第1話~火の神~
初投稿となります。いろいろ至らない所もありますが、どうぞよろしくお願いします。更新はおそらくゆっくりめになるかと思います。
『昔はね、お化けや災害から神様達が皆を守ってくれたんよ』
『神様?』
『そう。でもな、いつの間にかいなくなってしまわれたんよ』
『大ばっちゃ、どうして?』
『うーん、なんでやろな』
「今朝のニュース見た?」
「見た見た!また怪異だって!」
「今回はたまたま怪異対策部隊が巡回してる所だったから死人は出なかったみたいだけど……」
「あー、明日は我が身かと思うと怖いわー」
「だよねー」
「と!言うわけで!今回のオカルト部の出張は俺のばっちゃんの家の蔵!」
オカルト対策部、通称オカルト部の部員神咲 猛(かみさき たける)は皆が集まるなりそう叫んだ。
「なんでいきなり」
猛の幼なじみの古畑 乃々花(ふるはた ののか)が突っかかった。
「ばっちゃんの家の蔵ならなんか怪異退治に役立つ本とかあるかなって。なんかいろんなもんあるらしいし」
この世界には「怪異」が蔓延っており、それは時として人間に牙を剥く。
そんな「怪異」をどうにかしようというのがこの猛達が所属している「オカルト対策部」なのだ。……まあ、言ってしまえばただの部活の一環なのだが。
「本か。それは興味深い」
唯一の高校三年生の最蓮 観月(さいれん みつき)はそう言った。
「本の方は任せました!最蓮先輩!」
「って結局行く流れなの?」
乃々花は呆れていた。
「蔵……楽しみ……お化け……いるかな……」
これまたオカルト部唯一の一年生居行 愛実(いぎょう まなみ)がぼそぼそといつもの調子で呟いた。怪異に悩まされているこの世の中で、オカルトが大好きという変わり者だ。
「お化けなんて止めてくれよ居行!」
そう言ったのは難不 道正(なんず みちまさ)。見ての通り怖がりなのだが、猛の部員数確保によって無理矢理オカルト部に引き込まれたのだった。
「良いわね!行きましょう!」
元気に声を張ったのは鞘野 梓紗(さやの あずさ)。本来ならば三年生なのだが、諸事情で猛達と同じ二年生として学校に通っている。
「決まったな!じゃあ、今週末の土曜日に駅前に集合な!」
「強引なんだから……」
「さて、ついた訳だが!」
「疲れた~……」
やって来たのは田舎の田舎、山の麓の大きな家だった。電車賃でいえば安いのだが、なにぶん歩きが多いのだ。
「ばっちゃ~ん!来たぞーー!!」
猛が玄関先で大声を張り上げる。
すると、中からつっかけのざりざりとした音と共に老婆が現れた。
「よう来たな~。お友達もぎょうさん。さ、入り入り」
猛の祖母は人の良い笑顔で皆を招き入れた。
「ばっちゃん、俺、先に大ばっちゃんに手ぇ合わせて来る」
「は~い」
「大ばっちゃん?」
観月が疑問符を飛ばした。
「猛の曾祖母さんよ。五年位前に亡くなられたけど。猛は曾祖母さんの事が大好きだったのよ……」
乃々花が言った。
「なら、私達も手を合わせた方が良いんじゃないの?蔵だって見させて貰うんだし」
そう言うのは梓紗だ。
「そうだな」
道正も納得した。
「それが……礼儀……」
愛実も同意した様だ。
観月達は猛の祖母に家に入れてもらい、仏間へ案内してもらった。そこには普段の落ち着きの無さからは考えられない位真剣に仏壇に手を合わせている猛がいた。
猛は乃々花達を見ると、
「なんだよお前達」
「なんだよとは何よ。私達も手を合わせに来たの」
乃々花がそう言うと、
「そっか」
猛は納得した様に呟いた。
その後、皆で仏壇に手を合わせ、蔵へと向かった。猛は仰々しい蔵の鍵をがちゃりと開けると、中には大量の書物やよくわからない物達がきっちりとしまわれていた。猛の祖母が定期的に掃除をしているのか中は綺麗だった。
「さて!探すか!」
「探すって何をだ……?」
道正はびくびくしながら猛に聞いた。
「何か怪異退治に役立ちそうなもん!」
「はぁ……」
道正は猛のいつものアバウトさに呆れた。
「例えば!最蓮先輩!この本とかどうですか?」
猛はその辺の適当な古い本を観月に差し出した。
観月の将来の夢は歴史学者で今も独学で古文や歴史を学んでいる。そんじょそこらの古い本なら難なく読める。
「何々……『神々の社』」
「神々……」
猛は神々という言葉にぴくりと反応した。
観月はなおもその本を読んでいく。
「ふーん、どうやらこの近くの山の中に『神々の社』という物があるらしいぞ」
「え?」
そう言ったのは猛だった。
「いや、待て待て。俺はこの辺の山の中に何度も行ってたけど、社なんて見当たらなかったぞ」
「でもここにはそう書いてあるぞ」
「うーん、ま、わかんねぇけどとりあえず行ってみるか!」
深く考えないのは猛の特徴の一つだ。
「えー!また歩くのー!」
乃々花は不満そうだった。
「ホントにあった……」
思っていたよりも立派で大きな社がそこには鎮座しており、猛を含めた全員が驚いていた。
「どういうことだ……?なんでこんな所に……。今まで全然見かけた事なんて無かったのに……」
流石の猛も戸惑っていた。
「中、入れそうだけど……罰当たりかな……」
梓紗は好奇心と常識との間で揺れ動いていた。
「う~~、入ってみなきゃ始まんねぇ!みんな!入るぞ!」
猛は一秒悩んだ末にその結論を出した。
「まじかよ~……」
道正は嫌そうだ。
「呪われたら……どうする……」
愛実はぼそりと呟いた。
「止めてくれよ~~」
「呪われたらその時はその時だ!入るぞ!」
「全く……」
乃々花はいつも通りの猛に呆れていた。
「じゃあ、開けるぞ……」
猛は神妙な面持ちで扉に手をかけた。皆が固唾を飲んで見守る。ギィィ、と扉が軋みながら開かれていくと、そこには……
「ヒッ!」
「ひ……と……?」
中央に顔に布を着けた女性と、それを囲む様に眠っている五人の人がいた。どの人も着ている物が古く、着物を着ている様だった。
「来たか」
中央の女性は突然そう言った。
「待っていたぞ人の子よ」
女性はそう言うと立ち上がり猛達に近づいて来た。
「ちょっ!ヤバイんじゃないか!怪異なんじゃ……」
「神……様……」
道正の言葉を猛は打ち消した。
「あんた達が、神様なのか……?」
『昔はね、お化けや災害から神様達が皆を守ってくれたんよ』
猛は曾祖母の言葉を思い出した。
「その通り。我らは人々を守護する神だ……今は我以外は眠っておるがな」
「眠って……?」
梓紗が言った。
「ああ、そうだ。貴殿らにはこいつらを起こす手助けをしてもらいたい」
「手助け……って…………?」
「何、簡単な事だ。こいつらに手をかざして『何とかの神よ目覚めたまえ』そう言えば良い」
愛実の言葉に女性はそう答えた。
「『何とかの神』とはなんだ?」
観月が最もらしい質問をした。
「『何とか』とは比喩だ。ここにいる五柱の神はそれぞれ火、水、風、土、花を司る神々だ」
「じゃあ、あなたは、何の神なの……?」
乃々花が聞いた。
「我か?我は『人の神』。こいつらをまとめる役回りを担う『人の神』だ」
猛はそれぞれの神を見回した。どの神も猛達と同年代の様な見た目をしている。だが、神の色がオレンジやらピンクやらおおよそ「普通の」見た目をしていない。唯一『人の神』だけが黒い髪の毛だ。
「さあ、人の子よ、我に力を貸したもう」
人の神はこちらに手を差し出して来た。
「そ、そんな事急に言われても……」
流石の乃々花もびくびくしている。
「一先ずは一人で良いぞ?」
「一人って……余計に怖えぇよ……」
道正はいつも通りびくびくしている。
「決めれぬか?なら我が決めよう。そなた、こちらへ来い」
「って俺え!?」
道正は驚いた。
「マジかよ~……なあ猛~変わってくれよ~……」
「せっかく神様に選ばれたんだから行って来い!」
猛は嫌そうな道正の背中をバンッと叩いた。
「うえ~……」
道正はおっかなびっくり前へと進んだ。
「こちらへ来い」
人の神はオレンジ色の長い癖毛の青年の前へと道正を誘導した。
「さあ、唱えよ『火の神よ、目覚めたまえ』」
「ううう……」
目の前の青年は普通に眠っているかのように寝息をたてている。
「ええい!こうなったら自棄(やけ)だ!『火の神よ、目覚めたまえ』!」
道正がそう言うと、青年の体がオレンジ色に光始め、その光は炎のように青年の体からあふれ出した。
「えっ?熱っ!」
「なにこれっ!?」
道正達はその光に温度を感じたが、一瞬の出来事だった。すぐに光は青年の体へと収束し、熱さも感じなくなった。
「ん…………」
と、さっきまで寝息をたてていた青年が身じろぎした。
「え?」
「ん…………んん…………?」
青年はゆっくりと起き上がると、まるで寝惚けているかの様に辺りを見渡し、状況の把握に努めているかのようだったが、そこに人の神を見つけると、素早く起き上がった。
「ジン!てめぇよくも勝手に人の事眠らせてくれたな!」
「え?なになに?」
さっきから訳のわからない事だらけだ。梓紗達は混乱していた。そもそも『ジン』とはなんだ?人の神の事か?起こせと言ったのは人の神なのに眠らせたのも人の神?
「そうだな。我も馬鹿な事をしたものだ」
「?我?どうしたんだジン……」
火の神が戸惑っていると……
「うっ……!あ"っ……」
人の神が頭を抑えながら急に苦しみ始めた。
「ジンっ!大丈夫か!?」
火の神もこちらもどうしていいのかわからずにいると、人の神が、
「ホ……ムラ……ごめんなさ……」
そう言うと、何かがパリンと砕ける音がした。
「火の神よ、目覚めたからにはお前には人間の為に精一杯働いてもらう」
「制約、か……」
火の神はそう呟いた。
「なになになになに一体何なの!?」
この状況に置いてきぼりの乃々花達には何が何だかわからない。
「あー、お前ら。俺は火の神。よろしくな」
「よろしくって言われても……」
乃々花は困惑している。
「どうやらこの本や神咲の蔵をもっと調べる必要があるみたいだな」
観月が言った。
「本人達に直接聞けば良いんじゃないの?」
梓紗が最もらしい事を言う。
「何から聞くべきなのかもわからない」
「あー」
梓紗は納得した。
「火の神、私はこの社を守っている。お前はこの者達を守る任を与える」
「え?何?どういうこと?」
乃々花は困惑しっぱなしだ。
「私の力では七日にいっぺん一柱ずつ起こすのが精一杯だ。つまり後四柱、一ヶ月程は貴殿らにいなくなられては困る。それと……貴殿」
人の神は道正を見た。
「な、なんだ……?」
「貴殿は神を起こしたのだ。立て続けにそんな事は出来ぬ。七日後はまた違う者に起こしてもらう」
「良かった~」
道正はホッとした様だ。
「俺は反対だ」
火の神は不服そうに言った。
「次の奴が目覚めるまで俺もここを守る」
「ならこの子らは誰が守る?」
「じゃあお前らの事は誰が守るんだよ」
「私は100年お前らを守ってきた。怪異には見つからぬよ」
「…………って100年!?俺らはそんなに眠ってたのか!?」
「そうだな。眠っていた分それ以上に人様の為に働いてもらう」
「チッ……仕方がねぇ……おいお前ら、俺がしっかり守ってやるから感謝しろ」
「火の神は口が悪い。人様に向かってその態度はなんだ」
「ふん」
「人の神も……あんまり人の事言えないよ……」
愛実はボソボソと呟いた。
「で、猛の家に帰ってきた訳だけど」
乃々花はそう言いながら横目で火の神を見た。
「猛のおばあさんにどう説明すれば良いのよ……」
「ああ、その事か。なら大丈夫だ。お前ら以外の人間には見えない様にしているからな」
火の神は自信満々に言った。
「なるほどな。ところで神咲、蔵の本を何冊か借りていっていいか?この『神』達の事を調べないとな」
「ああ、良いですよ」
そう言って猛達は再び蔵へと入って行った。
「もう帰るんか?」
「ああ、ばっちゃん。また一週間後に来るからな!」
「気ぃつけて帰りな」
「ありがとうございました」
乃々花達は猛の祖母にお礼を言った。
「お前らはこの辺の者じゃなかったのか」
「そうよ。これから歩いて、そこから電車に乗って帰るのよ」
乃々花が言った。
「電車?」
火の神は不思議そうに首をかしげた。
「あなた、電車知らないの?……ああ100年眠ってたとか言ってたわね。そうね……人を運ぶ鉄の馬よ。馬って言っても生き物じゃないけど」
「???」
火の神はよくわかっていない様だ。
「ま、見ればわかるわ」
火の神は歩いて(火の神自身は空中を翔びながら)いる途中も、あれはなんだこれはなんだとうるさかった。車を見ればあれはなんだ、アスファルトを見ればこれはなんだ。100年眠っていて仕方がないとはいえいい加減疲れてきた。
「……ん?」
「はいはい、今度は何?」
乃々花は投げやりになりながら聞いた。
「怪異だ」
「え?」
「お前ら、そこを動くなよ」
火の神がそう言うと空間が裂け、その中から無数の目玉と手が付いた細長く黒い化け物が出てきた。
「ひっ……!か、怪異……!」
「怪異……!」
怖じ気づく乃々花と目を爛々と光らせる愛実が対照的だ。
火の神が腰に下げた打刀を抜くと、その周りに炎が纏わりついた。
誰もが怪異と火の神の長引く戦闘を予想した。が、
「でりゃあぁぁぁぁ!」
火の神が一太刀、その炎と共に怪異を切ると怪異はしゅうぅ……と消えて行った。
「ま、肩慣らしはこんなもんかね」
「す、凄い……」
乃々花は先ほどまでの火の神の評価を覆した。
「対怪異組織でも一つの怪異を消すのに時間を要すというのに……」
観月は冷や汗をかきながら自身の眼鏡を押し上げた。
「これが……神様の力……」
猛は曾祖母から聞いた昔話と共に目の前の神の凄さを思い知った。
そこからは何とか怪異に会わずにすんだのだが、代わりに火の神のあれはなんだ攻撃にへとへとになっていた。やっとの事で最寄り駅まで帰ってきた六人と一柱は、
「で、この人誰の家に泊めるの?」
梓紗が疲れ切った目でそう言った。しかしその問題を火の神は即座に解決した。
「誰かの家に泊まったらそいつしか守れねぇだろ?俺はその辺の怪異でも倒しながらぶらついてるさ」
誰もが火の神のあれはなんだに会わずに済む事にほっとしたが、猛だけは少し違った。
「なあ、俺ん家に泊まってけよ。今までお前の質問に散々答えて来てやったろ?今度はお前らの事を教えてくれよ」
だが、猛の申し出に火の神は、
「駄目だ。俺はお前ら全員を守れとジ……人の神から言われている。一人に集中する訳にはいかない」
「ケチ」
「あ?何だって?」
「火の神はケチだって言ったんだよ」
「ああ?お前らの事守ってやるって言ってんのにケチとはなんだ!」
「ああ~もうはいはい、止めなさい止めなさい。火の神さん、私達は大丈夫だから神咲君の所に行ってやって」
不毛な喧嘩に梓紗が助け船を出した。
「だが……」
「はいはい!決定決定!それじゃあかいさ~ん」
梓紗の言葉にそれぞれがやれやれ一段落した、と思い思いに帰路につき始めた。
「ちょっ……!お前らっ……!」
火の神の意図を無視して彼らは遠ざかって行った。
「ま、そう言うことで俺ん家決定な」
猛は高身長の火の神の肩を後ろからぽん、と叩いた。
「くそがっ!」
「口悪っ」
猛の家への帰り道、猛は不機嫌な火の神にたずねた。
「ってかさ、言い出しっぺの俺が言うのもなんだけど別に鞘野に何言われたって構わずに好きな様にしたらいいんじゃねえの?」
そんな猛に相変わらず不機嫌そうに火の神は言った。
「『俺ら』はな、ある程度人間に逆らえない様に出来てんだよ」
「?神様なのにか?」
「ああ、『人間に作られた都合の良い神』だ」
「へ?人間に?」
「その辺は俺はよく覚えてねえ。ジ……人の神なら知ってるかもな」
「なあ、その『ジン』ってなんだ?人の神の事か?」
「お前らには関係無い」
「『人』の神だから『ジン』なのか?」
「お前らには関係無いと言っただろうが……!」
突如火の神は猛に対し怒りを顕にした。
「な、何だよ……教えてくれたって良いじゃねぇか……」
「……」
しばらく気まずい沈黙が猛達の間に流れた。
「て言うかこういう事は逆らえる訳?」
先に沈黙を破ったのは猛だった。
「……俺らにも譲れねぇ部分がある。無理にでも逆らうさ」
「……無理してんならもう無理には聞かねぇよ」
「……」
「なあ、じゃあ言える範囲で良いから俺の質問に答えてくれよ」
「言える範囲ならな」
「お前らは『神様』何だよな?」
「ああ、『人間に作られた』な」
「う~んそこの部分がわからねぇけど、これは最蓮先輩に任せるか人の神にでも今度聞くか」
「お前ら人の神になんかしたら許さねぇからな……!」
また急に火の神が敵意を向けて来た。
「何にもしねぇって!……なあ、じゃあ何で今まで眠ってたんだ……?人の神以外、五人も」
猛がそう言うと火の神は舌打ちをした。
「俺は無理やり眠らされたんだよ。人の神と、眠る事に賛成派の奴等にな」
「無理やり……?賛成派……?」
「長年神やっててな、怪異やら災害やら相手し続けてガタが来ちまったんだよ。それでも俺はまだやれる、って言ったんだ。最悪殺されたって生き返るしな」
「生き返るのか!?」
「あ?ああ。一応神だしな。まあ人の神だけは少し違うがな」
「人の神だけは?」
「あいつは死なねえ。死にたくてもな。回復力が異常に高ぇんだよ。俺らもそうだがあいつのは段違いだ」
火の神はため息を一つつくと、
「もう俺らには無理はさせたくないってあいつが言ったんだ。死ねないならせめて何者にも関与されずに眠って欲しい、ってな。全くあいつらしい理由だ」
何かを思い出すかの様にそう言った。
「反対してたのはお前だけなのか?」
「あ?そうだな……水の神も何かごちゃごちゃ言ってたな……あとは賛成。多数決で俺らの負け」
「水の神……」
「ああ、お前らも見たんじゃねえか?水色の長ぇ髪の毛の奴」
そういえば眠っている神達の中に赤いリボンで水色の長髪をポニーテールにした者がいた事を猛は思い出した。
「あ~後は何聞いたら良いかな~~」
猛はそう言いながら伸びをした。
「じゃあ今度はこっちが質問するぞ。お前らは何であの社まで来たんだ?」
「ああ、それか?えっとなー、怪異を何とかする方法を探してたんだよ。そんで俺のばっちゃん家の蔵に何かないか探してたら偶然火の神達のいる社について書いてある本を見つけたんだよ」
「蔵……本……。お前、名前は何だ」
「え?神咲猛だけど……?」
「神咲、な……今度ジンにでも聞いてみるか……」
火の神は独り言の様に呟いた。
「?何か意味深だなー」
そうして一人と一柱は帰路に着き、家に帰ればまた火の神のあれはなんだ攻撃が始まった。
「これが『学校』ってやつか!寺子屋の何十倍もデカイな!」
「そうだろ!すごいだろ!」
何故か猛が自慢気である。
「猛ーおはよう。何、火の神も一緒なの?」
乃々花が登校してきた様だ。
「俺が一緒じゃ何か悪いか?」
「学校を見てみたいって言ったんだよ」
「なるほどねー。で、一昨日は火の神と何話したの?」
「それはまた部活の時皆の前で話す」
「了解~」
そう言った後、乃々花は思い出した様に言った。
「あ、火の神、学校ではむやみやたらと話しかけないでよね。変な風に見られるから」
火の神は少し残念そうな顔で
「わかった」
と言った。
~放課後~
「なるほどな。眠りの事についてはよくわからんが、おおよその事はこの本に書いてある物と一緒だな」
観月が言った。
「もう読めたんですか!?」
猛は驚きながらそう言った。
「ああ、興味深くてついつい熟読してしまった」
「す……凄い……」
乃々花もそれには驚いた。
「それで、『人間に作られた神』って事も書いてあったんですか?」
猛は逸る気持ちを抑えながら聞いた。
「……ああ。酷たらしい話だ……」
「酷たらしい……?」
道正が怪訝そうに言葉を発した。
「……人間の子どもを犠牲にして作られた神々だ」
「子ども……?犠牲……?」
梓紗は嫌な予感をさせながら聞いた。
「1000年くらい昔の話だな……それぞれの神に近しい子どもを儀式を通して近しい方法で殺した」
「近……しい……?」
愛実も流石に緊張した面持ちで聞いている。
「例えば……」
観月はそう言うとちらりと火の神の事を見た。火の神に遠慮をしている様だ。
「良いぜ。言えよ。俺も何でこうなってんのか気になってたんだよ。人の神は教えてくんねーし」
「……ああ、わかった。……例えば、そこの火の神は鍛冶屋の息子だった。それを鉄火場の釜に入れられて殺された。そうして神を作っていったんだ」
「う……わ……」
道正は顔面を蒼白にしながら引いていた。
「なるほど、な……だからこんな火傷の跡がついてんのか」
そう言うと火の神は腕の包帯をするすると外していった。
「ヒッ……!」
その跡を見て乃々花は短く悲鳴を上げた。
「この跡を見てるとな……どうにも人間が憎くなってくる……そう言う事なら納得だ……」
そう言うと火の神はまた包帯を巻き直した。
「神と言っても人間が作った不完全な神だ。跡が残っていても人間に憎しみを抱いていても不思議じゃない」
観月が眼鏡を押し上げた。
「っていうか、子ども……?昔の基準でいえば火の神くらいならとっくに成人済みじゃない……?」
梓紗がもっともらしい事を言った。
「ああ、それならな、死んで神になった後は怪異と戦いやすい様にそれなりに肉体も精神も成長するらしい」
「なるほど……?」
あまりの突拍子の無い話に梓紗達は混乱していた。
「でもそうなるとどうして人の神はあなた達を眠らせられた訳?怪異や災害と戦ってくれなくなったら人にとっては都合が悪い訳でしょ?」
乃々花の質問に火の神が憎らしそうに答えた。
「あいつが制約に逆らってまで俺達を眠らせたんだ」
「制約?」
「俺らが人間に逆らえない様にするものだ」
火の神が拳を握り締める。
「人の神は死なない。他の神を纏める者。」
観月が突然語り出した。
「人の神は怪異や災害には無力。他の神が反乱を起こせばそれを殺す者。他の神は人の神には逆らえない。」
「てめえ……!」
「まあ、聞け。……他の神は人に逆らう知恵をつけない様に死ぬ度に記憶が無くなる。『神としての本能』と必要最低限の記憶のみ受け継がれる」
「……!」
「覚えがある様だな。人の神以外は生前の記憶も無い」
「何?どういう事?」
乃々花が言った。
「つまり火の神達は生前の記憶、更にはおそらく1000年分も記憶が無いって事だ」
「へ~……そうなんだ……」
愛実が呟く。
「で?それがどういう事なんだ?」
猛がよくわからない、という風に聞いた。
「どんな事でもこの神達を知るには必要な事だ。そもそも俺達は怪異を何とかしようとしてこの神達を見つけたんだろ。神達を知る事は大事な事だ」
「それで?私達はどうすれば良い訳?」
梓紗が言った。
「とりあえず神達を起こしていくしかないだろうな」
「それなんだけどさ、毎回全員でいく必要無くない?往復の電車賃だってあと四回分もかかる訳だし」
「神達の事を共有するには全員で行くのが一番だがな。まあ、学生の俺達に四回分の電車賃は痛いな」
うんうんと皆その案に頷いた。
「ただし、神咲君、あなたは毎回行ってもらうわよ」
「ええっ!なんでだよ!」
「あの山の案内はあなたじゃないと出来ないでしょう?不慣れな私達がうっかり迷いでもしたら大変よ」
「火の神なら案内できるんじゃないのか?」
「100年前とは微妙に地形と道が変わっていた。俺に案内役を任せるのは止めといた方が良いぞ」
「ええ~……」
猛は自身の財布の心配をした。
「言い出しっぺはあんたじゃない」
乃々花は過去の強引な猛に叱咤した。
「しょうがねぇか……じゃあ今週は誰が行くんだ?」
「はい!」
そう言って元気に立ち上がって手を挙げたのは梓紗だった。
「神様を起こすなんて体験そうそう出来るもんじゃないわ!ここで行っとかないと損よ!」
「あ"?」
梓紗のその言葉に火の神は怒りを滲ませた。そんな火の神に梓紗は一瞬怯んだが、キッと火の神を睨み付けると、
「私は誰になんと言われようと自分の知的好奇心を満たす事を止める気なんて無いわ」
正々堂々そう言った。
「ちっ」
火の神は相手にするだけ無駄だとそっぽを向いた。
「じゃあ、今週は鞘野に決まりだな。……あ~あ、俺の小遣い……」
「ああそうだ、神咲。この書物は返すから代わりの書物を蔵から持ってきてもらえないか?」
「ああ、良いですよ」
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
そうして今日のオカルト部の部活は終わっていった。