第十三話・カムラ国際会議−2
【新生暦1948年 2月4日 昼−−−マカルメニア民主国首都カムラ アルノルト・ベリーロンド=カムラ】
「そういえばまたフリトが舎弟を増やしたらしいな」
経済大国マカルメニア民主国首都の高級宿泊施設に、多数の野次馬と報道関係者を阻むようにして警官が囲む彼は、引き連れる部下の1人にそう言いながら堂々とロビーを歩く。
「先日参加が決まった国ですね。確か日本とか言いましたか、」
日本国。それは1週間前にフリト帝政国をはじめとした4カ国の連名で推薦がなされ、飛び入りで参加が決定した新興国だ。
「エルトラードが敗れた今、アドレヌはフリトの裏庭だ。ロムア独立も本気で検討すべき時が来たのかもしれん。」
そんなことを話しながら、案内されるがままロビーを進むとそれを待ち構えるように佇む一団がいた。
「ようこそ我が国へ、ロベルト殿。マカルメニア民主国外相のイルグクです。」
差し伸べられた手に応え、握手を交わす。すると途端に周りを囲んでいた特別に選出された報道関係者らがカメラのシャッターをこれでもかと押す。
「レンツ帝国代表、ロベルト・ルイスです。この日を楽しみにしていました、」
その後も報道各社に対するデモンストレーションを兼ねた出迎えは、各国順々に行われる。この順番には特別な理由は無く、ただ参加各国の都合に合わせて到着した順に行われる。
「エルテリーゼのエスマーです。本日はよろしくお願いします。」
「ペント・ゴール帝国のダドリー・マイルズです。」
「ありがとう。帝政国のエリックです。」
「セリトリム代表のホワイトローです、どうぞよろしく。」
その後はオブザーバーとしての国を除いた、実際に協議に参加する参加国の実務者だけで打ち合わせを行い、その後食事会を実施。一夜を経て調印式という形で2日に渡る開催となる。
オブザーバーとしての参加に留まった国々はというと、食事会と翌日の調印式にのみ参加する。
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【新生暦1948年 2月4日 昼−−−マカルメニア民主国首都カムラ アルノルト・ベリーロンド=カムラ 協議会場】
カムラ国際会議の協議場として整備された、アルノルト・ベリーロンド=カムラに2つある大宴会場のうちの1つには、真ん中がくり抜かれたドーナツ型の大きな円卓が置かれていた。
そこに等間隔で腰を下ろすのは、この世界の頂点に君臨する国々の代表たち。寄託国として同席するマカルメニア民主国は列強国ではないため、代表の同国外務大臣ビル・イルグクはかつて無いほどの緊張に体を支配されていた。
「みなさま、寄託者という大役を努めさせていただきます。マカルメニア民主国外務大臣のビル・イルグクと申します。−−−」
司会進行による挨拶の後は、参加国代表の紹介だ。
「フリト帝政国より軍務相、エリック・アンダーソン殿。
ペント・ゴール帝国より内務相、ダドリー・マイルズ殿。
レンツ帝国より外務相、ロベルト・ルイス殿。
エルテリーゼ大公国よりカムラ国際会議全権大使、マーク・エスマー殿。
セリトリム聖悠連合公国よりカムラ国際会議特命全権大臣、ロバート・E・ホワイトロー殿。」
遂に、この世界を左右する重大な会議が幕を開ける。しかし、後世の歴史書でカムラ国際会議を扱うページでは、この会議と締結された条約が本旨になる未来は訪れなかった。
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【西暦2042年 2月4日 夕方−−−マカルメニア民主国首都カムラ サンセストホテル208号室】
「食事会まであと3時間だ、最後の確認をするぞ。」
経済大国の首都に聳える高級宿泊施設、ではなくそこからほど近い場所にあるホテルだ。日本国をはじめ列強国ではない国々は列強国とは別のホテルが宛がわれた。
部屋に到着し、荷物を置いたところでそう言い放ったのはカムラ国際会議日本国代表団の団長、滝沢 輝 外交官だった。
「まず今回の目的は売り込み営業だ、−−−」
フリト帝政国をはじめとした4カ国から推薦という形でこの催し物に参加することができた。一体どんな外交をすればこの短期間で、しかもフリト帝政国以外に日本国を知らないにも関わらずこのようなことが可能なのか、考えても答えは出なかった。
そんなことは置いておいて、今回滝沢 外交官を率いるカムラ国際会議日本国代表団に任された任務は、この国際会議に参加する国々に日本国を紹介して回ることだ。
そのための一片として重要視している、本日の18時から予定されている食事会というスタートダッシュを、万全な状態で望まねばならない。今の日本国にとって、軍縮や係争解決だのは二の次であり、最も重要なのは国交樹立国、特に列強国を増やすことだ。
事前にフリト帝政国から、カムラ国際会議に参加する国々の概要等の情報を得ている。それに基づき、各国が興味を持ちそうな日本国の技術などをまとめた資料を作成した。
「−−−何もここで我が国との交流を決めさせることは期待してない。あくまでも記憶に残る国として良い印象を与えることが重要だ。」
約2時間にも渡る作戦会議がはじまった。




