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第二話・ナカルメニア共和国軍


【新生暦1946年 8月17日 朝−−−ナカルメニア共和国ツートブナ平原 第9前哨基地】


ナカルメニア共和国。エルテリーゼ大公国領ナカルメニアから独立を掲げ蜂起した新興国家である。


宗主国たるエルテリーゼ大公国は近年、国内情勢が非常に不安定であり、植民地に軍部隊を割く余裕がなくなってきている。ここナカルメニアでも駐留しているエルテリーゼ大公国軍は減り続けているという現状だ。


そのため、ここ最近のナカルメニア共和国軍は連戦連勝の快進撃を続けている。そして今日も、大きな作戦が行われようとしていた。


「ツートブナ空洞鉱山を制圧する」


そう高らかに宣言するのは、ナカルメニア共和国軍の第1軍大将、ロジャー・J・プロストという初老の男だ。


筋肉質な体躯に猛禽類のような鋭い眼光。作戦会議が行われている1張の野戦天幕、その中で他の幹部とともに地図が広げられた机を囲んで座る、プロスト 第1軍大将は続ける。


「ツートブナ空洞鉱山を押さえさえすれば、ナカルメニアの継戦能力は大きく削がれるだろう」


そう言って指差した地図上のツートブナ空洞鉱山には、周囲を小規模な町が囲んでいた。


その町は鉱夫や奴隷、エルテリーゼ大公国ナカルメニア駐留統治軍の軍人らが暮らす小さな町だ。


この付近には他にも、7〜10kmの間隔で4つの小さな街が点在している。その中心に位置するツートブナ空洞鉱山街からは、全4本の鉄道路線が放射状に広がり、それらは4つの街と繋がっており、兵站拠点として機能しているのだ。


また、このツートブナ空洞鉱山から伸びる鉄道路線全4本は、それぞれが別の街へ至った後、その中の1本だけはそこで終わらずに、街からさらに西へ伸びている。


それを辿れば、エルテリーゼ大公国のナカルメニア統治機構及び、ナカルメニア駐留統治軍の本拠地である、西部海岸にまで達することができるのだ。


「鉱山の守備隊は歩兵部隊が2個連隊と、砲兵部隊が1個大隊を確認しています」


「多いな。彼我兵力は数的には我が軍とほぼ互角、しかし相手が取る戦法は要塞化された鉱山での籠城戦だ。どう攻める?」


ナカルメニア共和国軍第一軍の兵力は、歩兵2個連隊と、砲兵2個中隊、その他後方支援としての民兵集団がいるのみである。


「やはり砲兵による制圧射撃が効果的かと、正面には敵砲兵部隊が展開していますから、側面の丘陵地を奪取すべきです」


プロスト将軍のすぐそばに座る参謀の1人が、地図上、ツートブナ鉱山付近の丘陵地帯を指差して話す。


すると、それをみた別の参謀が疑問を呈したようだ。


「しかし、そこには敵のトーチカが複数確認されています。鉱山での制圧射撃のために砲兵はなるべく温存したいところですよ…」


「えぇ、砲兵は最初に数発撃つだけです。今朝戻った斥候の情報では、ここに駐留しているのはわずか1個小隊だと判明しました。こちらの一個連隊をぶつけて数で押し通せばいいでしょう…」


「1個小隊ですか?」


以前であれば1個大隊はいたはずだ、なぜここまで減ってるのか、その答えはプロスト将軍が答えてくれた。


「おそらく、残りは鉱山まで撤退したんだろう。鉱山の守備隊が増えているのはそのためだ」


「だとすれば奴ら、近いうちに鉱山からも撤退するのでは?」


参謀の1人が、敵の撤退を待って無血開城による兵力温存を提案した。しかし、それはすぐさま否定される。


「ダメだ、今後のためにも、我が軍が戦い奪取したというパフォーマンスが必要なんだ」


「わかりました。ではこの丘陵を攻め落とし、観測所を設置した後、丘陵前方に砲兵を前進後、鉱山に対し制圧射撃。これでよろしいですね?」


「あぁ、決行は明後日19日明朝とする」

__________


【新生暦1946年 8月19日 朝−−−エルテリーゼ大公国領ナカルメニア ツートブナ平原 第76番高地 Aトーチカ】


「中隊長!我がほうへ前進する反乱軍を前方3km地点で確認!」


「規模は?!」


「少なくとも2個大隊以上です!」


ナカルメニア駐留統治軍第2師団第76番高地守備隊第4中隊第1小隊は混乱の最中にあった。撤退準備中に、自らの倍以上の敵兵力が迫っているという報告によるものだ。


「作業はどこまで進んでいる?」


「物資の持ち出しにはもう少し時間がかかります、まだ火砲の破壊もできてません!」


中隊長と呼ばれた男は、機密文書の焼却処分のため、手当たり次第に部屋の書類をかき集めていたその手を止め、逡巡する。


「全作業を中断し、すぐに撤退する、」


「しかし、それでは鹵獲されますがよろしいのですか?」


その直後、けたたましい轟音が数回響き渡ると、その都度地面を揺らしていく。


「砲撃だ!火砲の破壊も、トラップの敷設もしなくていい、すぐにここから撤退する!鉱山に連絡し−−−」


直後、本部が設置されていたAトーチカは爆風と炎によって瓦礫と化した。

__________


【新生暦1946年 8月19日 朝−−−エルテリーゼ大公国領ナカルメニア ツートブナ平原 第76番高地より1km地点】


『阻止射撃を実施中、効果を報告されたい』


「こちら観測班、敵丘陵拠点への全弾命中を確認。しかし敵に反応はみられず、組織的抵抗力はないと判断する」

__________


同日、8月19日。ナカルメニア共和国軍第一軍は、エルテリーゼ大公国ナカルメニア駐留統治軍の第76番高地を占領、観測所を設置。


翌、8月21日。エルテリーゼ大公国領ナカルメニアツートブナ空洞鉱山への制圧射撃を開始した。

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