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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第五章 妖精の円舞曲
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第九十三話 甘い朝

 エルフの里で初めて迎える朝

 心地よい木漏れ日が窓から差し込む。そんな陽光に対してリーゼはというと決していい目覚めとは言えなかった。

 

「ふぁぁ……全然寝れなかった」


 リーゼはベッドで上体を起こすと片腕を伸ばし眠そうに大きくあくびをこぼした。

 リーゼは家に戻ってきた後ずっとあの時のティファの弱弱しい言葉が頭から離れなかった。“ごめんなさい”そんな弱弱しい言葉をリーゼたちが離れる時までずっと言っていた。あそこまで弱ったティファを見たのはアイナの結婚騒動の時以来だ。

 “彼女は今不安定なんだ”、“今の彼女だと心を壊しかねない”そんなセイの言葉がリーゼの心配を煽り立てた。

 そうやって悩んでいるとドアをトントンとノックする音が聞こえた。

 

「リーゼちゃん、アイナちゃん、朝だから起きて」


 モナの声だ。リーゼはすぐに部屋を出ようと思ったのだがモナの言葉が引っ掛かり自分の寝ていたベッドの隣のベッドを見た。そこには布団が膨らんでいた。

 

「アイナ?」

「んん~」


 リーゼは気になり布団をぺらりとめくるとそこにはまるで天使のような笑みを浮かべながら気持ちよさそうに眠るアイナがいた。

 そのあまりにも心地よさそうな寝顔にリーゼは起こす気が引けてしまう。

 

(それにしてもアイナって本当は朝に弱い?)


 アイナと同じ場所で眠るのはこれで二回目だ。一度目は学院での校外実習の時だ。その時はアイナが一番早く起き、リーゼたちを起こしていたのだがあの時のアイナは王女という仮面をつけていたため起きていたのかもしれない。

 しかし、今のアイナは王女という仮面をセイに取ってもらい世界に希望を見出すことができている。そのためこのアイナは素のアイナなのだろう。

 リーゼはアイナの肩をゆする。

 

「アイナ、アイナ、朝だよ起きて」

「う~まだ、眠い」


 アイナは枕を抱きかかえ寝返りをうった。

 それから何とかアイナを起こそうとするも完全に二度寝してしまったので起こすことを諦める。

 リーゼはパジャマから着替え部屋の外に出るとモナとフェンティーネが楽しそうにキッチンで朝食の準備をしており、リビングではセイとティファが何やら話しておりその様子をレイスが睨みながら眺めていた。

 セイと会話しているティファは昨日の弱弱しい様子は一切無くいつも通りだった。

 

「おはようございます」

「おはようリーゼ」

「おはよう、アイナはどうしたのよ」


 ティファはリーゼと一緒の部屋にいるはずのアイナの姿が見えないことを不思議に思う。

 

「さっき起きたんですけど、二度寝し始めちゃって」


 それを聞くとセイとティファはお互いの顔を見合わせるとティファは少し呆れたように苦笑し、セイにいたっては頭を抱え始めた。

 

「セイ?」

「まさかそんなところが似てるなんてね。セイどうするつもり?」

「僕に振らないでくれ」

「とりあえず起こしに行きましょう。ほらセイ」


 ティファはセイの腕を掴み強制的にリーゼたちの部屋へと連れて行った。その際レイスが文句を言おうとしたのだがティファに睨まれ押し黙ったのは言うまでもないだろう。

 セイたちが部屋に入るとアイナはまだぐっすりと眠っていた。

 

「本当にそっくりね」

「はぁ、そんなところまでアリア姉に似なくていいのに」


 セイはアイナの姿を見て溜息をこぼした。

 それもそのはず、アイナの祖先アリアもまた朝に弱く、起きる時にはライルに起こしてもらわないと早く起きられないという何とも面倒な特性を持っていた。そのせいでライルがいないときアリアを起こす役目を押し付けられたセイはかなりの労力を強いられたのでこうして嫌な顔をするのだ。

 

「どうしたものかな、アイナにはあまりアリア姉みたいに手荒なおこしかたはしたくないんだけどな」


 それを聞いたティファが少しムッと頬を膨らませた。

 

「アイナには嫌なのになんで私には手荒な起こし方するのよ」

「だってティファだから」

「理由になってないわよ」

「そうは言うけど君もああしないとそう簡単には起きてくれないだろ」


 ティファは自覚があるのか“うっ”と声を漏らした。

 

「そ、そうかもしれないけど今度からもっと優しく起こして」

「分かったよ、今度からはなるべく優しく起こすさ」

「セイ、ティファさん早くアイナを起こしましょう」


 目の前でいちゃつかれてしびれを切らしたリーゼが少し声に怒気を孕ませながら早くアイナを起こすようそくした。

 

「そうだね。だけど本当にどうしよっか」

「そういえばセイはどうやってアリアを起こしてたの」

「大量の水をかけたり部屋を氷漬けにして冷やしたり逆に部屋を暑くさせて寝苦しくさせたりしてたね」

「全部却下ね」


 セイの起こし方が結構過激だったため速攻でティファに却下される。

 

「流石にアイナにはそんなことしないよ」

「当然でしょ。アリアみたいにお花畑じゃないんだから」

「あの、普通に起こしたらどうですか?」


 さっきから無理やり起こすことを考えてる二人を不思議に思ったリーゼがそう指摘した。

 

「確かにそれもそうね。アリアの子孫だからたたき起こさないといけないと思ってたけどまずそれを試さないと」

「え~」


 二人の思考回路にはアリアに似ているというだけで普通に起こすという考えが欠落していた。

 ここはセイが代表してアイナを起こす。

 

「ほらアイナ朝だよ」

「う、うん、ふぁ~、あれセイさん?」

「そうだよ。もう朝だから起きて」

「すいません、あと五分だけ、す~」


 アイナはセイを見ると少し驚いたがすぐに布団をかぶりなおし目を閉じた。

 

「眠る速さもアリア譲りね」

「仕方ないか。ほら起きて」


 セイはアイナの布団を上だけとり強制的に日の光を浴びさせる。

 

「う、う~ん」

「それと」


 セイがいつもリーゼが寝ぼけている時に使う眠気覚ましの魔法をアイナへとかけた。その効果で完全に眠気を失ったアイナは目を開くと上体をそっと起こした。

 

「目は覚めたかい」

「は、はい、すいません。お見苦しいところを見せてしまいました」


 アイナは自分の寝ぼけていたところを見られていたと思うと恥ずかしくて頬を染めてしまう。

 

「そんなことないよ。可愛かったし」

「可愛かっただなんて、そんな」


 セイが素直な感想を述べるとアイナはますます頬を赤くし布団で顔を覆い隠す。

 

「セイ?」


 後ろから冷たい視線がセイへと突き刺さるが、慣れているため気にしない。

 

「そろそろ朝食ができると思うから着替えたらリビングにおいで」


 セイは微笑みながら言うと部屋を出た。

 

「ちょっと」


 ティファが不機嫌そうにセイを呼び止める。

 

「なんだい?」

「なんでアイナに可愛いなんて言ったのよ」

「そう思ったからだけど」

「む、そう……私には言ってくれたことないのに」


 ティファは少し顔を顰めるとすぐにそっぽを向いた。そっと口をとがらせながら小さく呟いて

 ティファは聞こえないように言ったつもりだったがセイには聞こえていた。セイはその呟きに少しの嫉妬と心の奥底に秘める寂しさを感じた。

 

(やっぱり連れてくるべきじゃなかったか)


 いつものティファならそんなこと決して口にしない。考えられる可能性はただ一つ心が弱っている。その可能性にいきついたセイは少し心配そうにティファを見るが本人は自分の様子がおかしいことに気づいていない。

 

「な、何」

「いや、何でもないさ。それに昔一回だけ言ったことがあったと思うんだけど」

「あれは適当に言っただけでしょ」

「そうかい?あれは本心だったんだけどな」

「そ、そうならいいわ」


 ティファは恥ずかしそうに視線をそらした。そんないつもの反応にセイは少し安堵したのだがそっと誰かの手が肩の上へとのせられた。その手は肩に食い込み爪までたてられていた。

 

「あの、レイスさん、痛いんですけど」

「それが最後の言葉でいいか?」


 後ろにいたのはレイスだった。レイスは娘の恥じらう姿が気にくわずセイを殺そうとする。

 しかし、それは失敗に終わることとなる。レイスの背中にそっと冷たい手が添えられた。

 

「レイス?」

「⁉」


 レイスは驚きセイの肩から手を離した。レイスの背中に触れていたのは朝食の準備を終えたモナだった。

 

「邪魔しちゃだめだよ」

「いや、しかしだな」

「返事は?」

「……はい」


 一切有無を言わせない様子にレイスは押し黙るしかなかった。レイスはとぼとぼと自分の席へと戻っていく。

 

「師匠、朝から随分と楽しんでるみたいじゃないですか」 


 フェンティーネが目からハイライトを消しセイへとゆっくりと近づく。セイは苦笑いを浮かべ一言

 

「ティーネも可愛いよ」

「当然です。師匠の弟子ですから」


 そこは違う気がすると思ったが今言ったら何言われるか分からないと考えセイは沈黙する。すると後ろからローブを少し引っ張られていた。

 後ろを振り向くとそこにはリーゼが少し俯いていた。

 

「あ、あの私はどうですか」


 勇気を振り絞って言った言葉なのだろうセイはそれに応えるようにそっと頭に手を置き優しく撫でる。

 

「もちろんリーゼも可愛いよ」

「えへへ」


 リーゼは少し照れたように微笑んだ。

 そんな朝から甘々な空間はすぐに終わることになる。

 トントンと朝から玄関の扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「あら?誰かしら」

「ランティです」


 やってきたのは姫の守り人のランティだった。


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