プロローグ・2
【西暦2040年 6月20日 未明|日本国石川県 国防空軍小松基地】
少し時間を戻し、国防空軍小松航空基地。日本海側に位置する唯一の航空基地であり、二本の滑走路を備えている。戦闘機かなる2個の航空団が駐留するなど、日本海側空域の防空の要所だ。
誘導灯が光る真夜中の滑走路に、アフターバーナーを燃やして進入するステルス戦闘機が2機。
『Tower Elmer14,Runway01 Cleared for takeoff.
(管制よりエルマー14、一番滑走路からの離陸を許可する。)』
国防空軍の中部方面航空団。その第1飛行群、第202飛行隊に所属する、 "F−UC/31誘導制御戦闘機" だ。コールサインはエルマー14とエルマー15。
日伊仏独米によって共同開発された、第六世代ジェット戦闘機である。その名の通り、無人機を誘導制御することを目的として設計された戦闘機だ。
第六世代ジェット戦闘機の定義としては、「部隊の種別は勿論、帰属国家の違いすらも超えた領域横断作戦が可能な事」、「無人航空機の誘導制御能力」などが挙げられる。
『Elmer14,Cleared for takeoff.
(エルマー14、離陸する。)』
抑えていたアフターバーナーの出力を上げ、240km/hにまで加速する。すると機首をゆっくりと上に上がっていく。
腹に響く轟音とともに夜空へ消えて行った2機の戦闘機は、誘導制御機という部類に入る。通常ならば1機につき、2~3機の無人戦闘機が追随するのが普通だ。
しかし、軌道衛星の消滅や、国外との通信の途絶、電磁波に乱れが生じているetc…現在、電磁波領域は不安定な状態にある。
よって、無人戦闘機の運用に関してはその安全が確保できず、原因すらも判明していないのが現状だ。そのため「無人航空機の運用は行うべきではない」と判断さた。
結果、運用可能な有人戦闘機から選出したのが、現状である。
そもそもなぜ、この2機がスクランブルすることになったのか。
それは数分前、複数のレーダーサイトにて防空識別圏の圏内、領空からわずか100kmの地点に、突如として向かってくる3つの未確認飛行物体が現れたのだ。
編隊を組む3機からは、敵味方識別装置の信号や、国際法で搭載が義務付けられている機体の識別や飛行高度等の情報を自動的に発信する、ATCトランスポンダの信号も一切、確認できなかったとのことだ。
直ちにこの3機は目標群αとコード付され、対領空侵犯措置の対象となる。対処に選ばれたのがエルマー14とその僚機エルマー15というわけだ。
レーダー上で目標群αは高度39,000ftを速度220ktで飛行中である。地図上では、ちょうどウラジオストクのあたりから飛来したと推測される。
『管制、正面5マイルに目標を捉えた。接近するover』
『エルマー14、了解。すでに当該機は領空侵犯機と断定された。通告は行わず直ちに警告を開始せよover』
対領空侵犯措置とは、事前に通報される飛行計画に該当の無い航空機が防空識別圏に接近した場合、領空へ侵入する前に実施する予防的措置だ。
もし通告にも関わらず領空を侵犯した場合、警告を実施し、示威行為や強制着陸措置、最悪の場合には撃墜という措置を取るものである。
しかし、今回は当該機群が防空識別圏の圏内に、それも領空を目前にして突如出現したのだ。そのためエルマー14とエルマー15が空域に到着する前に領空に侵入してしまった。
よって、通告は行わず、いきなり警告を行うことになってしまった。
『管制へ、横に付いた。えぇ爆撃機と思しき大型機1機、戦闘機2機。これより警告を開始するover』
エルマー隊2機が挟むようにして並んだ3機。それらは4発のエンジンを備えた大型の航空機と、守るようにして左右に並ぶ小型機が2機で構成されていた。
仕事柄、様々な時代と国の軍用機を見てきた彼らからすれば、その大型機は戦略爆撃機そのもの。左右の小型機は誰がなんと言おうと、第一世代ジェット戦闘機以上の戦闘機としか言えないものであった。
『Attention Attention. This is Japan Air Force.
(こちらは日本国国防空軍です。)
You are Violating Japanese Airspace.Leave Immediately.
(貴機は我が国の領空を侵犯している。直ちに退去せよ。)』
エルマー14の操縦士は無線警告を行う。同時に、後ろに搭乗する "支援通信官" という役は、一眼カメラでその機を撮影する。数枚撮ると今度は暗視レンズを装着しシャッターを数回。
『エルマー15、この機の印章見たことあるか?』
『いいや初めてみる。』
3機の機体に施された印章、国章か軍章と思われる印は、今まで見たこともないものであった。軍籍はもちろんその帰属国家すらも判別することができない。
『エルマー14、警告に従っている様子は見られるか?over』
『管制、目標に変化は無い。警告射撃を実施するover』
『エルマー14、了解over』
エルマー14の操縦士は、操縦席のディスプレイの中から、武装関連の情報が表示される右の画面をタッチ操作して武装を選択、操縦桿先端の赤い安全装置を親指で跳ね除け、スイッチを押し込む。
漆黒の空に溶け込むように、黒のステルス塗装が施された機体の機首から、連続した射撃音と発光と共に、20mm機関砲が1秒間、約100発の射撃を2回ほど行った。
すると報告の間も無く、目標が動く。
『っな!』
当該の戦闘機2機が突如として減速、エルマー隊の後ろへ回り込むような動きを見せた。と思えば、戦略爆撃機のような大型機の機体各所から、オレンジ色の発光が連続する。
直後、エルマー隊の機内では鉄がぶつかるような音が連続して響きわたった。
『?!』
反射的に操縦桿を倒して回避行動に入る。
『エルマー15!大丈夫か!』
『被弾した!』
エルマー14は、被弾はしたものの計器を見る限り大丈夫そうだ。しかし反対側にいたエルマー15の操縦席には、警報音が鳴り響いている。
『管制よりエルマー14、状況しらせover』
『当該機より発砲!被弾した』
『エルマー14、了解。目標群αの撃墜命令が下った。直ちに方位1−3−5へ退避せよ、現着したウィザード03、04が撃墜するover』
回避行動中、急旋回による強いGに耐えながら、叫ぶように僚機の墜落を報告する。
それとは対照的に、非常に事務的な声で管制より伝わったのは、当該3機が敵機と認定され、撃墜命令の対象機となったという事実。しかし撃墜を行うのはエルマー14ではなかった。
『ウィザード03よりエルマー14、待たせた。』
国防空軍中部方面航空団。第2飛行群第303飛行隊所属の、"F−3ステルス戦闘機" が2機。
空域に到着した彼らは、ミサイルを発射して撃墜を試みる。エルマー14への命令は射線上からの退避だった。
『ウィザード03!FOX2 Fire!』
『ウィザード04!FOX2 Fire!』
2機が1発ずつ発射した "AAM−7/39式短距離空対空誘導弾" は、まっすぐに目標へ向かう。
2機の敵戦闘機は撃墜された。回避行動と旋回の後、体勢を立て直したエルマー14は、残った敵戦略爆撃機を狙う。
『エルマー14FOX2 Fire!』
発射された "AIM−10V/アウル" は、回避行動をとる敵戦略爆撃機の後部に直撃。水平安定板や垂直尾翼が爆散すると、黒煙を上げながらどんどんと高度を下げていく。
『管制、目標群αの撃墜を確認。ウィザード03、RTB』
『ウィザード04、RTB』