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第六話・国家情報調査統括委員会

ついにブックマーク三桁です!

【???−−−???】


「これ以上の支援は不可能です。本当に申し訳ない。」


「そうですか、やはり、、、」


狭くジメジメとした薄暗い部屋。天井に吊るされたキャンプ用品のガスランタンが、その部屋をオレンジ色に照らしている。冷たいコンクリートの壁には、東京の地図や新聞の切り抜きが貼られていた。


そんな部屋で、物が乱雑に置かれた木製の机を挟んであいたいする二人の男。一人は、何日も洗濯していないであろう、黒色でありながらも十分に汚れの目立つTシャツを着て、今にも脚が折れてしまいそうなボロボロの椅子に腰掛ける、汚らしい中年期の男。


反対に立つのは、この場に似つかわしくない小綺麗な濃紺のスーツを着こなし、まるで自身を律するかのように引き締められた真っ赤なネクタイが品格を感じさせるオールバックの男だ。顔面はアジア系で、眉毛や肌もケアが行き届いており、清潔感のある、二十代後半といったところだろうか。十分に聞き取れるものの、ところどころアクセントに違和感を覚えさせるその日本語は、日本人では無いことを暗に示している。


「勘違いしないでいただきたい。なんども言うが私は支援者ではなくただの仲介人です。当の支援者が消えてしまった以上、私にはどうすることもできないのですよ。したがって支援の打ち切りは本意ではない、」


「わかっていますとも。あなたを責める気は無い、」


「三号館の件もあります。そろそろ国公院も表だって行動してくる頃でしょうね。これからどうするおつもりですか?」


「多民族解放連盟と我々の関係はすでに割れていると聞きました。法執行も時間の問題でしょうな、少しでも逃げる時間を作るために、行動するつもりです。」


「そうですか、、、もうあうことはないでしょう。最後にこれを、」


彼がそう言って机に置いた紙袋は、ドンッと重厚な音を立て、続けて金属製のたくさんの何かが擦れるような、崩れるようなガラガラという音をたてた。


「では失礼します。」


スーツ姿のその男は、ところどころに錆が目立つ重厚な鉄製の扉を開き、部屋を出て行った。

__________


【西暦2040年 7月9日 夕方−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地東京地区 特別政令指定地区第1地区 内閣府本庁舎2階 C号会議室 国家情報調査統括委員会】


国家情報調査統括会議。それは国家情報調査統括会議設置法に基づき、内閣に設置された〇〇本部等の一つである。本部長には内閣総理大臣が、副本部長には内閣官房長官及び特命担当大臣が充てられ、その他全ての国務大臣を本部員として構成されている。


内閣総理大臣を本部長とした国家情報調査統括会議は、日本国に複数存在する情報機関からの報告を集約し、多角的かつ的確な分析をもって今後の国家運営における方針を示すことを目的としたものである。


複数ある情報機関を内閣総理大臣が統括することによって、指揮系統の混乱等を防ぎつつ、効率的な横割り業務による円滑な情報共有システムと相互協力体制を確立し、インテリジェンス面でより強固な治安維持・安全保障体制を構築している。


そんな国家情報調査統括会議の本部員からの諮問に応じて、安全保障状況、治安状況、国際情勢、テロリズム等の重大犯罪の捜査進捗など、実務者の専門的な知見に基づく的確な状況分析と、それらの関係予算や法的根拠などに関する事項を集約、審議し、国家情報調査統括会議に対する意見・勧告をもって意思決定を補佐する機関として設置されているのが、この国家情報調査統括委員会である。


委員長には内閣に設置された直属の情報機関である内閣情報局の局長が充てられている。他委員には各情報機関の長をはじめ、各省庁の大臣官房政務官などが充てられており、さらにその下には委員補佐官として参加する者がいるのだが、今回は長くなるため割愛する。


「まず1週間後に開催される国家情報調査統括会議の議題、我が国の治安に関してです。」


司会進行は前述の通り内閣情報局長の、梅沢 敏広である。1週間後、国家情報調査統括会議が開催される予定であり、それに伴い日本国の現状における治安状況を確認し、フリト帝政国日本視察団の来日までにそれの改善を目的とした指針の策定が行われる。


「日本特事の混乱によって、三号館テロと三号館前闘争が起爆剤となって国内の治安が悪化の一途を辿ってます。失職率も右肩上がりで今後、ゼロ区を中心に東京の治安は高経成長期よりも酷いと予想され、下手をすれば2000年代初頭レベルまで上昇することも考えられます。」


「やはり第一の問題はゼロ区か、、、できればフリト使節団の来日までに東自の解体。最低でも活動不能なレベルまでの弱体化を狙いたい。」


梅沢 局長がそういうと、国家公安捜査庁長官としてこの場にいた男。蓑田 望が手を挙げる。


「公安庁です。東京自治会に関してですが、近日中にうちと、国公院さんの方で協力して、確認している拠点全てに対する同時摘発を計画しています。失敗するつもりはありませんが、万が一ミスがあっても奴らの弱体化は確実に期待できるかと、」


「ほんとうですか、」


「それは、、、」


「ついにですか、、、」


蓑田 長官の言葉を聞いた参加者の全員が、小さく喜悦な感情を表に漏らす。第二次関東大震災と令和改革以降、旧首都圏政府直轄開発地立入制限区域と東京自治会については、長年ここにいる者らを悩ませていた事案だ。それがついに解決するとなれば、喜ばずにはいられない。


「フリト帝政国の視察団に被害が出れば、責任問題どころでは無い。徹底的にやってもらいたい」


「無論です。公安庁さんの保安執行部と、我々も戦行局を出します。」


梅沢 局長からの要請に答えたのは、国家公安法執行議院の政策統括官を務める重泉 宏太という男だ。


「しかし問題もあります。三号館の時のように、野次馬や反政府思想をもった群衆、浮浪者らが物理的な障害になると考えられます。」


「それはおたくの警察庁のほうで対処すればいいのでは?」


そんな問い対し、重泉 政策統括官は他人事のように言われたことに対して若干の怒りを覚えつつ、感情を隠し淡々と答える。


「すでに警視庁はパンク寸前ですよ、これ以上の混乱が起きればとうとう抑えきれません。全国から人員を派遣しても尚この状況です。同じ足りていないものでも予算は最悪なんとかなります。ですが人員の不足はどうにもできませんでね、実際に機能不全に陥っている部署所轄もあると報告を受けています。」


重泉 政策統括官は続ける。今更ながら改めて述べるが警察庁は国家公安法執行議院の外局という位置付けである。


「国防軍の治安出動を総理に進言するよう、お願いしたい。」


国防軍による治安出動命令。警察官職務執行法を準用し、警察業務の一部を実施する。犯罪捜査は行わず部隊を街中に展開し、犯罪の抑制を主な任務としている。


犯人逮捕にあっては、自治体警察や国家公安捜査庁、国家公安法執行議院からの要請があった場合に限り、裁判所が発行する令状を伴っての代理法執行のみが可能であり、他に認められているのは民間人と同様に現行犯での身柄確保だけだ。


諄いようだが、あくまでも犯罪の抑制が主な任務である。しかし、それだけでも警察官の見回り強化や機動隊の展開などとは比べ物にならないほどの、治安効果を発揮する。


「省内でもすでに話が上がっており、すでに統合参謀総長が治安出動準備命令を発令しています。」


「わかりました、会議で総理に進言します。ですが期待しないでください、」


この非常事態にあって政府は、日本の未来のためとはいえ、北四政策をはじめ、旧首都圏政府直轄開発地の制定の際と肩を並べる、いやそれ以上に、かなり強引な政策を展開している。


それは口に出さないだけで、当の閣僚らも重々承知しており、こじつけに近いが大元を辿れば、三号館の件も政府が原因だと言えないことはない。


そんな中で治安出動命令を下令し、国防軍の部隊を展開すれば、基本的人権の抑圧だとも言われかねず、国民の不満は溜まる一方である。


警察機構の危機的状況を把握している内閣が、にもかかわらず幾度も話題に上がる国防軍による治安出動命令を決断できないのは、そういった理由が大きく影響している。


閣僚らのそんな会話を何度か直接見聞きしている梅沢 局長は勿論、ここにいる全員が、そのような理由から下令されることは無いとわかっている。にもかかわらず、実務者たちがしつこいようにそれを訴える様子は、深刻な現状の治安状況を物語っていた。


さらに追い討ちをかけるように、国防省国防大臣官房室の国防大臣政務官である仲田 祐一が手を挙げ発言する。


「三号館の多民族解放連盟に当てられたのか、在日米軍内で、デモ活動や活動団体の結成など、アメリカ人を主とした外国人の人権保護を訴える声が強くなっています。米軍の内部犯罪捜査機関の極東本部及び日本支部、そして軍司令部に対して、過激化を防ぐよう要請していますが、時間の問題だと報告されています、、、」


祖国を失い、家族を失った者も多い駐日合衆国軍の軍人らは、精神的に疲弊し、半分ほど自暴自棄になっているのだろう。もはや内閣の意思に関係なく治安出動は必須な状況に追い込まれつつある。


「極右団体や極左団体、暴力団の活性化も−−−」


「大量の失業者がゼロ区に流入し−−−」


「事業崩壊が相次ぎ、労基監督署のほうが過労死寸前で−−−」


「過疎地では犯罪組織による食料品の窃盗被害が−−−」


「大規模なデモや暴動で交通網が麻痺し−−−」

お久しぶりです、虎石です。ついにブックマークが三桁まで行きました。

正直すぐにやめてしまうと思っていましたが、読んでくださる方が多く、続けられました。今後も同じ頻度で投稿を続けるのでよろしくお願いします。尚、現在23時で統一している投稿時間については、再考中です。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう会議シーン好きです。 読み飛ばしたくなるようなものもありますが、この作品に限ってはそうならないのはさすがです。
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