第九話・世界平和に向けて
【新生暦1947年 5月13日 深夜−−−エルトラード皇国首都タキスッフ 皇王公邸】
「コーピッジュ航空基地の機能低下によって、当面は戦域における大規模な作戦はもう、テンキル戦線の維持ですら、厳しい状況です。」
「コーピッジュだけでなく、キールローブス海軍基地も大きな損害を受けました。第二艦隊も動ける艦は少なく、」
アドレヌ大陸にてフリト帝政国と覇権争いを続けてきた国、エルトラード皇国。列強国とまではいかないものの、自他ともに認める大国である。
そんな大国を動かす重鎮たちの表情は重い。
「キールローブスの第二艦隊で、動ける艦艇をテンキル沖に展開している帝政国海軍に向けることはできるのでは、、、」
キールローブス海軍基地とは、テンキルの街からさらに西に位置する、エルトラード皇国で最大規模を誇る海軍基地である。
今回の攻撃によってキールローブス海軍基地は、コーピッジュ航空基地と共に大きな被害を被り、係留していたエルトラード皇国海軍第二艦隊の主力艦艇2隻のうち戦艦1隻が大破した。
残る1隻の空母は、船渠にて改修のために艦底の一区画を切断していたのだが、その状態で船渠扉が破損し浸水した。結果、艦が浸水し現在はバランスを崩し船渠内で着底している。
結果、エルトラード皇国海軍で最もな戦力を有する第二艦隊の中で動員可能な艦艇は
「駆逐巡洋フリゲートの計6隻のみでどうしろとおっしゃるのですか」
もはやエルトラード皇国に継戦能力などなかった。そもそも格上の列強国と事を構える事自体、無謀と言えよう。
「帝政国から、2度目の講和に関する申し出がありました。最後通牒です。」
「現状、メンドリッジ工業地帯は無傷です。まだ戦災復興の余地はあります、」
「わかった。帝政国大使をここへ、」
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【新生暦1947年 5月19日 昼前−−−ペント・ゴール帝国帝都シェイド 中央行政機構舎群 行政執行院11階 会議室】
「フリトエルトラードの戦争が終結したことはみなさんご存知でしょう。これはその際に帝政国側で限定的に参戦した、日本という国についてです。」
ペント・ゴール帝国軍務省長、ロバート・キース・フランシスがそう話すと、一同は配られたステープラ留の書類をペラペラとめくる。
「日本国、少々見積もりが甘かったな。」
「甘かったなんてものでは済みません、これでは対応を根本的に考え直さなくてはならないレベルです。」
みなが驚くのも無理は無い。記載された内容はこの世界の常識からはかけ離れたものだった。
噴進弾を少なくとも100km以上離れたところから誘導して目標に命中させる。
1発の威力は敵滑走路を使用不能にしたり、戦艦を大破させたりといったもの。
などであった。
「魔法のような武器だな」
「しかし我々と同じく科学を基盤とした技術体系の国です。これはより一層、対日本国外交を本格化していくべきです。」
ペント・ゴール帝国では、日本国はフリト帝政国内においてここ最近になって名前が上がるようになった、ただの新興国家だと判断していた。
しかし関係を持ってすぐに食糧輸出だの同盟だのと、あまりにも対応が性急だったためにペント・ゴール帝国でも注視していた国だった。
蓋を開けてみれば現実離れした技術力やフリト帝政国との外交の内容など、あまりにも不自然だったのだ。
「帝政国からの要望には答えようではないか、民主国の動きは?」
フリト帝政国からの誘いに乗り、ペント・ゴール帝国と共に日本国の軍事行動の一部始終を目撃した国に、マカルメニア民主国というのがあった。
「マカルメニアからはまだ何も、しかしこちらも我々と同じくフリト帝政国の対応に準ずるでしょう。なんたって今回の主催ですからね」
日本国の登場は想定外であったが、元々エアセル文書の最終的な目的である国際会議の開催は、フリト帝政国とペント・ゴール帝国の連名での提言が行われた後、経済的な利得を目的に名乗りを上げたマカルメニア民主国にて開催される計画だった。
フリト帝政国がペント・ゴール帝国の他にマカルメニア民主国を招待した理由はこれである。
「フリト帝政国と我が国、そしてマカルメニア民主国が連名でのことであれば、他国も口出しできることでは無いでしょう。」
「では外務省長、手続きを頼む。」
こうして翌日、ペント・ゴール帝国とフリト帝政国、そしてマカルメニア民主国の3国連名での国際会議の開催提言が各国へ通知されたのだった。




