未明−−−日本国東京都小笠原諸島 沖ノ鳥島沖合 洋上】


「こちら日本国国防海軍である。現在我が艦隊は警戒任務にあたっている。キデア島東1800kmの西ナマール海上を航行する、レンツ帝国籍の海軍艦隊に告げる。我が国の領有する島に座礁した貴艦隊艦艇の安全を確かめたい。我々は乗員の救命活動に協力する準備がある。所属と航行の目的を明かされたい。」


この世界では意味を為さないだろうが、国連海洋法条約にはこのような旨がある。


座礁した船舶がある場合には当事国間での話し合いの上、その撤去等一連の事態対処においては、座礁した海域を領海又は排他的経済水域とする沿岸国が主としてこれに当たる義務がある。ここでの船舶は民間船舶と軍艦を特に区別していない。


明確な国際的取り決めは存在しないが、これはこの世界の国際慣習法でも同じような意味のものが存在しているそうだ。


つまりこの現在の状況において日本国側は、レンツ帝国の座礁艦に対する救命活動や撤去作業の支援を行う義務が発生している。


「応答ありません。」


駆逐艦たちばなを除いた第16護衛隊の5隻は、沖ノ鳥島沖合に到着しレンツ帝国の巡洋艦群と相対している。


「話し合いもできないんじゃどうすることもできんぞ」


お互いの言語を知らないわけではない。


この世界の言語は英語に非常に近い。文を構成する文字や文法には若干の違いがあるものの、単語や発音は似ているものが多いため意思疎通を図ることができた。


外務省ではフリト帝政国から講師を招き、この世界訛りの英語の勉強会なんかも行われている。


「もう一回呼びかけろ。」


それから2度ほどして、ようやく応答があった。


「来ました。『こちらはレンツ帝国海軍南部防衛軍第5艦隊所属、第68巡洋戦隊である。貴国の取り計らいには感謝するが、国交の無い中では我々だけで判断はできない。』」


その通りだ。日本国とレンツ帝国には国交が無い。この状況でフリト帝政国は、あまり頼れないだろう。そうするとマカルメニア民主国を第三国として何かしらの接触が行われるはずだ。


地球であれば国際海上人命救助条約や国際船舶安全法規、国際連合海洋法条約などがあるが、この世界では国交はもちろんそう言った国際的枠組みも存在しない。


国際的に効力の認められる規則が無い状況で、座礁した側が国交の無い国とのやりとりを、本国の判断を待たずしての独断はできないだろう。


加えて、向こうは日本国をフリト帝政国が支援する新興国家という認識でいる。レンツ帝国とフリト帝政国がユト大陸沖合で緊張状態にある現状を鑑みれば当然の判断だ。


「そうか。レンツ艦に打電、『人命救助に対応するため、また周囲の安全を確保するために我が艦隊はこのまま当海域での警戒任務を継続する。留意されたい。』」


との名目で海上警備行動を実施するが、日本国側の狙いは海上封鎖に近い。


環礁に座礁した軍艦が1隻と、すぐ近くで停止する同籍の軍艦9隻。その島を領有する国の軍艦5隻が周囲で警戒行動を実施。


当該2カ国が直接的な対立関係でないことが幸いであるが、フリト帝政国との関係が今後どのように作用するのか。

__________


【新生歴1948年 5月23日 未明−−−西ナマール海 海上】


「レンツ艦隊後方に新たな水上目標!」


「輸送艦隊だ、」


互いを主砲照準に収め停止する二つの艦隊の緊張は今も尚続いているが、一方の駆逐艦に損害が出てからというもの、これ以上の悪化を望まないという共通した考えが、双方の強行姿勢を軟化させていた。


「レンツ艦隊より入電『これ以上の緊張悪化は双方とも望むところではない。我が艦隊は現在地での停止を継続し、輸送艦隊がロブロセン王国に到着するのを確認した後に回頭する。我が方の輸送艦隊が通過するが、これに最低限の護衛艦艇が随行することを許容してもらいたい。』」


護衛としての軍艦は絶対条件で、許可を求めることはしないらしい。


「いいだろう、十分時間も稼げた。仕事は終わりだ。」


元々、フリト帝政国の帝政国海軍第1艦隊は帝政国陸軍がロブロセン共和国に展開するまでの時間稼ぎを目的としていた。


「レンツ艦隊に打電、『貴官の英断に感謝する。輸送艦隊への護衛艦艇は許容するところである。我が艦隊は輸送艦隊に対するいかなる敵対行為も行わないと約束しよう。』」


帝国海軍の輸送艦隊は同第9艦隊の後方で取舵を取った。このまま双方艦隊の左舷を迂回して進もうとしているらしい。


「長官、日本艦隊が北東に進路を取ったと連絡が入りました。」


「なんでまた今更?」


日本艦隊は、この第1艦隊の後方で待機していたはずだ。


疑問を浮かべていると、今度は帝国海軍の輸送艦隊について報告が上がる。


「長官、レンツ輸送艦隊の護衛が見当たりません。」


「何?連中、ここまで輸送艦だけで来たと言うのか?」


「おそらく以降の護衛は第9艦隊から抽出するつもりなんでしょう。」


「これまでの護衛はヨルドに転進でもしたんでしょうか?」


参謀たちが考え込んでいると、今度はオール・シャンロス海軍基地からの通信が入った。


「長官司令部からです、日本の島にレンツ巡洋艦が座礁しているとのことです!」


その報告でこれまでの疑問が解決した。


日本艦隊と、レンツ帝国の輸送艦隊をそれまで護衛していた部隊はその島へ向かったのだろう。


第一艦隊もその島へ向かうべきだろうか?しかし目の前にはまだ帝国海軍第9艦隊がいる。


「シャンロスからの指示もありません。我が艦隊が日本の島に向かう道理はありません。」


参謀の1人がそう告げる。確かにその通りだが、もしレンツ帝国が日本国と戦争になり、離島の1つでも占領してしまうかもしれない。


そうなればフリト帝政国へ向かう足がかりが増えてしまうことになる。


ヨルド王国がレンツ帝国領になってから、ナマール海におけるパワーバランスが大きく変化した。これ以上レンツ帝国側にそれが傾く状況は避けなければならない。

[虎石_こせき]です。


[日レ小笠原沖緊張]を章タイトルにすれば良かったと後悔しております。

次の投稿が今年度最後です。

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