第六十五話 新しい担任
いつも通りの日常に戻りリーゼは学院に行く準備を進めている。
「もう行くの?」
そう言って、部屋に入ってきたのはフェンティーネだ。
彼女の格好はいつもと違い部屋の中だというのにローブを羽織っていた。
「うん。早く行かないとアイナを待たせちゃうから」
「そっか、それじゃあまた後でね」
「?うん、じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
フェンティーネの言葉に少し引っかかったがリーゼは気にせず学院へと向かった。
セイとティファは何か調べものがあるらしく朝からエンネシアのいる大聖堂へと出かけていった。
リーゼが結界から出るといつもいるはずのアイナがいなかった。
「あれ?時間、間違えちゃったかな」
しばらく待っていると純白の馬車が悠然とリーゼの方へとやってきて止まった。周りにいた騎士が扉をゆっくりと開ける。
「ごめんなさい。少し準備に手間取っちゃって」
馬車の中からアイナが慌てた様子で外に出てきた。
「珍しいね。アイナが遅れるなんて」
「ちょっと夜遅くまで考え事してたら寝坊しちゃって」
「そうだったんだ。それじゃあ行こう」
「そうね。もう帰っていいわよ」
「は!お前たち戻るぞ!」
アイナが騎士たちにそう言うと騎士たちは綺麗に足並みをそろえ王城へと戻っていった。
「いつも思うけど、あの騎士さんたち凄いよね」
「そうかしら?」
「そうだよ。あんな綺麗に動ける人達なんてそうそういないよ」
「見慣れてるから分からないわ」
アイナにとっては当たり前だがリーゼから見たらあの騎士たちの動きはとても統率がとれていて素晴らしい動きなのだ。
二人は大通りを歩いていく。
周りにある店は開店のための準備で忙しそうだ。すると一部の店の人たちがリーゼたちに気が付いた。
「リーゼちゃん、今日も元気だね」
「おう、リーゼちゃんか、今日はセイの兄ちゃんはいないのかい」
「あんた、リーゼちゃんは学院に行ってるのよ」
「おはようございます」
何故こんなにも大通りの人たちが親しくリーゼに話しかけてくるのかというとリーゼはセイと一緒に何度かここに買い物に来ることがあった。その時にお店の人たちと会話する機会があり仲良くなったのだ。
それ以来こうして話しかけてくるのだ。
「人気ね」
「全部セイのおかげだよ」
「へぇ、やっぱりセイさんは人気なのね」
アイナの口角が少し上がった。
(何かあったら横からひょいって取っていっちゃいそう)
リーゼは自然とフェンティーネが言っていたことを思い出した。
(まさか本当に)
リーゼは頭を横に思い切り振りそんな考えを無くそうとする。
「どうかしたの」
「う、ううん、何でもないよ」
リーゼは分かりやすく動揺する。
いつものアイナならそんなリーゼをからかうなり疑問を究明しようとするなりするが何故かそうせず興味なさげに足を進めた。
(やっぱり少しおかしい?)
いつもと違う様子のアイナの事が少し心配になる。
「大丈夫?」
「何が」
「なんかいつもと少し様子が違う?気がして」
アイナの反応がにぶく、外したと思い頬を掻きながら恥ずかしそうに答える。
「……ぷ、あははは」
アイナは足を止めきょとんとすると何がおかしかったのか笑いだした。
「ど、どうしたの」
「どうしたのって、いきなりリーゼが私の様子がおかしいなんて言い出すんだものおかしいでしょ。私はいつも通りよ」
「そうかな?」
「そうよ。早く学院へ行きましょう」
アイナは何事もなかったかのように学院へと歩を進めた。
「あ、ちょっと待ってよ」
リーゼは置いていかれそうになり急いでアイナを追いかける。
リーゼに見えないアイナの表情はというと何とも言えない表情をしていたのだった。
学院へ着き二人が教室へと入ると何やら教室内が騒がしかった。
「何かあったのかな?」
「さぁ、何も知らないわ」
二人が席に座るとアレンが近づいてきた。
「二人とも聞いたか」
「おはよう、アレン君」
「早いわね。ゴミムシ」
「そんなことより聞いてくれよ」
アイナにゴミムシ呼ばわりされてももう何とも思わなくなった鋼のメンタル、アレン。
「このクラスに新しい担任が来るらしいぜ」
「新しい担任?」
「どうせまた、ろくでもない教師じゃないでしょうね」
アイナは興味なさげに答えた。
現在リーゼのクラスには担任教師がいなかった。元々はサイラという担任がいたのだが、魔王軍の襲撃の際、その首謀者がサイラだと分かり指名手配されてから今日まで担任がいなかったのだ。
「それが違うんだ。なんでもティファ様がスカウトしてきた有名な魔法使いらしいんだ」
「ティファさんがスカウトしたの?大丈夫かな?」
リーゼはいつも家で見ているティファがあれなので少し心配になる。
「はぁ、英雄をそんな風に見てるの、あなたくらいよ」
「だって、家じゃあんなにだらしないんだよ。威厳なんて、もうないよ」
この場にティファがいたら「失礼ね!私だってやるときはやるわよ!」と抗議していただろう。
「楽しみだな」
アレンが目を輝かせていた。
二人は、まるで珍獣でも見つけた時のような視線をアレンへと向けた。アレンが女子のこと以外でここまで目を輝かせるのはおかしい。
「気味が悪いわね」
「もしかして、その魔法使いの先生って女性?」
「そうなんだ!」
アレンが、勢いよく机に身を乗り出した。
案の定というべきか、二人は呆れる。
「聞いた話だと俺たちと同じくらいの歳の美少女だとか。く~、今から楽しみでたまんないぜ!」
「どうせそんなことだろうと思ったわ。やっぱりゴミムシはゴミムシね。近づかないでくれる」
アイナからの辛辣な言葉しかしアレンはめげない。鋼のメンタル、もはやアレンに死角なし
「そろそろ先生が来るから自分の席に戻った方がいいと思うよ」
リーゼからのやんわりと離れてという意味の言葉が心に刺さりアレンは大ダメージを受け片膝を床へと付けた。
アイナのように直球で言われるのには慣れたがリーゼのようにごまかしながら言われるのは未だに心に響く。鋼のメンタルはガラスのハートへと変わった。
「く、俺はそんなことを言われてもめげないぞ」
アレンはまるで魔王の圧倒的力を前にしても諦めない勇者のように立ち上がった。
そんな時、扉が開き、一人の少女が入ってきた。
「あ、先生が来た、み……」
「あら、そういうことだったのね」
リーゼは驚きのあまり言葉が出てこなくなり、アイナは納得した。
教室の男子生徒は、教室に入ってきた少女に見惚れ、女子生徒たちもその姿から目が離せなかった。
「今日からこのクラスの担任になったフェンティーネだよ。気軽にティーネ先生って呼んでね。あ、一応、ダイヤランク冒険者『黒魔』としても活動してるからよろしくね」
黒髪の少女がいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべるのだった。




