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第十話・マカルメニア民主国−1

【新生暦1947年 8月28日 昼−−−マカルメニア民主国首都カムラ 執政院2階 国家元首執務室】


マカルメニア民主国。それはガランティルス大陸の中央に位置し、アシュニスィ海峡から広がるミュートル内海を西ミュートル海と東ヨルシュ陸央内海に隔てる大きな半島に本国を置く国である。


地続きにはエルテリーゼ大公国と国境を接し、アシュニスィ海峡係争ではエルテリーゼ大公国及び、ペント・ゴール帝国の側で参加していた。


列強国ではないものの、エルトラード皇国と同様に国際社会では大国の一つとして記憶されており、経済的にかなり豊かな国として知られている。


「各国共に、国際会議の開催に関しては前向きな姿勢を見せています。このまま我が国で問題なく開催できるでしょう。−−−」


赤や金などをふんだんに使用した煌びやかな宮殿は、この国が帝政だったころからその姿形、用途が変わらずに存在している歴史ある建造物だ。


帝政時代には国王により任官された執政官たちが使用し、現在は国家元首のものとなっている執務室で2人の男が相対していた。


1人は宮殿と同じく赤を基調として黒や金などのアクセントにより威厳ある制服を身につけている。そして書類を片手に立っている彼の前には、スーツに身を包む男がいた。


「今回スヴァローはどうなんだ?」


綺麗に整えられた茶色い口髭と共に動く彼の口から出た言葉は、スヴァロー国家連合体機構という組織の動向についてのものだった。


「ノーサバーションは今荒れていますからね、出席はないものとみてよいかと思われます。」


このガランティルス大陸の西側と東側はミュートル内海によって隔てられており、大陸西部地域から大陸南部地域までを地続きに進むとなると、大陸北部地域を経由しなければならない。


そしてこの3つの地域のうち最も広大な大陸西部地域と、大陸北部地域を繋ぐ陸地は非常に細いものとなっている。この場所に大きな山脈が重ならず且つ、付近の海が凍らなければ運河が建設されていただろう。


そんな地点を起点として西に向かうと多数の小国らが集まる地域があり、これはノーサバーションと呼ばれている。


このノーサバーションでは27年前の大陸戦争時代に、列強国をはじめとした大国同士の戦争に巻き込まれることを危惧した数多の小国が寄り集まり、集団的自衛を主目的とした枠組み、スヴァロー国家連合体機構というものが構成された。


近年までノーサバーションに本国を置く小国たちは、スヴァロー国家連合体機構として、国際的な場に参加していたのだが、大陸戦争の終結後は機構内の関係が悪化し、ここ数年のうちにスヴァロー国家連合体機構は形骸化してしまった。


今回フリト帝政国とペント・ゴール帝国、そしてマカルメニア民主国が開催を提言した国際会議は、そんな情勢があってからは初めての国際的な催しものだ。


そのためノーサバーションに本国を置くスヴァロー国家連合体機構の加盟国らがどう動くのか、前例がなかったために以前より国際的な関心が高かったことだ。


「あそこもユトと同じでかなりきな臭くなってきたからな。」


「スヴァローの解体は時間の問題でしょう。今のところノーサバーションの国の中で参加を表明している国はありません。」


今回の国際会議では小国の参加は少ないだろう。と言うことは参加表明国は聞かずとも見えてくる。本国以外に自国領を持つ大国たち、その中で列強国に区分される国は1国の例外を除き必ず参加するだろう。


となると列強国という区分けに入り至らなかった大国たち、列強陸軍を有するセント人民共和国や、列強海軍を有するルジェニスタ共和国、タール・二・バエア、などは参加するのではないだろうか。この国際会議の提言がもう少し早ければ、転落する前のエルトラード皇国もここに入っていた。


「それと、セリトリムに関して報告が、−−−」


この国を忘れてはいけない。この世界で最も高い技術水準と経済力、そしてそれに比例した、海軍を主とした軍隊を保有する列強国の中の列強国だ、名をセリトリム聖悠連合皇国という。


今回開催を提言した国際会議は軍縮を目的としたものであり、他の列強国全てが参加を表明しているこの会議に出席しないともなれば、国際的な評価はどうなることか。


セリトリム聖悠連合皇国は大陸戦争の時代から孤立主義を続けており、国際的な場にもなかなかその代表が姿を表さなかった。


鎖国しているわけでも出入国を制限しているわけではないので、他の国々と同程度には玄関口と市場が開かれているのだが、対外政策に関しては一貫して静観を続けているのだ。


「−−−あのセリトリムが参加を表明しました。」


「流石に今回ばかりは出ないことにはいかんのだろう。」


やはりユトとノーバーションを中心とした国際情勢の悪化は、セリトリムでも感化できるものではないというわけか。


実際にユト大陸においては、列強国の植民地と化している地域の4割程度はセリトリム聖悠連合皇国のものである。無関心を決め込むわけにもいかないのだろう。


茶色い口髭を撫でながら少々考え込むそぶりを見せた、マカルメニア民主国国家元首のクァク・ヨンジェは一旦それらのことを脳の隅に追いやり、別の話を切り出すことにした。


「それでだ、例の推薦枠に関してはどうだ?」


国際会議をはじめとする国際的な行事への参加に関して、明確な規則は定められていないため曖昧なところだが、国際慣習法ではだいたい2カ国以上の列強国を含んだ複数の国家による推薦があれば、招待を受けていない又は、他の参加国が国家承認していない国、外交関係がない国であっても参加資格を有するという風潮がある。


ただしここで言う未承認国家や外交関係がない国家とは、国際慣習法に基づく定義において国際的に国家と認められる要素を有した共同体に限られる。例えば領域や民といった存在の有無である。


過去にもこの慣習的制度によってある一国の植民地が国家として国際的な場に登り、それを足がかりに独立を果たしたという事例が存在する。


「我が国、帝政国、ペンゴ、セント人民共和国。この4カ国でならレンツも文句は言えないでしょう。4国の外務部門が手続きを進めています、問題なく捻じ込めると思います。」


「参加各国には開催直前に発表してくれ、帝政国での行動はくれぐれも悟られないように頼む。彼の国には帝政国を通して通知を、」

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[一言] 嫌がらせかな>開催直前
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