第六十一話 忘れ者
少し短めです
ソラティスとの戦闘を終えた王城の庭。リーゼが持っていた神剣ブレスノアはこの世界から消えていった。
セイは、ソラティスの魔法により荒れた庭を魔法を使い元に戻していた。
(こういう時に時魔法が使えれば便利なんだけどな)
時魔法が使えればただ時を巻き戻すだけで全てを直すことができるのだが、魔力を大量消費するためこんな後処理のために時魔法を使うのはセイだけだ。
現在は土魔法、植物魔法を使い元の綺麗な芝生へと戻している。
リーゼとティファ、フェンティーネはソラティスとの戦いでかなり大きな騒音に加え魔力を用いた戦闘が行われたため事の経緯を王都に暮らす人々へと説明しに行っている。
「さてと次はあれだね」
芝生を直し終えるとティファが豪光で壊したお城のいっかくの修理にとりかかる。
「……ずいぶん綺麗にえぐったね」
壊れたお城を見るとセイは少し疲れた表情をした。
豪光により壊れたお城は綺麗な曲線を描いて焼けるようにえぐれており、直すのがより一層大変になった。
セイは渋々お城を平面に切り土魔法でレンガを作り元の形へと積んでいく。魔法で土を固める際セイは何かに気が付いた。
「そういえば、何か忘れているような………」
思い出せそうで思い出すことができない。その間も風魔法を使いレンガを積んでいく。
「固める…………あ、ブラド王を氷漬けにしたままだった」
セイはいったん作業をやめ、すぐにブラド王のいる部屋へと転移した。
転移すると槍を持ったブラド王が氷に閉じ込められていた。
「早く溶かさないと」
セイは急いで魔法を解除し氷を溶かしていく。
「うぉぉぉぉ!!!今すぐその首取ってくれる!」
ブラド王は二本の槍を振り回しながら扉をけ破り外へ出ようとした。
「待ってくださいブラド王、もう終わりました」
「は?」
セイの言葉にブラドは肩に入れていた力が抜け呆けてしまう。
「セイ、今何と言った」
「だから、もう終わりました」
「そういえば、確かお主に足を魔法で凍らされて、ん?記憶があいまいに」
「そうだブラド王、戦闘で壊れた建物の修復をしときました」
セイは、すぐさま話をそらした。別にばれても構わなかったのだがばれないことに越したことはないと思いこのまま隠し通すことにした。
「おお、そうか。それは助かる。して我の記憶があいまいなのだが」
ブラドが話を戻そうとする。
「転移」
セイは咄嗟に機転を利かせ空間魔法を使いある者たちをこの部屋へと転移させた。
「う……ここは?」
「ちょっといきなり転移させるなんて何考えてるの」
「ここって、お父様の部屋?」
この部屋に現れたのは王都で民たちに事の真相を話しているはずの三人だった。反応は三者三様だった。
フェンティーネは辺りを見回すと寝間着姿で槍を持ったブラドに気が付いた。
「お父様……」
「ティーネ……」
呪いから解放され元気になった父と娘の再会。
「お父様!」
「ティーネ!」
ティーネはブラドへと駆け寄る。ブラドは槍を床に落とし両手を広げ、娘を受け入れる準備を整える。
他の三人は空気を察しこの部屋から出ようとするがその必要はなかった。
「何をしてるんですか!」
「ぐほ⁉」
「……」
なんとフェンティーネは父親の顔面目掛け右ストレートを綺麗に決めたのだ。
予想だにしなかった光景が繰り広げられ三人は唖然としてしまう。
「ど、どうしたのだティーネ」
頬を抑えながら動揺を隠せないブラドはティーネの方を見る。ブラドの頬は少し赤く腫れておりとても痛そうだった。
「どうしたじゃありません!ど・う・し・て、槍を持ってたんですか!」
「そ、それはだな。ソラティスの首を取ろうと思って……」
「思ってじゃありません!三日も寝込んどいてすぐ動こうとするなんて何考えてるんですか!」
フェンティーネの純粋な心配だった。娘からの心配と頬のひりひりとした痛みからブラドの目が少し潤み始める。
「ティーネ……」
「もうこんなことしないで」
「ああ、分かった。病み上がりでもう動こうとはせん」
今度こそ感動するかに見えたがフェンティーネはブラドのある言葉に引っかかった。
「病み上がり?」
「あ」
ブラドは自分の失言に気づきすぐにフェンティーネから視線をそらした。
「お父様、病み上がりって何ですか?お父様は呪われていて動けなくなっていたんですよね」
「い、いや、ちゃんと我は呪われていたぞ」
フェンティーネの冷たい視線にブラドは思わず声がうわずってしまう。
「それは知ってますよ。だって実際に呪われてるか確認しました。ふぅ……師匠」
「な、なんだい」
珍しくセイの表情が少し強ばった。フェンティーネからは何とも言えないプレッシャーがある。
「お父様が病み上がりってどう意味ですか?」
フェンティーネがセイへと迫る。セイが口を開こうとした時フェンティーネの後ろで懇願するような瞳で見てくる王が一人
(すいません。このティーネに嘘はつけません)
「ブラド王は一年前から病気を患っていて僕が来た時には生きてるのが不思議なほど危ない状況だったんだよ」
セイは心の中で謝るとフェンティーネにブラドの状態を詳しく話した。ブラドの表情はどんどん青ざめていく。
「ありがとう師匠」
「いいんだよ。僕たちはお邪魔だと思うから出ていくね」
「セ、セイ」
ブラドはセイに助けを求めるがセイは口パクで「頑張ってください」とだけ伝えるとリーゼとティファを連れ部屋の外へと出る。
親子水入らずの状況だがブラドにとって全く喜べる状況ではなかった。
「さ~て、お父様」
「ひ⁉」
フェンティーネと目を合わせるとブラドが小さく悲鳴を上げた。
「病気ってどういうことです。しかも危ない状況って、呪いとか関係なく私たちに黙ってたんですね」
一歩また一歩とブラドへと近づいていく。
「そ、それはだな。病くらいすぐに治ると思ってだな。……ティーネ何故拳に魔力を纏わせてるんだ」
フェンティーネの右手に濃密な魔力がまとわり始める。その魔力量は明らかにふざけて纏わせていい量を超えていた。
「さぁ何故でしょうね」
フェンティーネは可愛らしい笑みを浮かべていた。しかし目が笑っていない。
「は、はは」
もう乾いた笑みしか出てこない。
「なんで教えなかったんですか!」
「ぐほ!」
その日ナフト王国の王城にて男の悲鳴が響き渡ったのだった。




