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日本国の指針〜第五世界との接触  作者: 虎石双葉_こせきふたば
第三章・環ナマール=ユト緊張
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第六話・沖ノ鳥島緊張−4

【新生歴1948年 5月22日 夕方−−−西ナマール海 海上】


少し時間を戻す。


「鈍足だな。」


「きっと我々を見失ったんでしょう」


海面下を泳ぐ潜水艦アーバン・レーイは、フリト帝政国籍と思われる船舶を追跡していた。


少し前、当該の船舶が自艦に接近しアクティブソーナーを発射した。その後しばらく追跡されたが、直後回頭したため後方から追跡する判断を下した。


それまで絶えず発射し続けたアクティブソーナーも無くなったため、おそらくやり過ごしたのだろう。


立場が一転し、狩る側に回ったことで艦内には緊張感はそのままに、同時に安心といった感情が同居していた。


そんな彼らを地獄の底に陥れるかの如く、一つの音が鳴り響いた。


キーン


「まずいな、バレたか」


しかし、艦後方を占位するのはこちらである。そこまで焦る必要はない。


「爆雷がくるかもしれん一度距離をとって−−−」


「艦長!−−−」


艦長の指示を遮って発言されたその報告は、一瞬にして艦内の空気を最悪なものへと塗り替えた。


「−−−ソーナーは、、、後方からです。」


「は?なんっ、だと」


艦長も焦りを隠せない様子だ。


「潜水艦か?フリトの?いつ現れたんだ!」


推進力を発生させるものは雑音を発生させる。よってアクティブパッシブを問わず、その方向にソーナーは使えない。つまり艦尾は潜水艦に対して死角となる。


キーン


もう一度、同じようにソーナーの音が響き渡る。


「こっ、今度は左舷からです!」


前方には追尾していた水上艦艇、そして後方と右舷にも艦艇がおり、囲まれている。状況は芳しくない。


「速力を落として、面舵をとる!」


キーン


再度、艦内に音が響く。


「艦長っ、ダメです。右舷からも、ソーナーが発射されています、、、」


「全方を、囲まれたのか?」


これほどまでに精密な連携を、潜水艦が取れるとは考えられない。見落とすはずもないが、水上艦艇という可能性もある。3方を潜水艦に囲まれるという方が考えにくい。


「敵艦の距離は?どこからでてるんだ」

__________


【新生歴1948年 5月22日 深夜−−−西ナマール海 海上】


「本艦前方、数メートルに環礁!」


その叫びは艦に緊張をもたらす。


「なんだと?!−−−」


横陣で征く10隻の艦隊の前に突如として現れた浅瀬は、その内の左から2隻が回頭を余儀なくされる相対位置にあった。


「−−−面舵いっぱい!後進いっぱい!」


左から2隻目の巡洋艦では、艦長の咄嗟の判断によって目前で大きく右に舵を切り、推進力を負に転じる。


「総員衝撃に備え!」


怒鳴るような熱のこもった指示が響きわたると、艦内の者らは緊張から口を開くことなく、近場の手すりやパイプに身を寄せる。


誰一人として口を開かずとも、振動を伴ってかつて無いほどにエンジンが甲高い唸り声をあげている。


20ktnほどの推進力を生み出していたエンジンを突然、逆に最大回転させたのだ。かつてないほどの負荷がかかっているはずだ。


「ぶつかるぞ!」


左舷甲板でそう声が上がった。見れば環礁との距離は1メートルを切っている。


喫水線下から何かがぶつかるような、擦れるような、砕けるような音が聞こえてくる。耳を覆いたくなる不快な音だ。


「どうだ?」


しばらくしてその音は消える。


「回避しました!」


その報告に皆安堵し、胸の内に溜めていた息を漏らした。


「艦長、ベリモーが座礁しました!」

__________


巡洋艦ラズーアが回避運動を始める頃、横陣の最も左で航行していた巡洋艦ベリモーも目前で浅瀬を発見していた。


「ダメです!衝突します!」


「衝撃に備え!!!」


直後、船の底から押し上げられるような衝撃が走り、激しい衝突音が鳴る。


エンジンを逆にして最大に回転していても落ちなかった速力が、瞬時にして0まで低下する。


「状況は?」


あまりの衝撃に平衡感覚を維持できず、気づけば目の前には鉄の床があった。頭を抱えながら立ち上がる。気づけば床自体、若干傾斜しているようだ。


「そこまで大きくなかったな、、、」


予想していたよりも衝撃は大きくなかった。おそらくこの浅瀬は脆い環礁で成っていたものなのだろう。


「乗り上げたか、エンジンは?」


まずは船の命たる推進力だ。これが始動しなければ曳航しか無い。


「艦橋機関室、エンジン動くか?」


『衝突の衝撃で破損した模様!現在故障箇所を捜索中!』

__________


「ラズーア、エルバートン、リモークス回避成功、ベリモーが座礁しました!」


横陣の10隻は突如として現れた浅瀬に対し、進路上にそれが当たる左の2隻の他、安全を期すため、2隻の回避運動の邪魔にならないようにと他2隻も同様に右へ舵を切っていた。


それまで横一直線に整然と並んでいた10隻の陣形は崩れ切ってしまった。


「無線を、ベリモーの被害状況を把握しろ。艦隊てーし!」

__________


【西暦2042年 5月22日 深夜−−−日本国栃木県 国防省本庁舎地下2階 統合司令室】


『レンツ艦、一隻が座礁しました』


前面壁に構える巨大なモニターに向かって、徐々に床が下がる階段状の映画館に似た空間、統合司令室。


そこは今、混乱の最中にあった。


「面倒なことになったぞこれは、、、16護隊はどれくらいで着くんだ?」


『16護衛隊、40分で沖ノ鳥島沖に到着します。』


おそらく相手のレーダーには写っている距離だ。未だ正確な数字は判明していないが、調査の結果、この惑星は地球の2.4倍ほどの大きさがあるそうだ。


対水上レーダーは数百キロメートルまでの敵を探知できるなどと言われる。


しかし理論上は可能であろうが、電波の性質上実際に使用するとなれば地平線までの距離が探知できる距離となる。


国防海軍が運用する護衛艦や巡洋艦、駆逐艦などの対水上レーダーは通常、艦の喫水線上25から30mの高さに設置してある。地球ではこの高さから見た時の水平線とは最大で20kmを超える程度だ。


数値は大きく変化するが、対空レーダーでも同じことが言える。つまりどれだけ性能を向上させても、上限である水平線までの距離が変わらない伸びない限り、一定以上の性能には向上させる意味が無いということだ。


余談であるが海上自衛隊時代に、ヘリコプター搭載型護衛艦を航空母艦として運用できるように改修したというのは、こういった理由もある。観測地点が高いほど、伴って水平線までの距離も伸びるというわけだ。


しかし、この惑星に置き換えると同じ高さで水平線を観測した場合、それは30kmに及ぶ計算となる。


「そろそろレーダーに写る頃だろう。くれぐれも戦闘にならないように頼むぞ」


斗座真 海十 統合司令室長の念押しに、同じ幹部席に座る三水 洋 横須賀地方総監が応える。


「えぇ、伝えます。」


国防軍の作戦行動では、場合によっては運用される部隊を麾下とする地方司令部級の首脳が統合司令室へ出向くこともある。


ちなみに、国防軍で最も地位が高いのは国防総軍統合参謀総長である。しかしこの地位の者は、基本的に国防大臣と共に内閣総理大臣の軍事的顧問として補佐することが仕事である。


つまり、有事の際に国防軍を指揮する最高責任者は、統合司令室長ということになる。


「それで、潜水艦の方はどうなってる?」


『16護隊から駆逐艦たちばなが分離し追跡中です。現在、海防隊を向かわせています。』


「三水総監、−−−」


国防海軍の制服を身に纏った一人が幹部席に座る三水 横須賀地方総監に、後ろから声をかけた。


一方は腰を屈めて、もう一方はその者に向けて体を捻り顔を後ろに向けて、何やら話し込んでいる様子だ。


「−−−わかった、この2隻だな?」


どうやら話は終わったようだ。自身のタブレット端末を眺めながら、今度は声を向ける対象を斗座真 統合司令室長に変える。


「室長、フリト帝政国から巡洋艦群についての情報提供です。艦番号を確認した横陣左側の2隻についてです」


P−1Gが確認した艦艇番号を元に、フリト帝政国から提供された情報と照らし合わせたようだ。


「座礁したのはレンツ海軍の艦艇番号441、ラブドレイク級巡洋艦の4番艦、ベリモーだそうです。詳しい性能についてですが、排水量約16,000トン、武装は3連装の200ミリ砲を3基、対空火砲に20mm機関砲と40mm機関砲などがあると、」


「そうか。で、座礁して動けるのか?」


「状況から見て恐らく完全に乗り上げたか、主機に損傷が発生したものと思われます。」


「そうか、、、」


斗座真 統合司令室長は考え込む様子を見せる。直後、突拍子の無いことを言い始める。


「鹵獲、はできるか?」


「鹵獲ですか、分かりません。しかし敵の艦隊がおりますので、そうやすやすと許すとは思えません。」


とそのようなことを話していると、同じ幹部席に座るものが割って入る。


「レンツ艦隊は状況から見て、無害通航権を有するとは言えません。そして巡洋艦を衝突させての環礁の破壊とは、我が国に対する武力攻撃と解釈することができます。」


上 淳一 統合軍戦略兵器運用管理軍団幕僚総監だ。


「しかし座礁した艦を残して艦隊を撤退させるなどできるとは思えません」


三水 横須賀地方総監の発言に対して反論する。


「現在、海上警備行動中で、各方面共に艦隊レベルで警戒行動を実施中です−−−」


上 統合軍戦略兵器運用管理軍団幕僚総監は、第16護衛隊に加えてそれを向かわせればいいと発言する。


しかし、それでは更なる対立の芽を生みかねない。緊張状態が加速する可能性がある。そう発言しようとした三水 横須賀地方総監の反論に被せるように続ける。


「−−−太平洋側にも警戒行動中の部隊がいます。」


「訓練航海中だ。まだ戦力としては使えないんじゃなかったのか?」


第一国防艦隊の第1護衛隊は訓練航海を行っており、これは今年の9月までを予定している。とてもこのような状況において運用できる状態ではない。


「えぇですから1護隊ではなく、三類二級の第421が近海にいるじゃないですか」


「確かに、向こうからすれば空母のようなものですね。」


「レンツとフリトの艦隊の動きによっては、強行的な手段も考えておくべきか、」


[虎石_こせき]です。


国防軍の装備の設定です。シリーズで紐付けた[【設定】日本国の指針〜第五世界との接触]に小分けにして投稿しました。国防海軍の潜水艦の潜航深度は公表値が200mとちょっとらしいですね。本当かは知りませんが、

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