第4話~土の神~
「神達の解放?」
猛は聞いた。
「ああ。神咲に貸してもらった本によればそれが出来るらしい。神の魂を解放して人間に戻れる……転生出来る様にな。ただし……簡単なのは神達を創る事を先導した神咲家の者によってな。それ以外だと手順や準備が複雑だ」
「先導……神咲家って……俺!?」
「ああ」
「じゃあ、俺の先祖が率先して子供を殺してたって事かよ……」
「致し方ない理由もある。それだけ怪異や災害が脅威だったんだ」
「けど……」
「それに、先祖が子供を殺してたのはお前の所だけじゃない。皆何かしらの理由で子供を手にかけてたかもしれない」
「最蓮先輩……」
「ちょっ、ちょっと待って!今の話の流れだとあの強い神様達を手放しちゃうって事でしょ?それって……良いの……?」
梓紗が言った。
「確かに……最近ここいらじゃ怪異の話は聞かない。水の神が怪異を倒してるからじゃないのか……?」
道正も梓紗に同意した。
「風の神の……お目目……綺麗だよ……?」
愛実は別のベクトルから同意する。
「けどっ、このままあの神様達を人間達の手で縛り付けて良いもんなのか?そんな残酷な話ってあるか?」
猛は梓紗達の意見に反論する。
「うっ……それは……そうだけど……」
「それを言われるのは辛いな……」
「……風の神……辛い目にあわせるのは……嫌……」
「けど、そもそも私達オカルト部の目的って『怪異をどうにかする事』でしょ?」
乃々花が口を開いた。
「でも俺はこんな手段でどうにかしたいとは思わない」
「でも水の神達がいればきっと何万人、いえ、きっとそれ以上の人達の命が助かるのよ。それでも解放するっていうの?」
「神達はもう1000年もそうやって頑張ってきたんだ……そろそろ終わらせても良いんじゃないか?神達の犠牲の上にいる平穏なんて俺は嫌だ」
「…………はぁ~。全く猛は強情ね。言い出したら聞かないんだから」
「……あっ!もしかして俺を試したな!」
「中途半端な覚悟でそんな事してほしくなかったからよ。意見も割れてたしね。じゃあ、神様達を解放するっていう方向で皆良いわね」
乃々花は部員達を見回した。
「おう!」
「ああ」
「う~……わかったわよ……」
「しょうがない、か……」
「風の神……楽にさせる……」
「決まり、ね。さ、じゃあ後は次の神様を起こすのは誰かって事ね」
「それは俺が行こう」
「最蓮先輩?」
猛が言った。
「神を解放する為に必要なものが本当にあるのかどうか、確認する必要がある。」
「じゃあ、今回は最蓮先輩で決定ですね」
乃々花が今回の部活のまとめに入ろうとする。
「じゃあ解散~」
だが猛が先にそれを言ってしまった。乃々花は頬を膨らませた。
「勾玉?ああ、ジ……人の神が大切そうにしまってあるのなら見たことあるわよ。何?なんの悪巧み?」
「それだ!」
猛は嬉しそうに叫んだ。
「何をする気なの?」
「あ、えっと……な、内緒」
猛は観月から言われた事を思い出していた。
『神達にはこの事は言わない方が良い。制約に縛られて邪魔をするかもしれないからな』
「ふーん。怪しいわね。昨日の事といい、何をしでかす気かしら」
「水の神達の悪い様にはしねぇよ」
「ま、いいわ。人間が私達に何かするなんて今更だしね」
水の神の諦めた様な素振りに猛は心が痛んだ。
「悪い様にはしない。約束する」
「な、何よ。いきなり真面目に……」
「教えてくれてありがとな!」
次の土曜日……。
「この社に来るのも四回目かあ……」
「神咲は相当数来ているな」
「わしの方が来とる!」
風の神はよくわからない自慢をした。
「はいはいじゃあ開けるわよー」
水の神はそれを軽く流して扉に手をかけた。
その先には何やら気まずそうな人の神と火の神がいた。両名とも頬を染めている気がする。
「え?何この空気」
「あー……」
水の神は何かを察した様だ。
「水の神、どういう……」
「世の中には知らなくて良い事があるのよ……。特に男女の仲には」
「えっ……もしかして……」
「それ以上は言わんで良い!」
「ごほん……良く来てくれました人の子さん」
「お、おう……」
「次はそこの土の神を起こして下さい」
人の神は気まずい空気を一蹴するかの様に言う。
そこには茶色い長髪を頭の横で輪っかの様に結んだ風の神より更に幼く見える身長の低い子がいた。
「この子か……ではいくぞ」
観月は土の神の隣に膝まずいた。
「『土の神よ、目覚めたまえ』」
観月がそう言うと土の神から茶色の光と共に砂嵐が吹き荒れた。
「うわっ!」
その光も砂嵐もすぐに土の神へと収縮されていった。
そして……
「んん……んー……?」
土の神がむくりと起き上がった。……かと思うと……
「あと半刻……」
そう言ってまたばたりと寝転がった。
「起きろ!ドド!」
火の神が丸まって寝ている土の神の背中を蹴っ飛ばした。
「いったいなー!何すんのさ!」
「お前が起きようとしねぇからだろ!」
「ってか何でみんな起きてんのさ」
「ジンの制約で起こされたんだよ」
「ふーん……」
土の神はそう言って人の神を見た。
また、ピシリと音が鳴った。
「ドド……私の力が足りないばっかりに……ごめんなさい……」
そして、パリン、と音がなる。
「……ごめんなさい」
「え?」
猛は、また人の神は「人の役にたて」と言うのかと思っていただけに面食らった。
「制約が薄まってきたんだな……」
火の神はポツリと呟いた。
「どういう事だ?」
観月が火の神に聞いた。
「俺らを眠らせている状態は制約違反だ。その為に無理矢理制約がジンを操る。けど、今はもう四人起こしてる。だから制約が薄まってジン本来の人格や意志が戻ってきてんだよ」
「後は愛の力かしらね~」
「言うな!」
さて、土の神も起こした所で猛達にはまだする事がある。
「なあ、人の神」
「な、何ですか……?」
人の神は火の神の後ろに隠れる様にして聞いてきた。
「これが『あの』人の神か……」
猛は呟いた。
「こっちが本来よ」
「あ~あのさ、『勾玉』って持ってるか?」
「あ、あ……持ってます……けど……大事な物なので……」
「見せてもらうのも駄目か?」
「……見せる……だけなら……」
人の神は火の神から離れて、社の中央の丸い鏡などが飾られている所の戸棚を開けた。そこから何かを取り出したかと思うと猛達の所に恐る恐るやって来た。
「あ、あの……これ……です……」
人の神の手の中には大きめの緑色の勾玉があった。
「これが……」
「神咲」
「あー!なんでもない!」
猛は観月にたしなめられて言いかけた言葉を飲み込んだ。
「ありがとな!じゃあ帰るか!」
「ちょっとー僕は置いてけぼり?起きた事にも納得してないのにー」
「土の神、悪い様にはしない!」
「意味わかんないんだけどー」
「ドド……この子達を守ってあげて……」
「もう意味わかんないー」
帰り道……
「なるほど。そういう訳で起こされたんだ」
「ああ」
観月達が土の神に今までの経緯を説明した。
「もーせっかく気持ち良く眠ってたのにー」
「私とホムラは無理矢理眠らされたけどね」
「まだ根に持ってるの?あの時はしょうがなかったんだってば」
「土の神と風の神は眠る事に賛成だったのか?」
観月が聞いた。
「そうじゃ。あとハナ……花の神もな」
「起きていない残りの神か」
「ちょっと、ハナの事残り物みたいに言わないでよ」
「すまない」
「じゃあ、ドドはこの子の事守ってあげて」
「俺か?」
「そうよ。せっかく起きた子が増えたんだから一人ずつ守っていったって良いんじゃない?私はこの前みたいに自由に怪異を狩ってるけどね」
「わしは愛実を守るぞ!」
「ホントに仲良くなったのね……」
「な、仲良くなんてなっとらん!」
「はいはい。じゃ、そういう事で」
「俺の事は誰も守ってくれないのか……」
「人数の問題よ。しょうがないじゃない」
観月と土の神の帰り道、観月は神妙な顔をしていた。
「土の神」
「何?」
「お前も人間は憎いか?」
「何当たり前の事聞いてるの」
「そうか……」
「君らさ、あの勾玉ぶっ壊す気でしょ?」
「な……何でそれを……」
「あ、正解~?」
「……カマをかけたな」
「だってあんな勾玉に興味津々なら僕は気付くよ。ジンからあの勾玉が何かって詳しく聞いたことあるもん」
「何!?」
「あの勾玉は僕らを神たらしめる物。それが壊れた時、僕達は『神』じゃなくなる。」
「そこまで知っているのか……」
「でもあの勾玉は『神咲』の者しか壊せないみたいだね。ジンには聞いてたけど、試しに僕がどんなに壊そうとしても壊せなかったよ」
「お前らは、壊す事を邪魔するか?」
「何でさ。壊してもらえるなら万々歳だよ」
「だが制約が……」
「僕らは『人』には逆らえない。特に『神咲』の者にはね。ま、でもこれはただの詭弁かな?ジンは邪魔する可能性はあるかもね。言わない事を吉と出るか凶と出るかは君たちに任せるよ」
「…………」
そうしてまた月曜日がやって来た。
「で、勾玉はあったの?」
水の神達には一応出ていってもらっている。
「あったあった。人の神が大事そうにしまってた」
「なるほどね。あと起こすのは花の神だけね。次は私が行くわ」
乃々花は意を決して言った。