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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第四章 仮面の聖女
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第七十二話 傀儡の国

 プロスティア帝国、帝都ガンボルグ

 セイとティファは、エンネシアの情報をもとに魔王軍の調査へとやってきた。

 

「なんだか不気味ね」


 ベイルダル王国やナフト王国のように賑わっているかと思いきや、帝都であるにもかかわらずほとんど人がいない。早朝というのもあるのだろうがここまで静かだと不気味だ。


「確かに活気が一切ない」

「誰もいないなら調査しやすいけど、セイ」

「分かってるよ。インビジブル」


 その瞬間二人の姿が消えた。

 セイが発動させた魔法は、魔法をかけられたものを透明にするという隠密用の魔法だ。

 数秒すると街道の奥からカチャカチャと金属が擦れる音が聞こえてくる。


「あれは」


 そこにいたのは腰に鉄の剣を帯剣している鎧姿の二人組だった。顔は兜により隠れているが正面に隙間がありそこから少しだけ顔が見えた。


「……なんてことしてるの」


 ティファが怒りからかギリッと奥歯をかみしめた。


「今は抑えて」

「……分かってるわ」


 そうは言うもののティファの怒りは全く治まることはない。セイとて同じ気持ちだった。二人が見たのは鎧を着た二人の生気のない目だった。

 しばらくすると鎧姿の二人組はこの場から立ち去っていった。


「まさか、また傀魔の鎧を見ることになるなんてね」


 傀魔の鎧とは、魔神大戦時に悪魔の力をもとに魔王軍側が作り出した魔道具の事だ。その効果は着たものの意志を強制的に消すという倫理を無視したものだった。それにより魔王軍は人々を傀儡にし自軍に加え戦わせていた。

 人知れず傀儡を増やしていたこともあり、最初は人側も新種の魔物と勘違いし応戦していたのだがセイが使ったとある魔法により中にいるのが人だと気づくことができた。


 しかし、気づく頃にはもう遅かった。自分の手で操られていた友人を殺した者、中には家族を殺してしまった者までいた。その者たちへの精神的ダメージはとても大きく再起不能になる者が続出してしまった。

 そういうことからこの傀魔の鎧は二人にとって嫌な記憶の一つだった。


「あの屑ども、こんなものをまた作るなんて絶対、根絶やしにするわ」


 ティファの魔力が荒らぶり始め今まで見せたこともないほどの怒りを見せていた。

 セイもまた怒りを抑え込んでいた。


「気持ちは分かるけど、まだ行動を起こすには速すぎる」

「……ふぅ」


 ティファは息を吐き、心を落ち着かせる。


「早く調査を進めましょう」

「そのつもりさ」


 二人は一刻も早くこの件を解決するために帝都の中心にそびえたつ大きな城へと向かった。


「警備は厳重だね」


 二人が城へと着くと十人以上の傀魔の鎧を着た兵たちが誰も通すまいと門の前に整列していた。このまま進めば確実にばれてしまう。

 今日は争いに来たのではないためなるべく穏便に済ませなければならない。


「どうやって入ろうか」

「あそこからなら入れそうよ」


 ティファが指さしたのは城壁の上、つまり飛び越えて行こうというものだった。


「その案にしよう」


 セイがティファへと手を差し出すとティファはその手を掴んだ。するとセイの周りにばれない程度の風が吹き始める。段々と勢いが増していくが音は一切ない。

 二人はその風に乗り城壁を飛び越えた。

 門の前で整列していた兵士たちが気付いた様子はない。侵入に成功した。

 しかしティファは顔をしかめていた。


「どうしたの?」

「ここが魔王軍のアジトで当たってるわ」


 城壁内には特に変わったところもなく、警備の兵士たちが歩き回っている。それなのにもかかわらずティファのその言葉は確信染みていた。

 セイはそれを信じる。


「傀魔の鎧の出どころは分かるかい」

「それは……無理みたい」

「そうかい。それなら自分たちで探すしかなさそうだね」


 セイたちはとりあえず城の中へと入った。

 二人は城を数時間ほど探索するが特に怪しいところは見当たらなかった。

 

「どうだい」

「全然だめ」

「傀魔の鎧の出どころさえわかればいいんだけどな」


 傀魔の鎧の出どころが分からない今、対策をたてようにもできない。

 このまま手詰まりかと思った時、奥の部屋から妙な気配を感じ取ることができた。

 

「あそこは」

「一回来たわよね」


 そこは一度来た時には目にも止まらなかった部屋だ。しかし、今はその部屋から意識を離すことができない。

 二人はそのまま引き付けられるようにして部屋の中へと入った。

 

「これって?」


 中には部屋の中央でろうそくが一本、ゆらゆらと火を灯していた。

 何故こんな部屋にろうそくがあるのか考えているとセイの脳内に警報が鳴り響いた。

 

「⁉ティファ!」

「え?」


 セイはティファを自分の方へと抱き寄せた。突然の事で何が起きたのか理解できずにいたティファだが、次の瞬間全てを理解することになる。

 

「⁉」


 さっきまでティファが立っていたところから無数の鋭い針状の土塊が現れた。

 もしセイに引っ張られていなければ今頃ティファは串刺しになっていただろう。

 

「どうやら僕たちはおびき出されたみたいだ」


 部屋の中に禍々しい魔力が溢れ始める。

 

「サンフレア」


 セイは咄嗟に魔法を発動させ禍々しい魔力の出どころへと攻撃した。

 しかし、魔法はその場で燃えるだけで禍々しい魔力を消し去ることはなかった。

 炎が消えると禍々しい魔力が一点に集まりだし何かを形作る。

 

「———」


 禍々しい魔力を身に纏った二つの翼をもった人型の何か、皮膚は黒く顔はない。顔と思われる場所にあるのは不気味な光を放つ一つの赤い球だけ

 部屋の中に緊張感が漂い始める。

 セイはその姿を見て一瞬驚くがすぐに気を引き締めなおす。

 

「まさかとは思ったけど君まで蘇ってたんだね。アスモデス」

「———」


 アスモデスと呼ばれたその存在は何も答えない。否、答えることができないのだ。

 

「また傀魔の鎧を作ったのは君だね」


 アスモデスは一切反応しない。

 

「それは肯定って事でいいのかな」

「————」


 首を振ろうとしないため肯定ととらえる。

 これで全て合点がいく。300年前も傀魔の鎧を作りだしたのは目の前のアスモデスだったのだ。

 このままセイが質問を続けようとするとティファがものすごい勢いで魔力を高め始めた。尋常ならざる量の魔力により空間が揺れ始める。

 

「……なんで……なんでお前がここに居る!」


 ティファは激昂するとマジックバックから『深弓』を取り出し魔力を一点へと集め始める。

 こんなものを放てば、自分たちすら巻き込んでここら一帯は一瞬で消し炭になってしまう。

 

「ティファ!」


 セイはティファの魔力に干渉し集めていた魔力を霧散させた。

 すると急に魔力を高めた反動からかティファは意識を失って倒れてしまう。

 

「何事ですか!」


 扉を勢いよく開けたのは丸眼鏡をかけた男、サイラだった。

 サイラは異常なまでの魔力の高まりと叫び声が聞こえここまで来たのだ。

 

「ここらでいったん引かせてもらうよ」

「な⁉魔道王」

「テレポート」


 サイラはセイを見て驚き、すぐに腰につけていた刀を抜きセイへと襲い掛かった。

 しかしそれは失敗に終わる。

 ティファが倒れてしまった以上これ以上の調査は不可能と判断したセイは空間魔法を発動させこの場を後にした。


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