第八話 選定の儀
セイがクロッサス村に来て四日が経った。今日はこの村で選定の儀が行われる。
「準備できたか」
「終わってるよ」
家の外ではゲイルが待っている。リーゼとサリナも教会へ向かう準備を終えている。
「僕も行っていいんですか」
「いいだろ。村の全員が見守るんだからな」
セイは遠慮がちだったが、毎年選定の儀は村人全員で見守るため参加することにした。
「称号何が貰えるかしらね」
リーゼは緊張してしまっている。もし戦闘系の称号をもらえなかったら、と不安な考えが頭をよぎる。
「まぁ、何がもらえても自分が行きたい道を選べばいいさ」
「うん」
優しい父の言葉に緊張がわずかにほぐれる。
四人は教会へと着くとそこにはもう村人たちが集まっていた。
「おう、遅いぞ」
「うるせぇ、警備はいいのかよ」
「ああ、息子の晴れ舞台だ。警備なんてやってられるか」
そう言って来たのはガイだった。
「ガイさんって息子さんがいたんですね」
「おい、どういう意味だ!」
『はははは』
セイは意外そうにそう言うと村人たちが笑いだす。
「君がガイさんの息子かな」
ガイのとなりにいたのはリーゼと同じくらいの身長の細マッチョな少年だ。
「そうだ。俺は、ロイだ」
「よろしくね」
手を差し伸べたが無視されてしまう。ガイがロイの頭おもいっきりはたいた。
「おい、セイに失礼だろ」
「痛⁉何すんだよ」
「お前があいさつしないからだろ」
「俺は、知らないやつと握手する気にはなれない」
ロイは少し不機嫌に見えた。何か気に障るようなことをしたのではと不安になるせいだがその疑問はすぐに解消されることになる。
「あ、ロイこんにちは」
「よう」
リーゼが話しかけるとさっきまでの不機嫌はどこに行ったのかとかなり上機嫌になったのが分かる。
「どんな称号がもらえるか楽しみだね」
「そうだな」
リーゼが笑いかけるとロイの頬が少し赤くなった。
「そういうことですか」
「すまないな。昔っからああなんだ」
セイがガイに小声で話しかける。つまりロイはリーゼのことを昔から好きだったのだ。突然リーゼの家に住み始めたセイの事が気に入らないのだろう。
「あ!お兄ちゃんだ!」
「ほんとだ!」
教会の子供たちがセイの下へと集まってきた。
「ねぇねぇ、お話しして」
「儀式が終わってから話してあげるね」
「やったー!」
子供たちのことを撫でてあげる。セイはこの二日間でだいぶ子供たちになつかれた。皆セイの話が楽しみで仕方ないのだ。
「セイさんは子供たちから大人気ね」
「そうでしょうか」
「少し羨ましいです」
リーゼが羨ましそうにセイの事を見る。
「こっちだよ」
「はやくはやく!」
「おっと」
子供たちがセイのことを引っ張り教会の中へと入る。
「ここに座って」
「こんな前に座っていいのかな」
案内されたのは教会の一番前の席。こういう場所は選定の儀を受ける子の家族とかが座るものだ。
「大丈夫ですよ」
「オルドさん。いいんですか」
「はい。子供たちが喜んでいますのでどうぞ座ってください」
オルドは祭壇の前に教本を持って立っていた。
セイは、子供たちと一緒に一番前の席に座る。
村人たちもそれぞれ席に着き、選定の儀を受けるリーゼを含めた6人が祭壇の前に行く。
「では、始めていきたいと思います」
「楽しみだね」
「俺も早く選定の儀を受けて称号貰いたい」
子供たちが思い思いの言葉を言う。
「静かにしてようね」
『は~い』
子供たちは素直に言うことを聞く。そんな可愛らしい子供たちの様子に村人たちの頬が緩む。
選定の儀は、創造神エンネシア自らが行うことだ。オルドが持っている教本は特殊なものでそこに選定の儀を受けた者の称号が書かれる。
「ロイ、前へ」
「はい」
選定の儀が始まった。教会内に緊張感が漂う。
ロイは、前へ出て真っ白な教本を開いているオルドの前で跪く。
「創造神エンネシアよ。このものに称号を与えたまえ」
そういうと教会内に不思議な魔力が満ちていく。
しばらくすると教本に文字が浮かび上がってきた。
「汝の称号は『戦士』その称号に恥じぬ生き方をしなさい」
「ありがたくお受けします」
ロイは立ち上がると、振り向き
「父ちゃん、戦士になったぞ」
「ああ、やったなロイ」
その後起きたのは村人たちの歓声。村人たちがロイの称号を喜ぶ。
(いい村だな)
セイは選定の儀を見るのは初めてではない。何度か見たことはあるがこんな風に温かい選定の儀を見たことが無い。『勇者』のような英雄になりえる称号が出ない限り誰も喜ばない。そんな冷たい時代だった。
その後も滞りなく選定の儀が行われた。最後は、リーゼだ。
「リーゼ、前へ」
「はい」
リーゼは緊張しながら前へ出る。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「は、はい、すいません」
『ははは』
村人たちが笑いだす。
少女は恥ずかしそうにその場で跪いた。
「創造神エンネシアよ。このものに称号を与えたまえ」
しーんとその場を静寂が包み込む。何も起きない。教本にも何も浮かばない。
(何も起きない?そんなことはあり得ない)
選定の儀では必ずその者に何かしらの称号は与えられるのだ。何も得られないなんてありえない。
(……まさか!)
セイの中で一つの考えに行きつく。何も起こらないのではなく対応が遅れているのだと。そうなると得られる称号はただ一つ。
教会内に神秘的な魔力が溢れだす。
(嘘、だろ)
セイの予想は当たってしまった。
「見つけた。リーゼ、あなたが今代の―」
「え?」
美しい音色の声が教会内に響き渡る。この声は女性のものだろう。
誰から発せられたものか分からず選定の儀を取り仕切っていたオルドですら混乱する。誰もそれらしき人物を見つけることができない。
それもそのはずだ。なんせこの場にいる人間が発した言葉ではないのだから。
神秘的な魔力がリーゼへと集まっていく。
「⁉」
オルドは教本に書かれた文字を読んで絶句した。
「おい、何が起きたんだ」
「リーゼの称号はなんだったの」
突然黙りだしたオルドを怪訝に思った村人たちが席を立ちオルドの周りに集まりだす。
「……リーゼさんの称号は」
セイは急いで<鑑定>を使いリーゼの事を視る。
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リーゼ・エンフィス 15歳
種族 人間
体力 C
魔力 B
筋力 B
俊敏 A
称号 『勇者』
スキル <神剣lv1><鑑定lv1><剣術lv3>
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「勇者」
この地で新たな勇者が誕生したのだった。