第六十三話 アイナ
第四章の始まりです。
この章ではアイナが目立ってきます。
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私という存在は昔から虚無だった。誰も私に触れようとはしない。大人たちは王女という道具に媚びへつらうのみ。
お姉さまは、私は虚無じゃないと言ってくれるけどお姉さまに私の気持ちは分からない。お姉さまは権力者としての力を着々と付けていき、今となってはただの王女ではなく派閥まで作る政治家となってしまった。
そんな人に何を言われても私には響かなかった。
そんな中、年に一度お城で開催される晩餐会に出席することになった。そこでは同年代の貴族の子供たちも出席すると聞き、私は胸を高鳴らせた。
子供なら大人のような汚いことは考えない。
何を話そう?友達は出来るかな?もしできたら、たくさんお喋りして、好きな異性の話とか、一緒にお茶会したり、お買い物もしたいな
そうやって私は妄想を広げていった。今でも覚えてる。あの時の胸の高鳴りを、そしてそんな淡い希望が潰えた絶望を……
私は甘かった。子供なら大人のように汚い考えが無いなど夢物語だったのだ。
晩餐会に出席すると、そこには私と同い年くらいの子供たちが沢山いた。お父様の挨拶が終わると私は一人テーブルに並ぶ豪華な料理を取っていた。
すると私にドレス姿の女の子たちが話しかけてきた。私はやっとこの時が来たと女の子たちと楽しくお喋りを始めた。その時はとても楽しかった。しかしいつの間にか何故か話が私の好きな物やほしい物の話に変わっていた。
そんな話どうでもいい。私はあなたたちの事が知りたいの。そう思い、女の子たちに聞こうとした時周りの視線に気が付いた。
私たちを見る汚い視線
私たちの事を見ていたのは女の子たちの親と思われる人たちだった。その時、私は悟った。
————この子達も同じか
女の子たちの視線まであの汚い視線と同じに見えてしまい。私はすぐ話を切り上げ、会場を後にした。所詮夢は夢で終わる物なのだ。私は王族、そんなくだらない希望を抱いたところで意味が無い。
この日から私は不思議なことに悪意や腹の内に秘める汚いものを抱える人とそうでない人の区別がつくようになった。侍のような<心眼>を持っているわけでもない。ただそう見て感じるだけ
そんな風に過ごし私は十二歳になった。
私はただ王族としての責務を全うしくだらない日々を過ごす毎日だった。当然友達なんていない。そんなある日、お姉さまが一冊の絵本を持ってきてくれた。
こんな歳になって絵本なんて馬鹿らしいと思ったけど折角お姉さまが持ってきてくれたのなら一度だけ読んでみようと思い本を開いた。
それから私は何故かその本を何度も、何度も、読み直していた。
その本は、タイトルの無いありふれた恋愛悲劇だった。主人公は夢見る吸血鬼の王女と魔法使いの少年。色々な話が書かれているのだが最後の最後、王女が『嫉妬』の神により塔に幽閉されそれを魔法使いの少年が救い出すのだけどそれを許さなかった『嫉妬』の神が二人を殺してしまうというものだった。
子供が読むには重い内容だったが私にはとてもよく感じた。この王女は最初、私のように友達がいなかった。そんな中出会ったのが魔法使いの少年だった。二人の友情は固く結ばれそして恋へと発展した。
私はそんな二人に憧れた。自分と王女を重ね合わせ何度も何度も読み直していた。今でもたまに読んでは私と重ねている。
そして今、私には友人ができた。
ゼノフ学院の入学式、私はいつものくだらない日々が始まるのかと考えながら、学院へと向かった。私が馬車から降りると誰もが私に汚い視線を向ける。くだらない
一部の貴族が私に話しかけようとしたからひと睨みすると貴族たちはすぐに離れていった。私はあの晩餐会以来こんな風に貴族に対して嫌悪感をあらわにした。
私は一人、入学式の会場へと向かう。もう何も期待しない。
そんな風に思っていたがそれは違った。汚い貴族たちが集まる中、一人おどおどしている綺麗な水色髪の可愛らしい女の子がいた。私は、試しに話しかけていた。
少女の名前はリーゼ、どこかで聞いたことがあると思ったらお姉さまが会いに行った『勇者』だった。
リーゼは私に汚い視線を向けないどころか私のことを知らなかった。
ま、どうせそんなこと関係ないわね。私の名前を知れば他の人たちと同じように汚い視線を向けてくるはず。
私が名乗ると女の子は気が付いた。まあ、当然よね。だけどその後この子が言った言葉に驚いた。
「レイラさんの妹だったんだ」
よ。
私はこの子は他の皆と違う。そう確信したわ。
それから私はリーゼという一人の人間の事が気になり一緒に行動するようになった。
リーゼと一緒にいると会えると思えなかった『魔道王』であるセイさん、いっつも不愛想だったティファ様。この二人とも仲良くなることができた。私とは全く違う人間。そのためすべてが新しく楽しかった。
こんな日々がずっと続けばいいな、なぁんて思ってしまう。
だけど、そんな日々が続くわけもなかった。
私は今お父様がいる謁見の間へとやってきた。ここに呼び出されるなんてどうせろくでもないことだ。私用なら自室に呼び出されるはず、つまり政治にかかわる話なのだろう。
「アイナよ」
「何です、お父様」
「お前の婚約が決まった」
ああ、やっぱり
何となくそんな気がしていた。私はこの国の駒として使われる。
「政略結婚と言ったらどうですか」
「娘の結婚をそんな風には言いたくはないのだがな」
本当にそう思ってるのかもしれない。だけど私にはお父様の事も汚い大人にしか見えない。
「分かりました。引き受けましょう。それでどこの誰ですか」
「プロスティア帝国の第二皇子、ティンレイ殿だ」
プロスティア帝国はこの国の西方に位置する国で国交はそれなりにしか結んでいない。多分魔王軍が現れたことで関係を強め協力しようということなのだろう。
そのための礎に私が選ばれただけだ。
「そうですか」
「すまんな」
お父様が突然私に謝罪した。
「何がです?政略結婚の事なら気にしないでください。私も王族なので覚悟はしていました」
「そうではないのだ。私たちのせいでお前には悪い思いをさせてしまっていた」
「そんなことありませんよ」
私は適当に返事をする。するとお父様は少し悲しそうな顔をした。
どうしてそんな顔をするのですか?お父様には関係ないでしょ
「そうか」
「話はそれだけですか。それでは私は失礼させていただきます」
私は謁見の間を後にした。
私も結婚か。それにしても第二皇子だなんて、やっぱり所詮私は道具でしかないのだ。




