第七十三話 魔王軍の策略
話の都合上、今回は少し短めです
セイたちが消えた帝都ガンボルグにて
魔道王であるセイが現れたことによりサイラはその対処に追われていた。
「く、何故こんなことをしなければならない。だいたい、あの”悪魔”が取り逃がすから悪いんだ」
サイラにとってセイたちの城への侵入は完全に予想外のものだった。それに加えアスモデスの独断によるセイたちの排除への動き、止めようにもアスモデスは口が無く話すことができないためコミュニケーションがとれない。
「しかもあいつはどっかに消えるし、あーー!」
サイラは髪をぐちゃぐちゃにかき回し、ストレスから発狂する。
アスモデスはセイたちを取り逃がした後またどこかへと消えてしまった。一体どこに消えたのかサイラには全く見当がつかなかった。
「このままプロスティアを傀儡にする計画だったのにあいつが勝手に行動したせいで台無しじゃないか」
サイラは魔王が何かに怯え行動しなくなったため自ら動くことにしたのだ。
その手始めとしてプロスティア帝国を魔王軍の傀儡とし表向きは外交で少しずつ他の国々と良好な関係を作っていき、裏からはファントムアサシンたちを使い有力な敵兵たちを暗殺しようと考えていたのだが、アスモデスのせいで全てが台無しとなってしまった。
「こうなったらあの皇子と王女の結婚を早めなければ」
ディンレイとアイナの婚約を画策したのもサイラだった。
政略結婚ともなれば国同士の結びつきも強くなりもし魔王軍とのつながりを疑われても簡単に攻めてこれないという考えだった。
セイたちにばれた以上、結婚を早めなければもはやこの場所にいるサイラたちの命はない。ひいては魔王軍の兵力を大幅に減らしてしまうという失態を起こしてしまうことになるだろう。
「ファントムアサシンいるか」
どこからともなく黒い人型の魔物がサイラの目の前へと現れた。
全く気配に気づくことができなかった。
(これが完成形のファントムアサシンか、末恐ろしいな)
サイラは目の前にいる魔物に畏怖する。これが全盛期の魔王軍に何千体といたと考えるだけで魔王の偉大さを実感させられる。
「これをあの方に渡せ早急にな」
ファントムアサシンへ一通の手紙を渡した。
ファントムアサシンはそれを長い爪を使い器用に挟み込み姿を消した。
「こんな時にあの魔道王のようにテレポートが使えれば」
ファントムアサシンのスピードでもベイルダル王国へは約半日はかかってしまう。セイのように空間魔法が使えないのが悔やまれる。
サイラは計画が無事に進むのを願うことしかできなかった。
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ベイルダル王国王都ゼノフ
外はもうすっかり暗くなっており星々が輝いている。
国王とアイナとの会食を済ませたレンティスは案内された部屋で明かりをつけずに外を眺めていた。
「これでいいんだろ、レネテロ」
「ああ」
壁にもたれかかって目をつむっていたレネテロが返事を返した。
「まさか、本当に魔王様が蘇っててこうしてそのお役に立てて光栄だよ」
「そうだな」
レネテロからは不愛想な返事しか返ってこない。
プロスティア帝国の皇族は密かにエンネシア以外の神、大罪神アグナムートを信仰していた。その神に一番近しい存在である魔王の役に立てるとなると気分が高揚してしまう。
「それにしても役得だよね。魔王様のお役にも立ててあんな綺麗な子を妻としてもらえるなんてやっぱり信仰する神様がいいのかな」
「……」
レネテロは一切返事をしなくなった。
「レネテロ、聞いてるの」
「……俺はお前の護衛であって話し相手じゃない」
「はぁ、つれないな」
レンティスは少し呆れるとまた外を眺め始める。
レネテロは一切動こうとしない。
「おい」
「⁉……話し相手にはならないんじゃなかったのかい」
レネテロが目を開けレンティスへと話しかけた。こんなこと初めてだったためレンティスも驚いてしまう。
「一つ訂正だ。俺は魔王様に忠誠を誓っている。俺はお前が死のうとどうでもいい。だから護衛は必要最低限だ。お前が勝手な行動をして死のうが俺は責任を取らない」
「⁉…それはできないでしょ。僕が死んだら君たちの計画は失敗する。だから君も僕を死ぬ気で守らざるを」
自分の優位性を説明しようとした時、レンティスの首元に一本の剣が突き付けられていた。わずかに薄皮を切り裂いており、これ以上刃を入れれば頭と胴体はおさらばだ。
「ひ⁉」
小さな悲鳴を上げるがすぐにレネテロの手により口を塞がれてしまう。
「勘違いするなよ。お前をここで殺してもいいんだ。魔王様が動かぬ以上仕方なしにあの新参者の指示に従っているだけ、はっきり言って俺はあの新参者が気にくわん。弱いくせにいっちょまえに作戦を考え実行する。ここであいつの計画を崩すのもまた一興かもしれないな」
レンティスの目に恐怖が浮かび上がっていく、このままでは殺されてしまう。それくらいレネテロの目は本気だった。
そうして恐怖を感じているとレネテロの力が緩んだ。するととても嫌そうな顔をし後ろへと振り返る。
「なんだ」
「……」
そこにいたのは黒い人型の魔物、ファントムアサシンだった。レネテロはレンティスを壁へと放り投げるとファントムアサシンが持っていた一通の手紙を受け取った。
レンティスは壁へとぶつかった衝撃で肩を痛めるがそんなこと一切気にならなかった。今は解放された安堵の方が強い。
「………ち」
その手紙を読み終えたレネテロは小さく舌打ちするとその手紙をレンティスへと投げ飛ばした。
「読め、そこに指示が書いてある」
それだけ言うとまた壁によりかかり目をつむり始めた。
「………分かりました」
レンティスは恐る恐るその手紙を読み始めると瞬時にその内容を理解した。
そこに書かれていたのはすぐにアイナと結婚すること、そのためには属国にならなければどんな資源も出して構わないということ、さらには皇帝も了承していると印が押されている。
つまり急いで実行しろということだ。
レンティスはこんな時間だが急いで国王のいる部屋へと向かった。




