第四話・突入
【西暦2040年 7月4日 深夜−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地東京地区 特別政令指定地区第1地区 中央合同庁舎三号館】
国家公安捜査庁保安執行部第二小隊は、中央合同庁舎三号館の正面玄関から侵入しようとしていた。
『突入、今っ』
「開扉」
小声での隊長各の隊員の指示で、隊員の一人がロックが解除されている重いシャッターを持ち上げると、同時に装備を整え銃を構えた隊員たちが、一列に並んで慎重に進入する。
大勢の隊員が、規律だった動きでぞろぞろとなだれ込み、無線から流れる報告は、制圧が着実に進んでいることを示している。
しばらくして、部隊はセキュリティシステムのコンソールが置かれている警備室の前にやってきた。しかし、ここで障害が発生する。中から物音がするのだ。
言葉こそ発しないが、隊員たちはアイコンタクトとハンドサインで意思疎通する。隊長格からの指示を正確に受け取り、実行に移そうとする隊員の手には工業用内視鏡があった。
普通であれば状況的に扉を蹴破り突入するところだが、今回は音を立てられないのでカメラで内部を確認する。もし敵だった場合、扉ごしに乱射された際の被弾を防ぐため、隊員らは扉を避けて廊下と部屋を隔てる壁に沿って一列になり待機している。
カメラを扉の下を潜らせると、手元のモニターには部屋の様子が映し出される。部屋はあたり一面に血が飛び散り、壁には無数の弾痕がある。そんな部屋の、机の下で人がうずくまっていた。血まみれの服に崩れた髪の毛、一見死体にも思えるが肩を上下させ荒い呼吸を繰り返している。
「確保」
ゆっくりと扉を開けて、銃を構えながら近づく。
「公安庁です大丈夫ですか?」
涙を流しながら、あまりの体験に声をだせずに、代わりに大きく何度も頷きながらその女性は隊員に確保された。
「警備室確保。同所にて生存者を確保、目立った外傷無し。救護班を要請どうぞ、」
その後、隊員2名が正面玄関まで運び、そこで救護班に受け渡して保護が完了すると、隊員の1人がコンソールを操作し始める。警備室にきた目的は、女性の保護ではなくコンソールの確保だ。
「第二小隊より本部、システム制圧完了どうぞ、」
『本部より第一小隊、システム制圧完了。2階以上への突入を開始。』
生存者の存在によって、想定よりも少し時間がかかったが、セキュリティシステムの確保が完了した。そして計画通りに第一小隊を先頭に、第二小隊も2階への突入が開始される。
「警備室より先行する部隊へ、2、3階に敵影無し。4階の階段ホールに伏兵が2名。3階担当は注意されたい。」
キーボードやモニターが破壊されていたため、持ち込んだpcを接続して、監視カメラの映像を確認し、状況を報告している。そのかいもあり、一階よりも早い速度で2階と3階の制圧は進んで行った。