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第十六話・カムラ国際会議−5

【新生暦1948年 2月4日 夕方−−−マカルメニア民主国首都カムラ アルノルト・ベリーロンド=カムラ 食事会場】


かなり時間が押しているようで、列強各国の代表がこの会場へ入ったのは予定から3時間後であった。


「こんばんは、モンク殿。日本国の外交官、滝沢輝です。」


ビュッフェ形式の食事会では、談笑にふけるものや身内同士で今後について相談するもの。異国人と交流するものなど様々だ。


そんな中、カムラ国際会議日本国代表団の団長である滝沢 外交官はある男に話しかける。


「おや滝沢殿、こんばんは。改めて、フリト外務省のユトアドレヌ対外政策統括官のモンクです。−−−」


2人は以前、フリト帝政国にて顔を合わせている。


「−−−テンキルの件は聞いております。よもやあれほどとは思いませんでしたよ。」


「ありがとうございますモンク政務官。しかしここでその話はなるべくお控えください、」


アドレヌ及びユト両大陸対外政策統括担当外務政務官であるゲリー・ウェイン・モンクは立場上、テンキルでの日本国国防軍の動きを知っている数少ない人間の1人だ。


「おっとそうでしたね、失礼しました。」


フリト帝政国が迫ったテンキルにおける日本国国防軍の軍事行動。その対価として日本国が要求した主なものは、今回の国際会議への招待と他参加国外交官とのアポイントの手助けであった。


「エルテリーゼ大公国の代表団はすでに外交館へ帰りました。」


エルテリーゼ大公国。このガランティルス大陸で最も広大な領土を持つ列強国だ。そして、国家運営における基盤が揺らぎつつあり、亡国という未来へ進んでいる国である。


今回エルテリーゼ大公国がこのカムラ国際会議に派遣した代表、カムラ国際会議全権大使、マーク・エスマー。彼は在マカルメニア民主国エルテリーゼ大公国大使である。


オブザーバーは除き、今回の会議に参加する各国の代表の地位はどれも中央省庁の長官級。フリト帝政国であれば軍務省の長、軍務相。ペント・ゴール帝国であれば内務省の長、内務省長。レンツ帝国も同じく外務省の長である外務大臣。


セリトリム聖悠連合皇国に至っては常任の国務大臣とほぼ同等の権限が与えられた特命担当大臣をわざわざ充てがっている。今回のカムラ国際会議とは、言うならば大臣会合である。


その中でただ1人、エルテリーゼ大公国からは在外大使だ。これは国際社会における慣習上に類を見ず、外交においては到底許されるような行為ではない。


しかしそれを分かったうえでやっているのだから、よほどに余裕がないのであろう。


申し訳程度の措置としてカムラ国際会議の開催直前に、マーク・エスマー大使は本国に一時帰国し、公王陛下より直接カムラ国際会議全権大使という役職を任命され、現在は在マカルメニア民主国エルテリーゼ大公国大使()兼ねるという形をとっているそうだ。


「それとセリトリムの代表とその取り巻きが意外にも、この食事会に参加しています。」


ここ数年は特に、28年前の大陸戦争時代から国際情勢への関心を示さず、政治的孤立主義を貫いてきた超大国である。そんな国が今回この会議に参加したというのだ。相当に重要な催し物なのだろう。


するとどうだろうか、前述したエルテリーゼ大公国の対応は相対的な悪印象がさらに加速する。


「彼の国は今回ただ一つ、航空機でやってきた国ですね。」


日本国を除いたオブザーバーとしての参加国と、エルテリーゼ大公国は在マカルメニア民主国大使館から大使が参加した。そして列強国の国々は皆船舶での来国であったため航空機でやってきたのはセリトリム聖悠連合皇国のみである。


アシュニスィ海峡係争の解決を目指す姿勢という政治的パフォーマンスを主目的としているが、フリト帝政国にとってはもう一つ大きな理由があった。


それは航続距離である。そしてペント・ゴール帝国はフリト帝政国の都合に合わせ且つ、前述の政治的パフォーマンスのために航空機ではなく船舶を選択した。


レンツ帝国は航空機と船舶を比較して、アシュニスィ海峡における制海権を有することを考慮しどちらがより安全かを判断して船舶を選択肢した。


つまり、各国が危険と判断した又は、機体性能の問題で不可能であった航空機での来国を唯一やってのけた国ということだ。その背景には圧倒的な技術力と経済力に伴う軍事力と、中継地として利用できる多数の植民地や旧植民地衛星国の存在という強力な世界的影響力が挙げられる。


また単純に利用できる中継地が多かったというのもあるが、セリトリム聖悠連合皇国はフリト帝政国と同じく、別大陸からの来国である。フリト帝政国はもし航続距離の問題がなくとも、現情勢を鑑み安全上の理由から航空機で渡海する選択はしなかっただろう。


そう考えればセリトリム聖悠連合皇国の国力がより際立って聞こえる。


「すでにセリトリムの大使館には根回しをすませてあります。」


「ご協力感謝します、モンク政務官。」


「私は貴国との約束を履行したに過ぎませんよ」

__________


【新生暦1948年 2月4日 夜−−−マカルメニア民主国首都カムラ アルノルト・ベリーロンド=カムラ 食事会場】


煌びやかな食事会場。ビッフェ形式で多種多様な食事が整然と居並ぶ食事会場には、楽しげな表情を浮かべる者で溢れているが、全員が全員そうであるというわけではない。


会場の隅に並んで辺りを隙なく見回す者たちの表情は固かった。要人警護のために各国から代表とともにやってきた物たちだ。所属する組織の種類は国によって違い、その国の国軍や警察機構、日本国のようにそれを目的に設置された専門機関の者など様々だ。


その中に、一際大きく鍛えられた体躯の一団がいた。黒いスーツとともに威圧感を身に纏った物たちだ。彼らが味方ならばさぞ心強いだろう。


「本部からです。」


そう言って手渡された紙の一文を読む隊長格の男は逡巡すると、自らの警護対象の方へと歩みを進める。


向かった先にいたのは2人。1人は警護対象たるロバート カムラ国際会議特命全権大臣。そしてもう1人、今回の現場最高責任者であると同時に自身が所属する組織の長でもある男だ。


ロバート カムラ国際会議特命全権大臣に、敬意と割って入ることへの謝意をこめた軽い会釈をしつつ、直属の上司に対して先ほど自分に手渡された紙を見せる。


「長官、本国からです。」


それを見た長官と呼ばれた男は、先ほどの隊長格の彼と同じように逡巡する。


「わかった。アエリルの状況を確認しておけ。ルチニアの軍司令部にも通知を、それと全警護官に、警戒を厳にと、」


そんな2人の様子を見て少し不安がよぎったのか、ロバート カムラ国際会議特命全権大臣は状況を尋ねる。


「ヴィンセント長官、何かあったのか?」


「詳しくはお部屋でお話ししますが、大使館経由で本国から警戒を強めろとの要請があっただけです。ご安心ください。」

__________


【新生暦1948年 2月4日 夜−−−マカルメニア民主国首都カムラ アルノルト・ベリーロンド=カムラ 食事会場】


「おぉあなたが。ゲリーさんより聞き及んでおります、非常に進んだ技術をお持ちだそうで」


「超大国たるセリトリムの者にそのように言い伝わっているとは、なんとも嬉しい限りです。」


煌びやかな部屋の一角。そこには3人の外交官の姿があった。日本国のカムラ国際会議日本国代表団の団長である滝沢 輝。フリト帝政国のアルス及びユト両大陸対外政策統括担当外務政務官であるゲリー・ウェイン・モンク。そしてもう1人、


「おや自己紹介がまだでしたな。セリトリムの在マカルメニア大使、デイビット・B・レーンです。私が本国勤だった頃、ゲリーさんは我が国の大使館にいましてね。まさか政務官にまでになっているとは驚きでしたが」


ちなみに日本国における政務官とは、衆参両院どちらかに籍を置く国会議員から選ばれるのが()()である。フリト帝政国においては、国務大臣が自身が所管する省庁の公務員から抜選する。


「デイビットさんは日本に興味がお有りなようで、私が滝沢外交官からいただいた腕時計や電子卓上計算機を見せたら是非挨拶をと、」


「我が国に興味を持っていただけるとは嬉しい限りですよ」


その後、この3人は技術や文化を中心に時間の許す限りの談笑に耽り、日本国が当初目標にしていた好印象付けは成功に終わったのであった。

お久しぶりです。[虎石_こせき]です。

今回は久しぶりに3000文字を超えることができました。1週間も空けたのですから5000文字程度はいきたかったのですが、、、

そしてついに次の投稿で、サブタイトル[カムラ国際会議]シリーズは終わりです。よくもこんな無駄なことを詳細に長々と書いたなと、少し反省しております。−1と−5だけで良かったのではと終わった後に思いました。


次の投稿は今年最後のものです。

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