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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第四章 仮面の聖女
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第七十九話 希望の魔法使い

・アイナ視点

 

 セイさんがレネテロと呼ばれた男へと無数の斬撃と魔法を繰り出す。

 だけどどの攻撃も全てあの黒い剣に防がれる。

 セイさんが時々私を見てくる。私に気を付けて攻撃しているんだろう。


 私のために戦ってくれてるのは分かるけど私にそれだけの価値があるのだろうか?私は王女、セイさんにとっては利用価値なんてないはず


 じゃあなんで助けるの?


 リーゼのため?それとも私のため?


 考えても分からない。ただ一つだけわかることがある。

 それはセイさんが本気で私を助けようとしていること。セイさんの視線から感じるのは優しく真直ぐな心、だけどどこか影があるような気がする。私と似た絶望ともとれる感情を

 あんな瞳、見たことない。私にあんな視線を向けてくれたのはリーゼだけ。



 こんなにも優しい人にはもう迷惑はかけたくない。



「もういいです」


 私は小さくそう呟いた。

 私の言葉に耳を傾けるために戦闘中だった二人の動きが止まる。


「もういいんです。私の事は気にしないでください」


 私なんていてもいなくても変わらない。

 リーゼたちは悲しむだろうけど私は私が死んでも構わない。婚約が無くなった以上王女としての私も本当の私も、もう生きてる価値なんてない。


「私を殺してください。セイさんにこれ以上迷惑はかけられません。それに、もう十分です。私には希望はなかった。それだけの事です」


 希望なんてこの世界にない

 さあ私を殺してください。


「それは認めない」


 セイさんの瞳に映るのは強固な意志


「もういいんですよ。私は―」

「ダメだ!」


 セイさんが叫んだ。

 セイさんの瞳に映るものが少し変わった。それは少し悲しそうなのに、助け出すという強い意志を感じさせる強い瞳


「それはダメだ。君はまだ絶望してはいけない。君には希望となる人がいるんだから。それに言ったよね希望までの道は作るって」


 それはあの日の夜、二人で話し合ったセイさんとの約束


「だから僕は君を助ける」


 この人の意志は何を言っても変わらないのだろう。

 だからこんなにも強い瞳なんだ。私にはない自分の意志、どうしたらこの人みたいな意志を持てるんだろう。


「助けるって言ったってお前は全力を出せないだろ」

「そうは言っても諦めるわけにはいかないんだよ」


 セイさんはレネテロ目掛け刺突

 だけど予想どおりレネテロはセイさんの攻撃を軽く受け流した。


「ぬるいな」

「まあ、当然だね」

「何?」


 セイさんは自分の攻撃が簡単に受け流されるのは予想済みだった。

 空いた左手を私へと伸ばした。


「そんなことさせるかよ」


 レネテロはセイさんの左腕目掛け右足で膝蹴りを繰り出す。セイさんの狙いが外れたかと思われたとき、レネテロの膝蹴りがセイさんの腕をすり抜けた。


「⁉」


 それと同時にセイさんの姿が掻き消えた。


「それは僕の幻だよ」


 後ろから声が聞こえた。

 レネテロが後ろを振り向く前にセイさんの膝蹴りが顔面へと決まった。突然の不意打ちによりレネテロは体勢を崩し私を離してしまう。

 セイさんはその隙を見逃さず私のことを抱きかかえその場から転移した。


「大丈夫かい」

「……」


 私はぼうっとセイさんのことを見てしまう。


 ああ、この人が私にとっての魔法使い、私を絶望から救い出そうとしてくれる希望

 きっとそうに違いない。


「アイナ、聞いてるのかい」

「あ、は、はい大丈夫です」

 

 私はセイさんの顔を無意識のうちに凝視してしまっていた。少し恥ずかしい、たぶん今私の顔はリンゴみたいに真っ赤になってる気がする。


「それはよかったよ」


 セイさんはそう言って優しく微笑んだ。

 あれ?セイさんってこんなにかっこよかったっけ

 そんな事を思っているとセイさんが私を抱きかかえたままもう一度転移した。


「ち」


 そこには剣を振り下ろしたレネテロの姿が


「逃げんじゃねえよ。俺は、お前との再戦を楽しみにしてたんだからよ」

「僕は嫌なんだけどね」


 セイさんは心底疲れた表情をした。

 こんな戦闘狂に絡まれるなんてかわいそう。


「は、そんなこと関係ねぇ、俺が戦いたいって思ったからお前に攻撃した。それだけで充分だろ」


 なんて理不尽な理由なの。私の中で沸々と怒りの感情が沸き上がってきた。それがどうして出てきたのかまだ分からないけど


「お断りって言いたいところだけど、僕と全力の勝負が出来なきゃまた蘇るだろ」

「お、やっとやる気になったか」


 レネテロは不気味な笑みを浮かべる。


「アイナ、僕にしっかり掴まっててね」

「え?」


 セイさんは優しくそう言うと片手で私のことを強く抱きしめる。

 突然の事で私の中でいろいろな感情がごちゃごちゃになるくらい溢れてくる。でもどれも嬉しさ、喜びといった正の感情だった。その時私は悟った。



 私はあの絵本のお姫様みたいに魔法使いに恋をしたのだと



 それを自覚してから認めるまで時間はかからなかった。

 私は、セイさんの首に手を回ししっかりと掴まった。

 

「サンフレア」


 それが開戦の合図だった。

 セイさんの魔法がレネテロ目掛け放たれる。太陽のように輝く炎はアレースによって簡単に切られる。

 

「そんな猫騙しくらうかよ!」


 そこからはもう訳が分からなかった。

 目まぐるしいほど変わる景色、激しくぶつかり合う金属音、傷ついていく大聖堂

 セイさんは私に配慮して結界、それに回復魔法をかけてくれている。

 だ、だけど目が回る。


「はは!そうだ!それだ!俺が求めていたのは!」


 レネテロから最高の歓喜を感じられた。

 まるで求めていたおもちゃを手に入れた子供のようにはしゃいでいる


「ははははは!!思い出すぞ!その勇者の剣を!憎たらしいほど強かったあの女の面影を!」

「……」


 セイさんは無言で剣を振り続ける。時折魔法を放ち牽制するもそれは意味をなさずことごとく切られていく。


「だがおしい、あいつの剣はもっと鋭く、もっと速かった」


 落胆する声が漏れる。


「もう十分だ。俺がお前に勝ってあの時の屈辱を今ここで晴らす」


 そこからレネテロの感情を感じられなくなった。

 無数の連撃がセイさんへと襲い掛かる。


「僕も君との悪縁をここで切らせてもらうよ」


 セイさんが転移し連撃を回避


「サンフレア」

「学習しないのか?言ったはずだアレースの前じゃ魔法は無意味だってな」


 前使った時無効化されてしまった太陽の炎がレネテロへと放たれる。

 レネテロは同じようにアレースを振り、炎を消そうとするが


「⁉何故切れない」


 何故か炎と剣が拮抗しあう、ありえない状況になっていた。


「君は、その魔剣の性能を少し勘違いしているよ」

「何を言ってるんだ」

「その剣はね、魔力を遮断するんじゃないんだよ。魔力を反発させるんだよ」


 私はその説明を聞いても理解できなかった。


「つまり、その剣に魔力が触れれば跳ね返された魔力が向かってくる魔力にぶつかって相殺されるんだよ。だから僕は跳ね返せないよう今も魔力を操って無理やり君へとねじ込んでる。そうすれば」


 つまり跳ね返された魔力すら操って強制的に圧をかけてるって事?

 そこまで言った時、バキンと何かが折れる音がした。


「な⁉」

「魔力の圧に耐えられなくなった剣が折れるってわけさ」


 剣は真二つに折れ、レネテロは驚きながらもすぐに回避行動をとる。だけどそれは意味が無い。


「もう十分戦っただろ」


 セイさんにもの凄い量の魔力が集まりだす。空間が揺れ大聖堂がきしみだす。

 す、すごい


「終わりにしよう。ニブルヘイム」


 セイさんのその言葉と共に辺り一面に全てを凍らせる魔力が広がっていった。


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