第三話・政界の闇
【西暦2041年9月31日 夕方−−−旧首都圏政府直轄開発地東京地区 政令指定特別区域 公道上】
日本国旧首都圏政府直轄開発地政令指定特別区域。旧東京都区分でいうところの千代田区にあたる場所だ。
そんな日本国の中枢で、交通規制の敷かれた公道を悠々走る車列がいた。皇居にて新任式を受け、首相官邸へ向かう石橋 内閣総理大臣が乗る車も勿論この車列に含まれる。
「7月の襲撃事件で2ヶ月伸びましたが、よく1年も引き延ばせましたね、」
そう問いかけるのは同じ車両に乗る内堀 内堀内閣官房長である。
「日本特事の混乱のせいよ、あの状況で総選挙なんてできるはずないじゃない」
これから行われる就任記者会見の原稿を読みながら呟く。
「表向きはそうでしょうけど。しかし、国府田をあそこまで留めておく理由もなかったでしょう?」
国会での国府田 内閣不信任決議案の可決は遷怜8年7月16日、石橋 和美が指名された内閣総理大臣指名選挙は今日、遷怜9年の9月31日だ。
つまり、第40年次職務執行内閣は1年と2ヶ月続いたことになる。これは今までに類を見ない。
最高法規である日本国憲法をはじめ、日本国の国内法では内閣不信任決議案の可決から内閣総理大臣指名選挙までの期間に関して、可能な限りの迅速な実施が規定されている。
だが具体的な日数に関しては規定が無い。
これはつまり、他2つの分立権力、立法権を有する国会や司法権を有する裁判所、そして国家を形成するに至る最も重要な要素である民衆や、第4の権力とも言われる報道機関らが支持又は、黙認する限り、超法規的解釈によって1つの内閣の恒久的な継続も可能ということだ。
しかし、これはあくまで法的にと言う話であり、金銭によって最初の2つ、国会や裁判所は丸めこめるかもしれないが、次ぐ民衆や報道機関まで味方につけることは事実上不可能であろう。
「国府田には日本特事の全責任を負ってもらうというのが憲国党との共通した認識なの。−−−」
それに国府田がすぐに辞職したとして、この状況下でその後釜など御免被りたいというのが内閣総理大臣を目指す政治家全員の考えであった。
「−−−それに軍関連の機密保持のためってのもあるわ」
軍関連の機密というのは、言わずもがな日本国転移等一連の特異的不明事案発生直後の日本海におけるフリト帝政国との戦闘。そしてフリト帝政国とエルトラード皇国との戦争における一連の行動が主なものだ。
数秒の沈黙を経て、内堀 内閣官房長官は問いかける。
「憲警隊の秘匿捜査では限界なんじゃないですか?もはや管轄は国防軍のそれを超えてます。」
国防省中央憲警本部、国防軍中央憲警隊。国防省や国防軍に関連した犯罪を取り締まる組織であり、日本国において法執行権限を有する10の機関等組織の内の1つである。
「今はなるべく全てで波風立てないように進めるべきなのよ」
お久しぶりです。[虎石_こせき]です。
今回で[間章・石橋内閣組閣]は終わり、次の投稿からは第三章へ入ります。




