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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第五章 妖精の円舞曲
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第九十六話 兄の影

・ティファ視点



 私は族長の呼び出しでセイと一緒に(ランティもいるけど、鬱陶しいだけだからどうでもいいわ)族長の下に向かった。

 朝から呼び出しだなんて、うぅ

 

「やっぱり昨日の事かしら」


 私は不安になりセイの耳元に近づきそっと聞いた。

 

「さぁ、どうだろう」

「ああ、やっぱりやりすぎたんじゃ、ちょっとセイあんたも一緒に謝りなさいよ」

「分かってるよ」


 そうやってセイは苦笑いを浮かべた。

 族長に怒られるのは別に構わない。だけど一番の問題はママだ。ママは人をからかって楽しむけど怒ると本当に怖い。私が子供のころ一度だけ怒られたけど、その時のママが怖すぎて……思い出したくもない…あれから私は一度も悪いことをしていない。

 そんなことを考えてると目的地に着いた。?ここって族長の家じゃない

 

「姫に魔道王、朝からすまないな」

「それで僕たちに何か用かな」

「ちょっとした問題が起こってしまってな」

「よかった、昨日の事じゃないのね」


 つい私は安堵の声を漏らしてしまう。ま、まずい、こうなったら何とかごまかすしか

 私は族長の方を見ると視線が合った。あ……


「姫、魔道王その件に関しては後で話しを聞くからな」

「分かってますよ」


 ……なんで素直に認めちゃうのよ。

 ああ、ママに怒られる

 そんなことを考えるだけで思わず少し震えてしまう。

 

「話がそれてしまったな。少し手伝ってもらいたいことがあってな」

「それはこの家の事に関係してるのかな」


 なんだか騒がしいわね。

 

「そうなのだがそうではないのだ」

「?どういう意味」


 族長の言い方が回りくどくて何が言いたいのか理解できなかった。

 

「実は今朝から行方不明者が多数出てしまってな」


 ………え?

 “行方不明者が多数”という言葉を聞いた時、私の思考は数秒止まっていた。私はすぐに思考を再開させ何が起きているのか予測を始めた。

 たぶん家の中にいるのはこの家の人とエルフの里の警備を担っている兵たちのはず、それほどまで大規模に調査を行ってると見た方がいいかもしれない。もし行方不明者を出した犯人がいるとするなら

 

 まさか……だめ、それだけはあり得ない。ありえちゃいけない。

 その考えをすぐに捨てる。

 私は隣にいるセイを見ると何か考えているみたいだった。だけど私はセイが結論に至ることはないと確信していた。だってセイはあの事を知らない。断片的には話したことがあったけど詳しいことまでは話してない。

 私がためらったから………

 

(お前が悪いんだ!)

 

 っ⁉

 記憶の中で響いたその声が私の体を硬直させる。

 

(お前さえいなければ)


 違う!私は悪くない、私のせいじゃない。

 私は必死に記憶の中の声を振り払おうとそう言い聞かせるがその声から伝わってくる憎悪に心が蝕まれていく気がした。

 

「ティファ、ティファ」


 セ、セイ

 私は隣で心配そうに私を呼ぶセイの方を向いた。

 

「な、何?」

「大丈夫かい?」

「え、ええ何ともないわ」


 私はセイに心配させないよう強がった。

 この前も私の暴走で迷惑かけたんだ。これ以上は迷惑をかけるわけにはいかない。

 しかし、そんな私の考えをお見通しと言わんばかりにセイは私に精神安定の魔法をかけてくれた。


「こんな魔法かけてもらわなくても何ともないわよ」

「念のためだよ」

「……ありがとう」


 それから私たちは行方不明となったエルフの家族たちに聞き取りを行った。しかし有力な情報は得られない。

 

(お前がやったんだ)


 うるさい

 セイに精神安定の魔法をかけてもらっても記憶の中の声がずっと心の中で響き続ける。

 

「ティファ着いたよ」

「あ、ごめん」


 私は自分の思考に陥っていて最後の家に着いたことに気づいてなかった。

 

「無理なら君だけでも帰ってもいいんだよ」

「別に平気よ」


 私がそう言うと少し納得しかねる表情を見せたが渋々納得してくれた。

 この家には父、母、息子の三人家族で暮らしているらしい。行方不明になったのは父親らしい。レメさんはとても礼儀正しかったけど時折見せる悲しそうな眼差しでこの人がどれだけ旦那を心配しているか分かる。

 

「失礼を承知で申し上げてもよろしいでしょうか」

「話したいことがあるなら申せ」

「はい、申し上げにくいのですがそのフード男レノバ様じゃないでしょうか」

「何?」


 話を聞いてくうちに気になる話が出てきた。

 そう言えばこの里に戻ってきてからレノバを見てない。族長の反応からするにたぶんレノバはこの里にいない。それが何故だか分からないけど

 

「俺の見間違いかもしれませんけど顔が少し見えたんです。その時の目が少し虚ろだったので最初は違うと思ったんですけどよく見るとその顔が」


 “目が少し虚ろ”

 

(はは、見たか、これが俺の手に入れた力だ。これで俺は——)


 私の記憶から呼び起こされたのは目を虚ろにさせながら自慢げに話す兄の姿

 私はすぐにこの記憶に封をする。


 だめ、ここに戻ってきてからこんなことばかり、もう思い出したくない。

 

「ありがとうございました」


 私が自分の記憶に没頭しているうちに聞き取りは終わったらしい

 その後、私たちは族長の家へと向かった。何でもセイが裏で糸を引いている人物が分かったらしい。

 話し合いが始まりセイがローランの証言を肯定した。セイはレノバが今どうなっているのか知っているみたい


「まずレノバについてなんだけど、確実に洗脳されていると見た方がいい」


 “洗脳”

 ゾワッ

 その言葉を聞いた時、私の背筋を凄まじい悪寒が貫いた。


 う、うそ、そんなのってあの時と……


 その考えに至ったとき私の記憶の封が全て一気に解けた。

 

(お前が悪いんだ)

(お前さえいなければ)

(姫様、ありがとうございます)

(この人殺し!)


 怒号と罵声、感謝の言葉、それと自分の罪を強制的に自覚させるような言葉

 その様々な言葉に私は寒気を隠せない。

 違う!あれは私じゃ

 

(何を言おうとティファが殺したんだ。彼らもそして俺の事も)


 兄の影が私の体にまとわりつく。

 あれはあいつらが私の体を

 

(それがどうした。確かに妖精姫なら仕方ないな。だが、ティファは罪のないエルフを殺したんだ。その事実は変わらない。ほら見ろよ)


 兄の影が私の目の前を指さした。

 ひっ⁉

 私の目の前には亡霊のように顔が白く生気を失った6人のエルフがいた。

 

(ああ、たずけて)

(ひめざま)

(どうか、どうか)

(あなただけが)

(ぐるじい、くるじい、アァァァ)


 その懇願する声に私は体を震わせ血の気が引いていくのを感じた。

 私が目をそらそうとすると兄の影が私の体を固定させる。

 

(何目をそらそうとしてるんだ。あいつらはお前に助けを求めたのに里のために殺された哀れな奴らだ。そしてお前の罪そのもの。よく見ろ、そしてよく聞けあの苦しそうな顔を、亡霊の言葉を、あれは全部お前がやったんだ)


 その兄の言葉に私の心が侵食されていく。

 

「ティファ、ティファ!」


 セイの呼びかけに私は気づかない。


「違う、違うの」


 私は現実で呼吸を乱し頭を抱えながらそんなことを呟いているとは気づかない。


(何が違う?)


 兄が抑揚のない声で私に囁く。


「私は、私は……」


 私の心はこの時点でほとんど自ら犯した罪に侵食されていた。


(もう一回ちゃんと見ろ)

(姫)

(ひめさま)

(痛い、いだい)

(はやぐ、たすけで)

(どうして、どうして殺したんだ)

(いぎたい)


 その言葉で私の正気は完全に無くなった。

 エルフたちがゆっくりと私に近づく。私は逃げようとするが兄に抑えつけられ逃げられない。


(逃げるなよ)


 兄の顔が私の目の前に、その表情は憎悪に満ちてとても醜い。

 その時、私の足にひんやりとした感触が

 そこにはまるでゾンビのように私の足を掴むエルフの姿が


「嫌、やめて、イヤァァ!!!」


 私の意識はゾンビになったエルフたちに引きずられながら途絶えた。


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