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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第五章 妖精の円舞曲
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第八十五話 母からの手紙

 晩餐会が開催された翌日、セイはいつも通り家で家事をしていた。

 晩餐会にて貴族嫌いを公言したせいかあの後誰一人としてセイに話しかける貴族はいなかった。


 いつものように家事を終えリビングへ向かうがそこには誰もいない。

 リーゼとフェンティーネは学院に、ティファはというといつもなら家でごろごろしているのだが今日は珍しく外に出かけていた。なんでもエンネシアとのお茶会の日らしい。そのため珍しくセイは家で一人だった。

 セイは自分で淹れた紅茶と王都の出店で買っておいたクッキーをテーブルに置きソファへと座った。

 

「ふぅ」


 セイは紅茶を一口飲むとホッと一息つく。ここまで静かなのは久しぶりだ。

 セイは今まであったことを思い返してみる。リーゼと出会い、希望となりうる存在を見つけ、ティファやフェンティーネと再会しアイナの心を救った。魔王軍もまた行動している。しかし魔王本人は動いていないらしく幹部たちが独断で動いている。

 

「魔王を相手にするのは当分先かな」


 セイはクッキーをほおばりながら物憂げに呟いた。

 

「どうしようか」


 セイには魔王を相手にする前にやるべきことがいくつかあった。

 その目的の一つはすぐに解決しなければならないかもしれない。

 そんなことを考えていると玄関の扉が開いた。

 

「ただいま」

「おや、ずいぶんと早かったね」


 帰ってきたのはティファだ。ティファは帰ってきて早々ソファへと倒れるとだら~んと力を抜いた。

 

「は~、やっぱりここが一番だわ」

「ソファに転がる前に手を洗ってきなよ」

「ちょっとくらい、いいじゃない」

「だめだよ。ほら早く洗ってこないと君の分の紅茶はなしだよ」


 流石にそれは困るとティファは渋々立ち上がった。

 

「洗ってくればいいんでしょ。それとちゃんと淹れといてね」


 ティファはそれだけ言うと手を洗いに行った。その様子はいつもと変わらない。

 

 セイの目的の一つ、それはティファのことだ。ティファは悪魔が現れてから心が不安定だった。今はそこまで表面上には現れていないがいつまた心を不安定にさせるか分からない。

 セイはティファが心を不安定にさせないよう見守る。それがセイの目的だ。こう聞くと救えばいいんじゃないかと思うかもしれないが事はそう簡単にはいかないほど根深いものなのだ。

 セイはティファに言われたように紅茶を淹れる。

 

「ふぅ~」


 ティファは手を洗い終えるとソファに座りクッキーを一枚手に取り食べる。


「美味しいわね」 

「それ僕の分なんだけど」 

「いいじゃない。それにお菓子は分け合って食べた方が美味しいでしょ」

「そう思うんなら普段からそうして欲しいんだけど」


 セイはティファのいいように呆れながら紅茶をテーブルに置くと対面のソファへと座る。

 それから二人はしばらくの間談笑していると結界内に誰かが入ってきたのに気が付いた。

 

「もうこんな時間か、そろそろお昼の準備をしないと」


 壁にかかっている時計を見るともう十二時を回っていた。セイは立ち上がるとキッチンへと向かう。

 

「残ったクッキーは私が貰ってくわね」

「お昼はちゃんと食べてよ」

「分かってる~」


 そう言ってティファは上機嫌に残ったクッキーを食べる。

 しばらく経つと玄関の扉が開いた。

 

「戻りました」

「ただいま~」

「お邪魔します」


 リーゼとフェンティーネ、それにアイナが家にやってきた。

 

「やっぱりアイナだったか」


 セイはアイナがやってくるのを知っていた。というよりも結界に入ってきた人数が三人だったのでここに来るとするならアイナくらいだろうという予想だった。

 

「セイさん、こんにちは」

「いらっしゃい、お昼食べていくだろ」

「はい、いただきます」


 アイナは家の中に入ると早速セイに挨拶をした。その行動の速さは一緒にいたリーゼたちにも分からないほど早かった。そのためリーゼとフェンティーネは、はや!と驚きの声をあげていた。

 三人はティファのいるソファへと移動する。四人は仲良く話始めセイはその様子を優しく見守る。

 

「あ、そうだ。セイ宛てに手紙が来てましたよ」

「僕に?」


 セイができた料理を運んでいるとリーゼが思い出したように手紙を出した。手紙は白い封筒に入っている。

 リーゼから手紙を受け取ると微力ながら魔力を感じることができた。

 

「これは……高度な魔法が施されてるね」

「手紙にですか?」

「ああ、密会とかの招待状とか、機密情報が記されてたりするとよく使われるね」


 ほぇとリーゼは感心する。

 つまりこの手紙はそれくらい厳重な手紙なのだがセイは誰から送られてきたものか全く予想ができなかった。

 そんな時フェンティーネがあることに気が付いた。

 

「…師匠その手紙やばくないですか」

「うん、やばいね。施錠魔法の中でもかなり難解な魔法、たぶん手順を間違えると爆発する。それに加えて無理やり魔力を操作して開けようとすると爆発、なんてものを送ってくるんだ」

「ば、爆発⁉」


 セイが呆れたように大きく息を吐くとリーゼが驚く。

 そんな危険な物とは知らず持っていたとはリーゼは少し震える。

 

「この手紙はどうやって僕宛てだって分かったんだい」

「それは鳥が教えてくれました」


 リーゼたちが家に帰る途中、鷲のような鳥が飛んできたと思ったらこの手紙を落としていったのだ。そして「セイニワタセ」とだけ言い残して飛んで行ってしまったのだ。

 

「鳥ねぇ」


 セイの中で全てがつながった。

 セイ宛ての手紙にこんな高度な魔法を仕掛け、鳥に持たせて届ける。そして何よりもセイが王都ゼノフに住んでいると知っている人物は一人しかいない。

 セイはティファへと視線を向けると案の定すぐに視線をそらされた。

 

「ティファ?」

「ほ、ほら、早く食べないと冷めちゃうわよ」


 セイの疑問に対して明らかな話題転換だ。若干慌てるティファに他の三人も疑問の視線を向ける。

 

「はぁ、ご飯を食べたら話してもらうからね。もし話さなかったら君が拒んだって伝えるからね」

「う、分かったわよ」


 ティファは渋々納得した様子を見せ五人はとりあえず昼食を食べる。

 昼食を食べ終え食器を洗い終えたセイはティファの対面に座っていた。間のテーブルには届いた手紙が置かれていた。その様子を他の三人は妙に緊張した様子で見る。

 

「それでどうしてモナさんが僕に手紙を出してくるんだい」

「さ、さあ、なんでかしらね」


 ティファの声は上ずり明らかに何かを隠している。

 

「別にこの手紙の中身を見てもいいんだけどさ、できれば君の口から言ってほしいんだよ」

「……」


 ティファは話そうとしない。そのためセイは届いた手紙を開ける。ミスをしたら爆発する高度な魔法を簡単に解き封筒の中から手紙を取り出した。

 周りで見ていた三人もその手紙を覗き込む。

 


~~~~~~~~


セイ君へ


 300年ぶりね。あなたの噂はもうエルフの里まで届いてるわよ。

 それでどうだった?それ新しい魔法なんだけど、難しかったかしら。まあこの手紙を読んでるってことは簡単に解けたって事よね。今度感想を聞かせてちょうだい。

 ここからが本題なんだけど今そこにティファがいるわよね。そこでお願いなのだけど今日中にティファを里に連れてきてくれないかしら。あの子100年前に戻ってきたきり全く顔を見せてくれないのよ。

 というわけで娘をよろしくね。


                            モナ・アロンテッド


~~~~



 手紙を読み終えたセイはティファと向き合った。手紙の内容を悟ったのかティファは苦笑いを浮かべている。

 

「モナさんってティファのお母さんですか」

「そうだよ」


 モナはティファの母親だ。この場で会ったことがあるのはセイだけだ。まあその時にいろいろありセイはモナの事が苦手になったのだが……

 


閑話休題



「はぁ、それでどうして戻ってないんだい」

「う……だって…」


 ティファは理由を話そうとしない。まあそこはセイにとってはどうでもいいのだ。最も重要なのはこのエルフの里に連れてきてほしいという所だ。

 

「君が戻りたくないっていうんなら僕がモナさんに言い訳を伝えるけど流石に百年も顔を見せないのはどうかと思うよ」

「師匠の言う通りだよ。家族に会いに行かないのはよくない」


 セイだけではなくフェンティーネからも指摘を受けティファも少なからず引け目を感じ始める。

 

「………………分かったわよ。帰ればいいんでしょ帰れば」


 かなり悩み最終的には半ばやけくそ気味になりながらも帰ることを選択した。


「そうと決まれば早速行こうか」

「ん?ちょっと待って、今から」

「そうだよ。ほら」


 セイはティファに手紙を見せる。ティファは手紙の内容を目で追っていく。

 

「モナさんも抜け目ないよね。もし君が了承しても君なら面倒がって先延ばしにされるって分かってるんだから」

「く、ママめ」

「分かったなら準備して」


 ティファは足取り重く自分の部屋へ行き帰省の準備をする。

 

「それじゃあ僕も準備してくるよ」

「え?師匠も行くんですか」

「うん、流石にモナさんたちに挨拶しないと後で何言われるか分からないからね……」


 セイの表情は心底疲れていた。

 セイにここまでの表情をさせるティファの母とはどういう人物なのかと三人は気になり始める。

 

「あの、その帰省に私たちもついていくことはできないでしょうか」


 そう言ったのはアイナだった。

 この発言に他の二人は親指を立てナイスという視線を向ける。よくよく考えるとセイとティファが二人でエルフの里に行くなどまるでご両親への挨拶みたいで許すわけにはいかない。

 

「構わないけどアイナは準備とかしなくていいのかい」

「大丈夫です。私にはこれがありますから」


 そう言ってアイナは腰につけているマジックバックを叩いた。

 

「それは僕が作ったマジックバックか。分かったよ。僕からゼインに伝えておくよ」

「ありがとうございます」


 これでセイとティファを二人きりにさせずに済む。

 リーゼとフェンティーネは急いで自分たちの部屋に戻り準備を始める。

 全員が準備を終えるとリビングへと集まった。

 

「もしかしてティーネたちも来るの」

「多い方が標的にされる可能性が減るだろ」

「確かにそうね」


 今一瞬セイから不穏な言葉が聞こえたのを他の三人は見逃さなかった。

 

「標的って何です」

「さ、エルフの里へ行こうか」

「無視⁉」


 まさかセイに無視されるとは思わなかったリーゼは驚きのあまり叫んでしまう。しかしそんなリーゼに反応できないくらい、これから起きるであろうことを考えるとセイには余裕がなかった。

 

「テレポート」


 五人はこうしてエルフの里へと向かうのだった。


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