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第二十話・ロブロセン情勢に対する外交指針の策定に関する閣僚会議

【西暦2042年 5月22日 昼前−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地東京地区 政令指定特別区域 首相官邸北棟2階 閣僚会議室】


本日開催されている定例の閣僚会議。題は[ロブロセン情勢に対する外交指針の策定に関する閣僚会議]である。


「−−−、ロブロセン王国は新生歴1356年、西暦でいうところの2039年に発生した内戦によって国が二分され、この時にレンツ帝国は王国側を支援し、フリト帝政国、ペント・ゴール帝国らは民主化を掲げ蜂起した共和国側を支持しました。


カムラ国際会議で内務大臣が暗殺されたレンツ帝国は、ロブロセン共和国と関係深い反王制主義過激派組織、キルガー革命隊による犯行だと断定しロブロセン王国に対して対応を迫りました。


ロブロセン王国はその要請を受け、ロブロセン共和国との停戦協定の破棄を発表しています。−−−」


そう話すのは、昨年の末に発足した新内閣、石橋内閣の外務大臣に任命された男である。名を赤城 樽十郎、37歳という史上最年少で国務大臣に任命された男だ。彼の父、赤城 孝太郎も内閣総理大臣や外務大臣を経た経歴を持つ。


「−−−フリト帝政国とペント・ゴール帝国はこの停戦協定の破棄に対し強い批判を示し、レンツ帝国によるロブロセン王国への軍の進駐を防ぐべく、対応を策定中だとのことです。」


フリト帝政国との正式な国交樹立からあと4ヶ月で1年が経つ。年が明けて尚、国内の情勢はまだまだ良いとは言えない。


国府田内閣不信任決議案の可決に反発した、国府田 前内閣総理大臣の岩盤支持層の中の、右派強行論者らによる国会の襲撃をはじめ、皇居前での外国人を中心とした大規模デモとそこで発生した雑踏事故。都営地下鉄新宿新線でも反政府思想を思わせる文言を書いた紙と共に置かれた不審物によって、公務執行妨害及び威力業務妨害の疑いで男が逮捕されたりなどが特筆すべき最近の事件だ。


日本国転移等一連の特異的不明事案の発生と、それによって活発化した東京自治会らによる、中央合同庁舎三号館襲撃事件や三号館テロ前闘争、首都圏警察官連続殺傷事件、西葛西放火殺人消防活動妨害事件などを総称した、日本特事東自内乱未遂。


未だにこれらの影響は根強く、旧首都圏政府直轄開発地立入制限区域では東京自治会が残した、銃火器類を中心とした違法物品の流通によって、反政府過激派集団と、警視庁や国家公安捜査庁が相対することもあり、銃社会のような様を呈する日もある。


東京自治会が事実上の解体となって尚、想定していたように治安状況は全くもって良くはなっていなかった。


そんな中開催されるこの定例の閣僚会議も、本来であれば国会の開会中であるため、首相官邸の閣僚会議室ではなく国会議事堂のそれで行われる予定だったのだ。


『たった今、国会議事堂の敷地内を含む周辺の複数箇所にて、不審物が発見されたとの情報が入りました。現在警視庁や国公院が−−−』


今日の朝、1番に入ってきたニュースがこれである。現状、日本国の治安状況は最悪と表現しても差し支えないだろう。


「フリト帝政国は現在、我が国の東の公海上、西ナマール海からユト洋にかけて海軍戦力を展開させ、制海権の獲得に向けて動いています。−−−」


その背景にあるのは、西ナマール海からユト洋にかけての海域における、レンツ帝国の帝国海軍の活発化である。この海域における制海権とはすなわち、ユト大陸への足がかりであり、これを得れば沿岸部に位置するロブロセン地域に直接出入りが可能だ。


それは制海権の獲得に向けて活発化するレンツ帝国の帝国海軍だけでなく、フリト帝政国やペント・ゴール帝国にも言えることだ。


「−−−もしレンツ帝国がロブロセン王国に陸軍戦力を進駐させる場合、フリト帝政国とペント・ゴール帝国の2カ国もこれに対抗し、ロブロセン共和国に陸軍戦力を派遣する準備があるとのことです。−−−」


それはつまり、ロブロセン地域を発端に大国、それもその中でさらに列強国という最上位の区分に分類される2カ国が、戦争をはじめることになる。


「−−−ロブロセン共和国は我が国からそう離れてはいません。もし西ナマール海において制海権の争奪戦が発生すれば、我が国の島嶼部が巻き込まれる恐れもあります。また、フリト帝政国からは、ロブロセン情勢に関する対応について、早急に2カ国間で協議の場を設けたいと伝えられました。」


加えて、ロブロセン地域での戦争が代理を超えたものならば、日本国は戦争に巻き込まれることも十分に考えられる。


前述の通り、唯一国交を樹立しているフリト帝政国でさえ、その交流は2年にも満たない。フリト帝政国とは年が明けてからようやく本格的な輸出入が始まり、1ヶ月前に輸入第一陣が届いた。


日本国は現在でも、フリト帝政国に大部分を依存しており、それはフリト帝政国側から見ても明らかだ。


そのためフリト帝政国からの要求はつまり、現状では従わぬわけにはいかない。テンキルでの前例もあって、軍事行動についてはより積極的な協力が要されるだろう。


「西ナマール海からユト洋にかけての海域で、制海権争いが激化すれば、我が国の島嶼部のすぐ近くですので巻き込まれることは十分に考えられます。−−−」


昨年末から海洋研究開発機構や災害対策復興庁の主導で、国防海軍や海上保安局が中心となって調査が進んでいる。これによって日本国転移等一連の特異的不明事案で日本国が移動した範囲が大まかに判明した。


日本国の四方最端はそれぞれ、東が南鳥島、西は与那国島、南は沖ノ鳥島、北が択捉島だ。地図上でこれら4つの島を基点に日本国を囲むように書いた境界線があり、その範囲内がまるごと移動したと考えられている。


先日その境界線と目される比較的浅い海底を調査した結果、永遠と続く巨大な断層が確認された。その断層は、境界線の外と内では形も物質も全く違う別の地形が広がっており、地殻変動によるものとは考えられないとのことであった。


「−−−そのため現在、小笠原諸島や硫黄島、沖ノ鳥島などの離島の警戒を強めるよう国防海軍に指示をし、国防艦隊や潜水艦隊を展開しております。」


つまり境界線の中の海洋環境は、少なくとも地形に関しては変化していないのだ。これが何を意味するのかといえば、潜水艦の運用が可能だということだ。


国防省・国防軍 国防海軍が保有する潜水艦は現在40隻を超え、その半数が原子力推進を用いたものである。そんな国家予算の塊たちは、日本国転移等一連の特異的不明事案が発生してから8ヶ月間は、一切の活動が封じられていた。


もしも海底の地形が変わり潜水艦の活動に必要な、これまで1世紀弱をかけて収集し続けた海洋情報が全て使い物にならないとなれば、1からその情報を集めなければならない。


もしも海底地形が変化していた場合、もしかしたら未知の海嶺などに衝突してしまうかもしれない。


水上艦艇が岩礁に乗り上げるなどであれば、乗員の命はダメージコントロール又は退艦命令などによってなんとかなるかもしれない。


だが大きな水圧のかかる海中深くでそんなことになれば、考えたくもないだろう。


しかしそんな懸念も杞憂であった。国防海軍の艦艇を中心とした海洋観測によって、前述の通り一定の範囲内では地形に関して変化があったことは認められなかった。


無論、塩分濃度や潮の流れは変化してしまった。これだけでも潜水艦の活動には障害となるが、完全に活動できないほどではない。


「帝政国から要望があった場合、それは西ナマール海におけるレンツ帝国海軍の牽制が主となると考えられます。」


地政学的に、現在日本国はレンツ帝国に対するフリト帝政国の防波堤となっている。もしもこの2カ国が戦争に突入すれば、日本国はフリト帝政国と国交を有しているということもあり、レンツ帝国には敵国として認識されるだろう。


「海上警備行動を発令しましょう。−−−」


女性で初めてその地位に立つに至った彼女、第130代内閣総理大臣の石橋 和美、57歳。国府田 前内閣総理大臣までとは行かないが、彼女が国政に関わる姿勢も強気なことで知られている。


「−−−レンツ帝国の脅威に対してはフリト帝政国と協力して強気な姿勢で当たるべきです。」

新内閣の石橋内閣。総理である石橋 内閣総理大臣は史上初の女性総理です。

章間でこの辺り詳しく書きますよー

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