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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第三章 呪われた王国と吸血鬼の弟子
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第五十八話 師としての言葉

・セイ視点



 僕は朝からナフト王国中を飛び回っていた。都市に行ってはそこに魔法を設置し、また別な都市へと飛んでいく。

 力を制限されているせいか魔力を隠しながら魔法を設置するのはなかなか大変だ。


 僕の作戦はこうだ。まず僕が、こうしてナフト王国を飛び回り各地に解呪のための魔法を設置していく。神光魔法が使えれば、こんなことしなくても一瞬で解呪できたんだけど、できないことを願っても意味ないね。

 これが終わったらリーゼとティファが、王城に侵入してソラティスの意識を呪いの制御から遠ざけてもらう。


 僕とティファの予想だとソラティスはだいぶ力が弱ってる。300年前と同じ力を持っているのなら国民にもっと強力な呪いをかけているはずだ。それなのに国民にかけられている呪いは僕じゃなくてもそれなりの実力がある魔法使いなら簡単に解呪できてしまうような呪いだった。

 予想が当たってれば少し騒ぎを起こせばソラティスは簡単に出てきてくれるはず


 方法は何でもいいって言っちゃったけど、何か壊してないかな。もしそうなったら国際問題になりかねないからね。僕の心配しすぎかな

 すべての都市に魔法を設置し終えると僕は、王都へと転移した。

 まだ行動は起こしてないのかな

 

「⁉」

 

 そう思った時、凄まじい轟音がお城の方から聞こえてきた。

 

「……僕は知らないぞ」



 お城の塔の一角が崩れていく。今の攻撃は豪光に見えたけど気のせいってことにしとこう。きっとその方がいい。

 僕はお城の方にある魔力を探る。広い庭にいるのは、ティファにリーゼ、それにティーネかな。ティーネの魔力が乱れている。

 ああ、ずいぶん怒ってるみたいだね。これじゃ僕でもティファを庇うことができない。


 さて、お城の中は……この魔力はソラティスか。ずいぶん急いでるみたいだ。作戦は成功した。急いで転移しないと

 僕は空間魔法を使いお城にあるとある部屋へと転移した。


 転移してきた部屋には、綺麗に手入れされた刃先が少しばかり長い金と銀の槍が一本ずつ壁に飾られている。この人も相変わらずだね。

 僕は弱弱しい魔力を感じる方へ眼を向けた。


 そこには大きなベッドがあり、ところどころに白髪が混じった髪、剃っていないのか雑に生えた髭、不健康な白い肌の男が寝ていた。

 男には国民たちとは違い何重にも呪いがかけられている。

 まずいね。すぐに解呪しないと命にかかわる。それにこれは……

 僕が解呪しようとしたその時、男がそっと静かに瞼を上げた。



「こんにちは、久しぶりですね。ブラド王」

「……知っている…者だと思ったら……お前…だったか……セイ」


 ブラド王はかすれる声で弱弱しくそう言った。

 

「これでも魔力を隠してたんですけど」

「ふ……阿呆…まだまだ我は……元気だ…ゴホッゴホッ」


 ブラド王は不敵に笑いながらゆっくりと起き上がると咳きこんだ。

 

「無理したらだめですよ」

「は!このくらい」

「いつからです」

「……はぁ、お前に隠し…はぁ、ごとはできないか」


 やっと答えてくれるみたいだ。

 

「気づいたのは……一年前だ……こんな…病くらい…すぐに治る…と思ったが治らんでな……そしてこの様だ」


 ブラド王は嘲笑した。

 僕の思った通りか。ブラド王は病を抱えていた。それもかなりひどい。もう内臓やら筋肉、一部分だが皮膚まで蝕まれている。常人ならもうとっくに死んでいるだろう。

 ティーネに言えば治してもらえるだろ。なんで伝えないんだ…まさか……

 

「だが……お前……が来た…どうだ………もはや問題…あるまい」


 僕の目を見てそう言った。

 うわぁ、この人も本当に変わらないな。この状況すら利用するなんてやっぱりこの人は苦手だ。

 

「はぁ、治しますよ」

「ふ……当然だな」

「分かっているんですか。自分が呪われているあげく病まで抱えて弱ってるって」

「……分かっとる」


 この人は自分の状態、本当に理解してるのかな。

 

「このことを知っているのは」

「我と…一部の臣下……たちだ」

「ティーネとガレンには」


 ガレンとはティーネの兄でこの国の王太子だ。この城に今はいない、魔力を感じられない。

 

「………」


 ブラド王は黙って顔をそむけた。

 うん。予想通りだった。この人ティーネとガレンに怒られるのが怖くて黙ってたな。

 

「治しますけど二人には言いますからね」

「そ、それはやめてくれ」

「なら治しません」

「うぐ……分かった」


 これくらいしないとね。さて早く解呪しようか

 その時だった。外から少量ながらも殺気のこもった魔力を感じ取ることができた。

 この魔力は、ソラティスのか。ずいぶん怒ってるみたいだな。

 

「これは……」

「ソラティスの魔力だと思います。ちょうどいいので今のうちに解呪しましょうか」

「……お前のその感覚も……相変わらずだな」

「?」


 ブラド王は少し呆れた様子でそう言った。

 何が相変わらずか分からなかったけど、何でもいいや。そんなことよりまずは解呪だ。

 僕は国中に設置していた魔法を慎重に発動させていく。タイミングを間違えればいくらソラティスが怒っているとはいえこちらに気づかれてしまう。

 全ての魔法が一斉に発動する。

 

「ディスペル」


 その瞬間、国中を僕の魔法が包み込んだ。国民たちの呪いが一気に解けていく。ブラド王にかかっていた何重もの呪いも簡単に解ける。

 

「パーフェクトヒール」


 ブラド王の願い通り病も完治させる。

 

「これでいいと思いますよ」

「おお、体が軽くなったぞ」


 ブラド王は回復した瞬間ベッドから飛び起き体を動かし始めた。

 

「いきなり動かないでください。完治したとはいえ呪いの反動は残っていますよ」

「そんなこと関係あるまい!今すぐにソラティスの首を取ってくれるわ!」


 ブラド王は意気揚々と壁に掛けられてある二本の槍を持ち寝間着姿でソラティスの下へと向かおうとする。

 はぁ仕方ないか

 

「アイスバインド」


 僕はブラド王の足を凍らせた。

 

「な⁉何をするのだ」

「何をするって、完治したばかりなのに動く方がおかしいでしょ」

「我は今すぐソラティスを殺してやらんと気が済まん!」

「あなたは休んどいてください。ソラティスは僕たちで何とかしときますから」

「え~い、そんなこと知らん!何が何でも行ってやる!」


 嘘だろ⁉拘束が解けかけている。魔力も感じないし唯の力技か。病み上がりなのにどうなっているんだこの人、こうなったら

 

「先に謝っておきますね」

「どういうこ——」

「アイスバインド」


 僕はブラド王が喋り終える前に魔法で氷漬けにした。

 これでブラド王は休んでくれるかな。ほぼ強制だけど…

 さてそろそろ弟子を安心させに行かないと

 僕は、転移した。


 転移した目の前には黒髪の少女が泣きそうな表情をしながら立っていた。

 彼女の呪いも解けている。よかった

 

「ティーネ、もう大丈夫だよ」

「……師匠」


 安心させるためそう言うと彼女の瞳から涙がこぼれた。頑張った弟子は褒めてあげないと

 

「一人でよく頑張ったねティーネ」


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