少女を喪った少年
ちょっとした悲しいお話です・・・
その少年は暗闇の中で立っていた。
辺りを見渡しても,暗闇以外にはなにもなかった。ふと気づくと目の前には白いワンピースを着た金髪の少女が立っている。
麦わら帽子をかぶり,足にはサンダルを履いているその恰好はどこか,手を伸ばせば壊れてしまいそうな儚さを想起させる。
少年は唖然としていた。何か信じられないものでも見てるかのような。お化けを見ているような表情ではない。そこには嬉しさと絶望が入り混じっているようなぐちゃぐちゃな顔があった。
少年にとってその少女は誰よりも大切だった。だが,愛しい少女はもう,いない。そう覚悟したのに。またありもしないご都合主義を願ってしまう。
怖い。この世の何よりも大切な少女を目の前で失ってしまう光景を,思い出すことが。あの日々の笑顔はもうどこにもない。
少女はこの世を去り,少年は新たな生活が既に存在する。いつまでも未練たらっしくしがみつくことに意味もないのに。むしろ自らを苦しめるだけの行為なのに。
しかし,少年は少女の手を取っていた。ご都合主義なんか存在しないはずなのに。それでも,少女が甘い囁きをかける。
「一緒にいこう?」
その言葉が最後だった。暗闇に強い光が差し込み,少年と少女は光へと昇っていく。少年はもう少女を喪ったことを悲しむことはない。いつでも,隣に寄り添っているから。
その日,煉瓦で造られた街並みの一角,小さな家の片隅で一人の少年が涙を流しながら息を引き取った。