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第十八話・ボルボ橋事件−2

【新生暦1948年 2月5日 深夜−−−マカルメニア民主国首都カムラ 公道上】


「取材できませんでしたね」


「まぁ仕方ないさ、」


まるで誰もいなくなったかのように静まり返る、閑静な夜の住宅街。そこを走る車はラック グローバル メディア カムラ支部の社用車であった。


以前から各所でその名が囁かれており、今回はじめて表舞台に立つと列強各国と遜色のない規模の船舶を見せたことで、一部で話題に上ることになった新興国家、日本国。


比較的情報を得ているとされるフリト帝政国の支部の情報でさえも、絶対的にみれば日本国に関しては全くと言って良いほど不明瞭である。


そんな国の情報を少しでも集めたいと思ったのだが、やはり無理であった。


いくら新興国家の民間船舶といえども、一国の使者を乗せるものには変わりなく、同じ場所には他列強各国の船舶も停泊していたのだ。


そんな場所にアポイント無しで取材など、いくら新興国家の民間船舶が相手とはいえ、できるわけがなかったのだ。


「ん?何かな、」


そう言った彼の視線が捉えていたのは、通行止めによってできた車輌数台の列であった。


「早く帰りたいってのに、まいったな。なんだ?」


「あれ警務庁の制服ですね。」


どうやらこの先にあるボルボ橋前の十字路が通行止めになっているようだ。先輩後輩の関係にあたる2人の記者は首を傾げる。


橋を含め、自らの進行方向に対して垂直に伸びている目の前の道路には、等間隔で警務庁の隊員らが並び誘導棒を手にしている。警務庁の隊員の列は橋を渡り、向こう岸の道路まで続いていた。


おそらくどこかの国の代表を乗せた車列が通るのであろう。ルートは事前に公開されているわけではないが、ある程度の推測がなされている。しかしこの道はその推測では入っていなかったはずだ。


この推測とは、事前に住民へ通知された交通規制の情報を基とした予想である。つまり、今現在この道に交通規制が敷かれているということは、本来のルートに何かしらの問題が発生したことになる。


「あ来ましたよ」


左から出てきて、直進のまま橋に向かって十字路を横切る黒塗りの車列。車輌の特徴から国籍を考えてみるが、夜の暗闇と警務庁の隊員たちに遮られてよく見えない。


交通規制による渋滞によって自分たちの車が停車している位置から、十字路まで少し離れているというのもあるだろう。


程なくしてその車列の先頭車輌が橋を渡切ろうかという所まで進んだ、そんな時だった。住宅街を包み静まらせる夜の暗闇に、橙黄色の光が差すと、聞いたこともないような爆発音が響き渡る。


川の水や周囲の住宅の窓などは特に、地面すらも震わせるその轟音と衝撃は瞬時に広がる。


「おいまじか」


目の前に広がるのは、一国の要人を運んでいると思われる車列が渡る橋が爆発し、崩れようかとしている場面。あまりにも非常な状況に対して理解が追いつかず、身体中の動作が止まってしまった。


しかし束の間、彼らのジャーナリストとしての一面がそんな体を突き動かす。


「おい写真!」


「あっ、はい!」

__________


【新生暦1948年 2月6日 早朝−−−マカルメニア民主国首都カムラ 執政院2階 国家元首執務室】


「事前に橋脚に爆発物が仕掛けられていた可能性が高いとのことです。」


赤や金といった印象を持つ煌びやかな宮殿には今日、その雄大な見た目とは相反して重々しく緊張に満ちた雰囲気が充満していた。


「レンツは今回の件で、条約の不履行を表明しています。これに追従する形で、大公国から条約の効力を凍結するように要請する書簡が届いています。」


何も発することなく、考え込むような表情でひたすらに茶色い口髭を撫で続ける男、マカルメニア民主国国家元首クァク・ヨンジェ。開いている新聞には昨夜の事件が大々的に書かれている。丁寧なことに事件直後の写真付きだ。


しばらくの沈黙の後にようやく開いた口からは、怒りの混じった重厚な声が発せられる。


「被害は、レンツ代表だけだったな?」


「はい、セリトリムは事件直後に計画を変更して航空機で出国しました。他は全て陸路でジピアに向かいましたが、特に障害はなく到着し、ミュートル内海を航行中です。しかしミュートル内海でレンツ海軍が活性化し、対抗するようにペンゴ、そしてアシュニスィ海峡の外で待機していた帝政国海軍の三国で一触即発の事態となっています。」


フリト帝政国の国軍は列強陸軍だ。列強陸軍を有する国が、同様に海軍でも力を持っているということはほぼ無い。しかし、レンツ帝国の国軍は、帝国陸軍が列強陸軍でありながら、帝国海軍も列強海軍に数えられるという数少ない例外の一国だ。


セリトリム聖悠連合皇国もミュートル内海に面する衛星国や植民地を有し、そこに皇命海軍を配備している。


つまり現在、ミュートル内海には列強海軍が2つ展開されており、それに加えて対立する列強国の海軍も2つが展開している。数にすると列強国4カ国の海軍がこの狭い内海で活動しているのだ。文字通りの一触即発の事態である。


今回の件でカムラ国際会議軍縮条約は十中八九決裂となるだろう。ロブロセン地域におけるレンツ帝国の軍部隊はより強行的な姿勢を見せ、呼応するようにペント・ゴール帝国を含む各国は対応に迫られることになる。


「外務大臣、内務大臣、それと警務庁長官を呼べ。」


無論発端となったマカルメニア民主国の立場は厳しいものとなるだろう。

__________


【西暦2042年 2月6日 朝−−−ミュートル内海 海上】


カムラ国際会議日本国代表団の輸送を担当する日本国籍の民間船舶、嶺獅賀海運事業(株)の旅客船かいじん。その船内にて頭を抱える者が1人。滝沢 輝 外交官である。


今回、計画通りフリト帝政国側の協力の元、列強国であるセリトリム聖悠連合皇国をはじめとした各国の人間と友好的な接触を果たした。そこまではよかったのだ。


レンツ帝国代表、ロベルト・ルイスの暗殺。


この混乱によってカムラ国際会議は全てが水の泡となった。フリト帝政国はこの会議に協議国として参加している。日本国への影響は計り知れない。


そして日本国が行った今回の、列強国をはじめとする各国との接触。これも有耶無耶となるだろう。見たことも聞いたこともない新興国家など、この混乱下で気に留めておく余裕などないはずだ。


日本国並びにフリト帝政国、カムラ国際会議における一連の活動において、その結果を見れば損という他無い。

お久しぶりです。[虎石_こせき]です。

少し遅いですが明けましておめでとうございます。大変お待たせいたしました、と言いたいところですがまず一つ、遅まきながらブックマーク200件突破ありがとうございます!


当初、年末までの目標をブックマーク150件に設定していましたが、なんと150件どころか200件を突破しました。読んでくださる皆様のためにも、まだまだ活動続けていきますのでお待ちいただけるとありがたいです。

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