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第六話 セイと白き竜

 セイはリーゼにこの村について説明してもらいながら歩いていた。

 

「この村には、200人ほどの人が住んでます」

「へぇ、多いね」

「そうでしょうか?」

「うん、僕が知っている村だと平均的に村人は大体4,50人くらいだからさ」


 クロッサス村が多いわけではなく。300年の間にかなり平和になったため人口も増え一つの村に住む人数が多くなったのだ。

 

「まず案内したいのがこっちです」


 セイは元気なリーゼの後についていく。そんなリーゼについ自分の弟子の姿を重ねてしまうもすぐにそれはリーゼに失礼だと頭を横に振り思考を変える。

 

「ここです」

「すごい、大きいね」


 リーゼに案内された先には教会があり、村に置かれる建物にしては大きかった。

 

「あ!リーゼ姉ちゃんだ!」

「本当だ」

「わーい、リーゼお姉ちゃんだ」


 元気いっぱいな小さな子供たちがリーゼの周りに集まってきた。教会で暮らしている孤児たちだ。いくら平和になったと言っても孤児の数はあまり減っていない。それもそのはず技術が発展しようが平和になろうが子供を手放す親は必ずいる。そういう世界だ。

 セイは少しだけ悲しくなる。

 

「遊びに来てくれたの?」

「違うだろ。男を連れてるから」

「あ!お姉ちゃんデート?」

「ち、違うよ」


 子供たちがセイの事を見て目を輝かせる。そんな純粋な子供たちの言葉にリーゼは少し慌てた。

 

「初めまして、僕はセイだよ」

「お兄ちゃんはリーゼお姉ちゃんの彼氏?」


 小さな女の子が目を輝かせながら聞く。小さい子でも女の子はそういう話題が好きなのだ。リーゼは少しだけ期待した目でセイの事を見る。

 

「違うよ。僕はリーゼの家に泊らせてもらってるんだ」


 予想道理だったがリーゼは少しがっかりする。

 

「おやおや、子供たちが消えたと思ったらリーゼさんでしたか」

「あ、神父さん」


 教会の中から出てきたのは聖職者の格好をした50代くらいの男性だった。

 

「そちらの方は、もしかして恋人ですか」

「違うよ。お兄ちゃんは、お姉ちゃんの家に泊まらせてもらってるんだって」

「ああ、一昨日この村に来たセイさんでしたか。初めまして私はこの村で神父をしているオルドです」 

「初めまして」


 神父は丁寧にお辞儀をした。その所作はとても礼儀正しく聖職者としてとてもふさわしい雰囲気を持っていた。

 

「今日はどうされたんですか」

「この村を案内してるんです」

「そうでしたか。本当に恋人だったら村をあげての会議になりますからね」

「え⁉」


 オルドの発言からリーゼがこの村の人たちから愛されていることがとてもよく分かる。

 

「それはリーゼさんのことをみんなが心配に思ってるからですよ。この前なんて貴族からの求婚を断ったじゃないですか」


 リーゼはその美しさから村の同年代の男からもモテる。

 

「う…」


 リーゼにとって思い出したくもないこと、約半月ほど前この村にここの領地を治める貴族の息子が来た際にリーゼに一目惚れをし、その場で求婚をしたのだ。

 その貴族の息子はとても評判がよくこんな優良物件逃す手はないと村の全員が思ったのだがその時はまだ剣の事にしか興味を持てなかったため速攻で断ったのだ。それなのに剣のことを考えずセイを連れているとなるとそれは村の人たちにとって大事件のようなものなのだ。


「そうだったんだ」

「いえ、これはその…」

「仕方ないと思うよ。リーゼは可愛いしね」

「ふぇ」

「ああ、リーゼ姉ちゃん顔真っ赤だ」


 セイの唐突な不意打ちによりリーゼの顔が赤くなる。そんなリーゼを子供たちは面白く見る


「そういうことですか」


 オルドは理解した。セイはからかっているわけではなく本心から言っているのだと。その素直な性格で300年前も人気が高かった。


「セイさんは、この村に何しに来たんですか」

「私は旅人でして魔の森を歩いてた時にリーゼたちと会ったんですそれでしばらくの間この村にやっかいになろうと思ったんです」

「そうなんですか」

「お兄ちゃん。旅人さんなの」

「そうだよ」


 元気がよさそうな小さな女の子がセイの近くに寄った。セイはその場でしゃがみ女の子と目線を合わせる。


「なら旅のお話聞かせて」

「う~ん、いいけど今はリーゼにこの村を案内してもらってる途中なんだ。だからまた今度でもいいかな」

「え~、少しだけ少しだけでいいから」

「僕も聞きたい」

「俺も!俺も!」


 子供たちが駄々をこね始める。セイはそれに困った表情をし、リーゼの方を見る。


「私の事は気にしないで話してあげてください。私も聞きたいですし」


 リーゼもセイがどんなことをしてきたのか興味があるのだ。


「分かったよ。じゃあ僕がドラゴンとお話しした時のことを話そうかな」

「ドラゴン⁉」


 子供たちが驚く。子供たちにとってドラゴンとはおとぎ話の中に出てくる恐ろしい魔物というイメージがある。


「そうだよ。あれは僕が14歳の時」


~~~~~


 僕は、魔物を狩ってお金を稼いでたんだ。いわいる冒険者ってやつだね。その時にさ、依頼でとある谷、分かりやすく言うと地面が割れちゃってる場所さ。

 そこに魔物が大量に出たから助けてほしいって言われたんだ。

 僕が着くと怖い怖い魔物が沢山いたんだ。

 でも僕には魔法があった。風を操り火を出し凍らせたりもした。そうやっていつも通り魔物を倒し終えて帰ろうとしたんだ。

 だけどそれだけじゃ終わらなかった。


「グォォォォ!!!」

「⁉」

 

 突然ドラゴンの咆哮が聞こえたかと思ったら目の前にこの教会くらいの大きさのドラゴンが現れた。

 その竜はね綺麗な純白の姿をしていて雄大な翼を広げて空から降りてきたんだ。

 

 ん?怖くなかったかって

 不思議とね、怖くなかったよ。

 そのドラゴンの眼には他の魔物とは違って確かな意思を感じたからね。それで僕は話しかけてみたんだ。


「こんにちは」


 そういうとドラゴンは目を見開いて驚いてたよ。たぶんドラゴンに話しかける人間が珍しかったんだろうね。


「人の子よ。私が怖くないのですか」

「う~ん。君は他のドラゴンとは違うことくらいは分かるよ」

「面白いことをいう人間ですね」

「ありがとう」

「人の子、お前は何をしに来たのですか」

「ここにいる魔物を倒しに来たんだよ」

「これをあなた一人でやったのですか」

「そうだよ」


 そう答えたらなんていったと思う。


「あなた本当に人間ですか⁉」


 まさかドラゴンから人外扱いされる日が来るなんて思いもよらなかったよ。だけど僕は、あの時心が少し傷ついたね。


「正真正銘人間だよ」

「それは失礼しました」

「それで君は何しに来たんだい。まさかここの魔物たちを食べようと」

「違います!私をそこらへんのドラゴンと一緒にしないでください!私はベジタリアンです」


 今までの常識が覆ったよ。ドラゴンは肉が好きだと思ってたけど本当は野菜の方が好きだったんだよ。驚きでしょ


「ごめんね。だけどそれなら何しに来たの」

「私は、ここに大量の魔物が現れたと聞いて討伐しに来たのです」

「優しいんだね」


 ドラゴンはね。恐ろしいだけの存在じゃないんだよ。僕たちを助けてくれるドラゴンもいるんだ。


「理性の無い魔物のような弱い者たちを蹂躙するものが嫌いなんです」

「そうなんだ」

「ですがそれも意味がなかったですね。ですがこのまま帰るわけにはいきません。あなたの名前を教えてください」

「僕の名前はセイ。君は」

「私はルナ。あなたとはまたどこかで出会うことがありそうですね」

「その時を楽しみにしてるよ」

「それではさようなら」


 ルナはそれだけ言うと空の彼方へ飛んでったよ。

 これが僕がドラゴンとお話しした時のお話


~~~~~~


「どう面白かったかい」

「面白かった」

「ドラゴンさんは優しいんだね」

「僕も話してみたい」


 子供たちは口々に感想を述べていく。セイの話を楽しんだようだ。


「もっとお話しして」

「今日はこれでおしまい」

『え~』


 子供たちが口をそろえてがっかりする。何故かリーゼまでもが声を出していた。


「今日全部話しちゃったらつまらないでしょ。だからまた明日お話ししに来てあげるよ」

「本当?」

「うん約束するよ」

「分かった。明日まで我慢する」

「いい子だね」


 セイは一番前の女の子の頭を少し乱雑になでる。女の子は目を綻ばせ気持ちよさそうにする。


「ありがとうございます」

「いえ、僕も昔のこと話せて少し楽しかったですし」

「本当の話なんですか」


 オルドはセイが言っていることは子供たちを楽しませるための作り話だと思っていた。


「そうですよ」


(少しだけ違うけど)


 セイは昔のことを思い出していた。セイは確かにドラゴンと会話をしたが内容は少しだけ違う。本当の内容は子供たちに聞かせるにはちょっと教育上よくないと考え改変したのだ。


「それはすごいですね」

「そんなことないですよ。それではまた明日来ます」

「はい、ありがとうございました」

「じゃあねお兄ちゃん」


 子供たちがセイとリーゼに手を振る。その可愛らしい姿に頬を綻ばせながら手を振り返す。


「子供たちに人気でしたね」

「そうかな。リーゼもあの子たちにずいぶん好かれてるように見えたよ」

「私子供が好きなのでああしてたまに教会に行ってあの子たちと遊ぶんです」

「それはいいね」


 子供たちと遊ぶことはリーゼにとって一種の癒しのようなものだ。


「まだまだこの村にはいろいろなところがありますから行きましょう」



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