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第三話・フリトの策謀−1

【新生暦1946年 8月24日 昼前−−−フリト帝政国帝都エアセル ロームルス城 会議室】


「ナカルメニア共和国は、エルテリーゼの第76番高地を占領後、我が国が貸与した43年式牽引砲にてエルテリーゼ大公国ナカルメニア駐留統治軍ツートブナ空洞鉱山駐屯地に対して砲撃を開始しました。−−−」


会議室に改装された旧謁見の間にて開催されている閣僚会議、発言しているのは軍務省を担当する、大臣の1人。名をエリック・T・アンダーソン、軍務相だ。


「−−−我が陸軍諜報部による調べでは、エルテリーゼの首脳部は前々からツートブナ空洞鉱山の放棄を考えていたことがわかりました。そのため、一方的な砲撃を受けている現状が、その決断を後押しさせるものではと考えております。」


「ここさえ陥落すれば、我々の勝利だ。今までかなりの額を投じてきたからな、うまく行ってくれなければ困る。−−−」


エリック 軍務相の発言に対して喜悦を漏らしたのは、エイドリアン・F・ゴールディング執託主席大臣であった。執託主席大臣とは、諸外国での内閣総理大臣に相当する役職である。


「−−−全く、エルテリーゼもなかなかしぶといものだな。しかしエルトラードからは撤退したんだ、もうすぐで我々の覇権は確立される。」


国内情勢の不安定なエルテリーゼ大公国に対し、反体制派を援助するなどの工作を行い、国内情勢のさらなる不安定化を誘発する。


そして同時に、エルテリーゼ大公国領であるナカルメニアに対しては、国家承認に加えて状況に合わせた断続的な経済的、軍事的支援を行うことで、エルテリーゼ大公国の国力低下を狙ってきた。


ナカルメニアの面積はエルテリーゼ大公国が持つ植民地の面積の約90%を占めるのだ。加えてナカルメニアには世界有数の鉄鉱石の産出地がある、これがツートブナ空洞鉱山だ。


ナカルメニアは寒冷地であり、作物が育たなければ元々の先住民も少ない。つまりエルテリーゼ大公国にとっては、ナカルメニアの価値すなわちツートブナ空洞鉱山の価値と言っても良い。


果たしてそこを失えばどうなるか、エルテリーゼ大公国は国内情勢の不安定化とそれに伴う経済難により、ついにナカルメニアから軍部隊を撤退せざるを得なくなる。


すでにエルトラード皇国からは撤退しているが、当初の予定ではエルテリーゼ大公国は、このエルトラード皇国からの撤退よりも先に、ナカルメニアからの撤退を決定すると考えていた。


その場合、当初の計画ではエルテリーゼ大公国はナカルメニアを失った時、せめてエルトラード皇国での影響力を失うことだけは避けたい未来であると考えるであろう。それはつまり、アドレヌ大陸での影響力を完全に失うことなのだから。


そのため、そんなエルトラード皇国からエルテリーゼ大公国が動かざるを得ない状況をつくりださなくてはならなかった。そのために選んだ道が、ガランティルス大陸のペント・ゴール帝国と協力してユト大陸でのロブロセン内戦を利用することであった。


この計画を記し、双方国の代表の署名がなされた機密文書こそが、エアセル文書である。


「では次にユトでの各国の動向についてです。−−−」


発言したのは外務省を担当する大臣、エリオット・リ・ラットール 外務相だ。


「−−−まずロブロセン内戦に関してです。未だロブロセン王国にはレンツ帝国が進駐したままですが、はやりガランティルス大陸での対立によって事実上の停戦状態となっているようです。計画よりも早いですが、もう列強各国に対するペント・ゴール帝国との連名での、国際会議の開催提言を通知してもいいかもしれません。」


しかし、ラットール 外務相の発言にアンダーソン軍務相が異議を唱えた。


「いえ、その前にエルトラード皇国からコス平野をはじめとしたコスロ地域を奪還するべきです。」


「ですが、アンダーソン殿は、それはナカルメニアからエルテリーゼが完全撤退したらとおっしゃいましたよね、ではそれまで待つんですか?」


「そうです、」


「しかしそれでは時間がかかりすぎるのでは?ロブロセン内戦が膠着している今こそ最高のタイミングなのですよ」


「ですが外務相、軍縮を目的とした国際会議の開催を要求したあとで、我が国が戦争をするなど国際社会からしたらどう見えるでしょうか?」


アンダーソン 軍務相の発言に対して言い返す言葉を見つけられないラットール 外務相は、苦し紛れにもなんとか続ける。


「そもそもコスロ地域の奪還など、今すべきことではないでしょう。あのような荒地を取り戻したとてどうするつもりなのですか?」


確かに、コスロ地域を細分化した時、コス平野と類される土地はすでに実効支配を行っているが、コスロ地域全体で見ればそのコス平野の面積は40%にとどまる。


そして、実効支配を行っているコス平野以外は、お世辞にも豊かな土地と呼べるものではないため、経済的に考えれば、奪還すべきはコス平野だけでいいと言うことになる。


しかしそれを感情が許すはずがない。苦し紛れに異を唱えたラットール 外務相とて本心で言えば、余裕があれば、と言う程度であるが、確かに奪還したいという考えを持っている。


しかしアンダーソン 軍務相の耳に届いたのはそんな本心ではなく、ラットール 外務相が苦し紛れに言い放ったその場しのぎの意見だけであった。


「ラットール殿、それは聞き捨てなりませんぞ、」


アンダーソン 軍務相の言葉によって、会議室の空気が少々変化したようだった。いち早くそれを察知してすかさず2人の間に割って入り、助け舟を出したのはゴールディング執託主席大臣だった。


「アンダーソン君、落ち着きなさい。私も奪還には賛成だが、経済的に考えればあまり現実的ではないということも確かだ。コスロ地域を奪還したとしても、また皇国からのさらなる反発が予想されるだろう。」


ちなみに、このコスロ地域の奪還に関しては、以前の閣僚会議で賛成多数ですでに決定されていた事項である。


「そこでだ、私から提案があるのだが、いいかね?」


一呼吸置いて、ゴールディング執託主席大臣は続ける。


「まず、実は先ほど国家情報局から報告が上がってきた。この会議が始まるほんの数十分前だ。」


そういうと、ゴールディング執託主席大臣は、自身の前に積み重なっていた卓上のたくさんの資料の中から一枚の紙を手に取り、それを読み上げ始めた。


「エルテリーゼ大公国についてのもので、公王府がとある貴族に向けた書簡の一部だそうだ。『−−−国内情勢の不安定化により、国家運営においてその基盤が大きく揺らぎつつある現状況下にあっては、ナカルメニア地域における状況の打開は困難にあると結論至った。公王陛下は、現在までもその身を顧みず公国への奉仕を続け、賜ったその命を散らす公国軍人の状況にお心を痛められている。』との内容だそうだ。−−−」


それがどうしたのだろうか、部屋の者らが同時にその疑問を頭に浮かべた。しかし話はそれで終わりではなかった。


「問題なのはその後だ、『−−−公王府は現在、公王陛下のお言葉に応え、ナカルメニア地域からの撤退に関してを討議しており、−−−』と、」


そしてこれはいつの情報なのかといえば、約3週間前のものだそうだ。


「なるほど鉱山の放棄だけでなく、ナカルメニアからの完全撤退、、、」


「そこでだ、私から提案がある。エルテリーゼ大公国の、ナカルメニアからの完全撤退という情報が確定した段階で、−−−」


ゴールディング執託主席大臣の切り込んだ発言に部屋が静まり返る。数秒ほど言葉を溜めた後、続く発言は誰もがその一瞬の合間に予想したことであった。


「−−−我が国はエルトラード皇国に対し宣戦を布告しようと思うのだがどうかね」


この言葉はこの会議中に正式に採択された。歴史が動いた瞬間であった。そして会議は続く。


「しかし、そうなると食料品や物資が回りません。日本国への支援を打ち切るしかなくなりますが、大丈夫ですか?」


そう発言したのは、内務省を担当する大臣、ブライス・S・ロッカード 内務相だった。


「確かに戦争しながらの支援は重荷だろう。それでどうだね、日本国軍を参戦させるというのは、」


それに対してはラットール 外務相が芳しくない考えを表した。


「彼の国の政治体制や情勢を考えると、こちらに引き込むのは困難でしょう。それに、日本国は現在、戦争などする余裕はないと思われます。これは彼の国と同じ状況に立たされた場合、セリトリムでも同じことが言えます。」


「しかし、今後日本との関係を深めていくならば、書面上だけではなくこの目で、その軍事力を見極めたいところです。」


日本国の軍事力については、断片的ではあるがある程度伝わっており、現状では軍務省は、ある分野においてはフリト帝政国と同等かそれ以上という正式決定がなされている。


「それに関しては私に考えがあるんだが、良いかね?」


アンダーソン 軍務相の言葉に続くようにして、ゴールディング執託主席大臣が口を開いた。

流動的な世界情勢の中、各国ともにいろいろな動きを加速させてますが、一体どこへ向かいどこで交わるのでしょうね。日本国はその中にどうやって混ざり入るのでしょうか。


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