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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第五章 妖精の円舞曲
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第九十五話 情報

 セイたちは聞き取りを終え家から出てきた。その後ろには数人のエルフがおりこのエルフたちはこの里を守るための兵だ。

 兵たちはサノバに一言言うと他の家の聞き取りへと向かった。

 

「やはり何も知らなかったな」


 サノバのつぶやき通りこの家の女性に聞き取りを行ったのだが朝起きたらいなくなっていたことしか知らなかった。前日にいなくなったエルフは特に変わった様子もなかったとのことなので何も進展がない。

 四人はその後も他の家に訪れるが有力な情報は得られなかった。そして残すところ最後の一軒となった。

 

「ここで最後か」

「何かいい情報が出てくればいいけど、出てこなかったら仕方ないね」


 そうして期待せずに家の中へと入った。

 この家の住人は老齢の女性(といってもエルフなので見た目はとても若々しい)一人とその息子一人、そして行方不明になった父親一人の三人家族だ。

 

「サノバ様に姫様まで、わざわざ夫のために来ていただき感謝します」


 女性は丁寧に感謝を述べお辞儀をするとその隣にいた息子もお辞儀した。

 

「頭をあげてくれ。私たちは一刻も早くこの事件を解決するために動いてるのだからな」

「その気持ちだけで充分です。それでそちらの方は」


 女性はこの場で唯一の人間であるセイへと視線を向ける。息子も同様にセイのことを不思議そうに視線を合わせた。

 

「ああ、こやつは魔道王セイ、英雄だ」

「セイです。よろしくお願いします」

「あぁ、あの魔王を倒した。それはそれは、わざわざありがとうございます。私はレメ、この子は私の息子のローランです」

「ローランです」


 レメは記憶を探るようにして思考を回転させセイのことを思い出した。

 挨拶が終わり早速聞き取りを始めようとしたのだが、レメに促されセイたちはこの家のリビングにある椅子へと座った。

 

「こんなものしか出せませんが」

「ありがとうございます」


 レメが用意したのはセイたち四人分のお茶だった。気配りの効いた良い人だ。

 レメが対面の席に座ると聞き取りを始める。

 

「旦那さんがいなくなったのに気づいたのはいつ頃ですか」

「今日朝起きた時にいなくて、もしかして畑作業にもう行ってるのかと思ったんです。だけど家の畑を見てもどこにもいなくて、そしたら里でまた行方不明者が続出していると聞いて報告したんです」


 セイは“また”という言葉を聞き逃さなかった。しかし、今は必要ないと考えスルーする。

 ここまで聞いた情報はすべて他の家と同じだ。どの家でも朝起きたらその人物が消えており探しても見つからなかった。

 

「昨日は何かおかしなことはありましたか」

「そうね~……あ、そういえば昨日この近くで変な人を見たって」

「変な人?」

「ええ、フードをかぶって顔は見えませんでしたけど、少し行動が奇怪でした」


 レメが見た人物は、灰色のフード付きの外套を深くかぶり顔を見えないようにしていた。そして何より目に付いたのはまるで亡霊がさまようかのようにふらふらと同じところを往復していた。それを見たほかの人が心配になり話しかけたのだが無視してどこかに消えてしまったという。

 

「それは確かに怪しいですね」

「あ、あの」


 セイが考えるように腕を組むとローランが恐縮そうに話に入ってきた。

 

「失礼を承知で申し上げてもよろしいでしょうか」

「話したいことがあるなら申せ」

「はい、申し上げにくいのですが、そのフード男、レノバ様じゃないでしょうか」

「何?」


 失踪中のレノバの名を聞きサノバの眉がピクリと反応した。家族なので事情を知っているランティもまた驚いたように目を見開いた。

 

「俺の見間違いかもしれませんけど顔が少し見えたんです。その時の目が少し虚ろだったので最初は違うと思ったんですけど……よく思い出すとその顔が」

「レノバだったと」

「はい、あ、ですが俺の見間違いかもしれません」

「いや、情報感謝する」


 この大量失踪の裏にレノバがかかわっていることはほぼ確定と見ていいだろう。

 セイには気になることがあった。

 

(目が虚ろか、洗脳?あるいは魅了の類か、それに誰にも気づかれずにエルフたちを行方不明にさせることができる悪魔は……決まりだね)


 セイはレノバによって呼び出された悪魔に見当がついた。

 セイは隣に座るサノバへと視線を向けた。

 

「サノバ」

「む?……それでは我々はこれで失礼する。何か進展があれば報告しにくる」


 セイの視線の意図を理解したサノバはこれで聞き取りを切り上げる。

 

「ありがとうございました」


 頭を下げたレメとローランに見送られながらセイたちはこの家を後にした。

 聞き取りが終わりこのまま族長の家へと情報整理へと向かう途中

 

「魔道王、何に気づいたんだ」

「ローランの言っていたことは正しいとみていいと思うよ」

「レノバがこの里に戻ってきたと」

「ああ、それと裏にいる奴の見当がついた」

「それは真か!」


 サノバはセイの言葉に驚く。それと同時にセイの瞳が少し鋭くなっていることに気が付いた。

 

「分かったなら早く話せよ」


 二人の会話を聞いていたランティが少しいら立ちながら聞いた。

 

「ここじゃ話せない」


 それだけで裏にいる人物が相当危険な人物であると理解しランティは聞きたい気持ちを押し殺す。

 サノバの家に着くとセイたちは机を境に対面に座る。

 

「まずレノバについてなんだけど、確実に洗脳されていると見た方がいい」


 それを聞いたサノバは怒りから強く自分の服を握りしめた。たとえ里から追放したとはいえ自分の実の息子、もっとちゃんと見ておけばと様々な悔いがあふれ出てくる。しかし、ここで悔やんでも仕方がない。サノバは思考を切り替えセイの予想を冷静に分析する。

 

「洗脳か。それならこの里に戻ってきたのも裏にいる人物の命令ということか」

「いや、たぶんそれはない」

「どういうことだ。レノバは洗脳されておるのだろ、それならそう考えるのが普通ではないか」

「いい方が悪かったね。正確にはレノバは洗脳されてるんじゃなくて魅了されてるんだ」


 洗脳と魅了は似ているが少しだけ違う。洗脳は相手の思考を完全に制御することができるが魅了では使用者に惚れさせるというもので完全に相手の思考を制御することはできないのだ。

 

「……魅了」


 その何か含みのある間に何か違和感を感じえなかったが今はこれからどうするか考えるのが最優先だ。

 

「何が言いたい」


 ランティがきつい視線をセイへと送る。 

 

「まず堂々と自分の駒をさらすほど裏にいる奴は馬鹿じゃない」


 自分の兄を駒と言われランティの綺麗な額にしわが寄る。しかし、そんなことを気にしている余裕はセイにはないため気にせず話を進める。

 

「たぶんこれはレノバ自身の行動だと思う」

「それは私たちに危険を知らせるために戻ってきたということか?」

「いや、それはありえない。彼は奴らに興味を持っていたんだろう?そしたらわざわざ自分の首を絞めるようなことはしないさ」


 セイはティファを刺激しないようにするため悪魔のことを奴らと呼んだ。

 セイの意見に二人は納得するしかない。

 

「つまり昨日レノバは何らかの目的、あるいは確率は限りなく低いけど単に暇つぶしでこの里へとやってきたということになるね。その後たぶんこのことを裏にいる人物に報告したんだと思う」

「だから、その裏にいる人物って結局誰なんだ」


 ランティがしびれを切らしたように眉間にしわを寄せてセイに言った。ランティは家に着く前から裏にいる人物に気づいているのにもかかわらずいっこうに名前を言わないセイに苛立っていた。

 

「サノバはもう気付いてるだろ」

「……鋭いな」

「だいたい分かってたよ。それで裏にいる奴は、⁉」


 セイが裏にいる人物を言おうとした時、隣にいるティファの魔力が異常に乱れていることに気が付いた。

 急いでティファの方を見ると頭を抑え何かにうなされるように顔が真っ青になり呼吸もひどく荒い。

 

「ティファ、ティファ!」

「違う、違うの」


 セイがティファの肩を抑え呼び掛けるも一切反応が無い。それどころか視界の焦点が合わず瞳が揺れ動いている。

 

「私は、私は……」

「姫!」

「大丈夫か」


 異常を察したサノバ達もすぐに呼びかけるがティファはさらに苦しみだす。

 

「嫌、やめて、イヤァァ!!!」


 突如、ティファは天に向けて悲痛な叫びをあげた。

 そして糸が切れるように意識を失いそのまま倒れたのだった。


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