第6話~人の神~
そうしてまた、次の土曜日がやって来た。
「着いたな」
オカルト部全員が社の前に立っていた。
「ホントに言っちゃうの?」
梓紗が言った。
「ああ」
「猛は言い出したらきかないのよ。それに、もう決めたじゃない」
「そうね。うじうじ言ってるのは私の方ね」
「風の神と……お別れは……辛い……でも……風の神の……為に……我慢……」
愛実は涙目になっていた。
「居行……」
道正は普段の愛実を知っているからこそ愛実がどれだけの思いで風の神との別れを選択したかがわかった。
「……開けるぞ」
観月が言った。皆、緊張した面持ちで社を見た。
観月が扉に手をかけた。扉を開けた先にあったのは……
「じゃーかーらー!わしのせいじゃ無いと言うとろうが!」
「だって僕の独楽踏んで壊したのフウじゃん!」
「その辺に放っとるドドが悪い!」
「何やってんの?」
あまりの緊張感の無さに流石の猛も呆れていた。
「人の子!今取り込み中じゃ!」
「そうだ!」
「いや、こっちの方が先に予約してたんだけど……」
「二人共!いい加減にしなさい!」
水の神が一喝した。
「喧嘩両成敗よ!二人共お互いにごめんなさいしなさい」
「じゃが……」
「だって……」
「頭から水を被りたい?」
「すまんかった!」
「こっちこそごめん!」
「よろしい」
二人の騒動はひとまず収束したらしいが、なんだか毒気を抜かれてしまった。
それでも、言わねばなるまい。
「あー、あのさ、皆に言う事があるんだけど……」
猛は話し始めた。
神咲家の事、勾玉の事、神達の解放の事……。
最初は警戒していた神達だが、徐々に話の内容を理解していった。だが……
「それが本当っていう理由がねぇ。俺らを騙して良い様に使う気じゃねぇのか」
「そうねぇ。勾玉は確かにあるけども、それが私達の解放、ねぇ……」
火の神と水の神は信じきれない様だ。
「愛実はそんな事をする奴ではない!」
「今まで人間達に良い様に使われてきたのを忘れたの?」
「う、ぐ……」
風の神は言い返せない様だ。
「信じてみましょうよ~」
「お前はそう思うかもしれないけどな……」
「ホントだよ。僕とジンが保証する。ね、そうでしょ、ジン」
皆の注目が人の神に集まる。人の神はその視線に耐えきれなかった様で、火の神の後ろに隠れた。
「あ、あの、あの……そう、です……間違って……無い……です……」
「そうなのか……」
「むむ~。ジンとドドが言うならそうなのね……」
火の神と水の神はようやく納得した様だ。
「なら、勾玉を渡してくれ」
「それは……その……」
人の神は何やらもごもごと言っている。
「俺は『神咲家』のもんだ。俺の言う事もきけないか?」
「おい。あんまり調子にのってんじゃねぇぞ」
火の神が凄んだ。
「火の神がどう言おうとこれは譲れない」
「ちっ」
「勾玉、勾玉~」
「っておいハナ!?」
花の神が勾玉のしまってある戸棚を開けた。
「前にジンが閉まってたの見たことあるのよねん~」
「何勝手に開けてんだ!」
「言ったでしょ。これからはジン一人に頑張らせない、って。ジンが動けないならあたいがやるまでよん。それともホムラは解放される事に反対なのん?」
「……」
「なら、あたいはジンに勾玉を渡すまでよん」
「しょうがないわね……」
水の神も納得した様だ。
「はい!ジン。勾玉よん。ちゃんとあの子に渡してね」
花の神はそう言って人の神に勾玉を渡した。
「ハナ……ありがとう……」
「良いって事よん♪」
「『神咲』さん」
人の神は猛達に向き直ると、そう言って近付いて来た。
「私達の事、よろしくお願いします」
人の神は猛の手を包み込む様にして勾玉を渡した。
「ああ」
猛はその想いを受け取った。
「……」
「何?今更怖じ気づいたの?」
乃々花は猛に言った。
「う……そ、そんなんじゃ……」
「私達だって猛一人に背負わせる気は無いわ」
そう言って乃々花は猛の掌の勾玉の上に手を乗せた。
「ま、そうだよな」
「私……も……」
「私だってそうよ!」
「もちろん俺もだ」
そう言ってオカルト部の部員達は次々と猛の掌の上に手を乗せていった。
「みんな……うっし!やるか!」
猛は気合いを入れると、こう言った。
「『全ての神々を解放したまえ』」
バリン!そう言った途端勾玉が大きな男をたてて粉々に砕け散った。
「……やった……のか……?」
猛達は神達の方を見た。
神達の姿は薄くなり、淡い光を放っていた。
「ホントに解放されんだな……」
「私達の苦労は何だったの、ってくらいあっさりね」
「終わりなんて呆気ない。そういうもんじゃろう」
「やったー。もう怪異狩りも災害鎮めもしなくて良いんだー」
「でも、人間に生まれ変わったらそれと向き合わなきゃならないのよん」
「そうだけどー」
「おい人間」
火の神がオカルト部員達の方を見た。
「……礼を言う」
「私も」
水の神もそう言った。
「わしもじゃ!」
「一応僕も」
「もちろん私もよ~ん」
「礼を言わなきゃなんねぇのはこっちの方。今までありがとな」
「風の神……!」
愛実は泣きながら薄くなってゆく風の神に抱きついた。
「愛実……」
「私……風の神の事……忘れない……」
「ありがとの……」
風の神は愛実の頭を撫でた。
「あのさ、さっきは悪かったよ。このまま別れるとか後味悪いし」
土の神が風の神に言った。
「わしも悪かった」
「ジン……」
火の神は人の神の方を見た。
「これで……お別れ、だね……1000年間ありがとう……皆がいたから、私は頑張れたの」
火の神は人の神の事を抱き締めた。
「ホ、ホムラ!?」
「生まれ変わってもお前の事を探しに行く。今までとおんなじだろ?」
「ホムラ……」
人の神も火の神の事を抱き締めた。
「あーあ、見せつけてくれちゃって」
「良いじゃな~い」
「……また、会えると良いわね……」
「きっと会えるわよ~ん」
神達の姿が一段と薄くなってゆく。
「あなた達とも会えると良いわねん♪」
「じゃあね」
水の神達はそう言い残すと淡い光をふわりと残し消えていった。
「これで……終わりか……」
「終わりじゃないわよ」
猛が言うと、乃々花が言った。
「え?」
「これからは神様に頼らずに私達でいろんな事を解決していかなきゃいけないじゃない?……これから、よ」
「……そうだな!」