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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第三章 呪われた王国と吸血鬼の弟子
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第五十六話 黒魔たる所以

・フェンティーネ視点



 私は、昨日から自室にこもって作業をしていた。

 というよりは作業に集中出来ず、ずっと考えていた。本当に師匠たちと敵対するのか、もっと別な方法はなかったのか、私がもっとちゃんと注意していれば……


 後悔しても仕方ない。今やれることをやらないと、師匠たちにあの地図渡ったかな。私の予想だと師匠たちならあのお店で地図を手に入れると思うから置いてきたけど、ちょっと心配だな。

 たぶん行動を起こすとしたら今日かな。そのためには

 私は、魔力を探った。


 あの屑は……ちっ、お父様のところにずっと張り付いてる。

 ソラティスは私が戻ってきてからずっとお父様の部屋に入り浸って私が勝手にお父様の呪いを解呪しないように見張っている。

 このままじゃもし師匠が来ても解呪できない。今の師匠じゃ……


 私が何とかしないと

 そんな時、外からなじみのある魔力を感じ取った。

 この魔力はティファにリーゼ?だけど、え?


 二人はずかずかと王城へと足を踏み入れる。ちょっと待って、無防備すぎじゃない?

 『深弓』の魔力も<神剣>の魔力も感じ取ることができない。

 というかなんでリーゼまでいるの⁉あの子まだ成長途中でしょ、まさか師匠が連れてきたの?

 そんな考えを巡らせているとソラティスが動いたことに気が付いた。

 扉が勢いよく開かれる。


「『妖精姫』が侵入してきました。すぐに迎撃を」


 慌てた様子でソラティスが部屋に入ってきた。ああ、今すぐも消したい


「……はぁ、屑、お前も手伝え」

「な⁉あなたは自分の立場を分かっているのですか」

「私はいつでもあんたを燃やせるんだよ。この意味わかるよね」


 私は魔力を屑へと放った。すると屑は表情をひきつらせ大量の冷や汗を流した。

 こいつ本当に『魔王軍』の幹部なの?こんな弱いやつが幹部とか『魔王軍』って数だけの烏合の衆なんじゃ

 そんな思考を巡らせながら私はリーゼたちの魔力を感じるところへと渋々向かう。

 リーゼたちのいる場所はお城の中央にある広い庭だ。この場所には、特に何もなく芝生のみが生えている。

 ティファを先頭に二人が暢気に歩いてきた。


「こんな無防備な状態で入っても大丈夫なんですか。一応ここ敵陣地ですよ」

「大丈夫よ。どうせ雑魚しかいないんだから」


 リーゼは腰に提げている剣の柄を掴んで警戒してる。リーゼは、きちんとしてるなぁ。それに比べ……


 私は、リーゼの前を歩いているティファへと視線を移した。

 なんなのあれ、隙が無いのは認めるけど、ここまで無防備な状態で歩く普通?それにあの発言。雑魚って、何雑魚って、確かにここに居る奴らは全員雑魚かもしれないけど、その言い方だと私も含まれてるよね絶対

 助けようとしてるのは分かるけど流石にあのいい方はむかつく。これが終わったら絶対文句を言ってやる。

 

「さて、ここまで来たらもういいかしら」


 む、ティファがマジックバックに手を入れた。この魔力は『深弓』かな

 

「ほら出てきなさいティーネ、うまく魔力を隠したつもりかもしれないけどバレバレよ」


 やっぱりだめか。

 私は感情を殺してティファたちの前へと姿を現した。

 

「よく気づいたね」

「あんたそれでもセイの弟子なの?魔力制御、私よりもできてないわよ」


 ティファが挑発してくる。いつもの私なら挑発されたくらいじゃ何とも思わないけど今回ばかりは少しむかつく。認めたくはないけど事実を言っているだけにさらに私をむかつかせる。

 私はティファに比べて魔力制御が少し、ほんと~うにすこ~~~しだけ甘い。

 

「まあいいわ。ソラティスを出しなさい」

「ソラティスって誰?」

「あくまで白を切るつもりね。まあいいわ。なら無理やり出てきてもらうだけだから」


 私はティファの『深弓』を警戒してすぐに魔力を高めるけど、ティファは『深弓』を構えない。

 

「それじゃあ、リーゼ、援護はするから好きに戦いなさい」

「え⁉私ですか」

「そうよ。何のために連れてきたと思ってるの。私が得意なのは複数の敵と戦うこと、一対一なんて無理だわ。特に魔法使いとなんて戦いたくもない」

「そうだったんですか」


 思ってもないことをすらすらと、悔しいけど私と一対一で戦えばティファの圧勝でしょ。

 リーゼが腰の剣を抜き構えた。

 この二人を相手にするのは流石にきつい。私は本気じゃないとこっちがやられちゃう。

 

「舐めてると、そっちが死んじゃうよ」


 私は少しだけ脅すけど二人は全く怯得ない。ティファは予想通りだけどリーゼまで平然としてるなんて二人は一体リーゼに何をさせてるの。

 

「さて、リーゼ、ティーネに実力を見せてやりなさい」

「分かりました」

「はぁ、あのさ、まだリーゼは成長途中の勇者でしょ。一人で突っ込ませるなん⁉」


 リーゼは私の予想を超え遥かに速かった。

 これが本当に成長途中の勇者の実力なの⁉手加減とか言ってる場合じゃないんだけど

 私は咄嗟に後ろに下がったけど、リーゼの剣が頬をかすめた。

 

「く、全てを凍らせしものよ・その者たちを捕らえよ・アイスバインド」

「無駄よ」


 リーゼの足を氷漬けにしようとするとティファが放った魔力の矢の妨害で魔法が防がれる。

 リーゼの動きを止めようにも攻撃魔法を使わないと絶対に止められない。仕方ない。

 

「死んでも恨まないでよ。我太陽のごとき輝きを持つものなり・故に汝を照らす炎を放たん・サンフレア」


 私は複数の炎をリーゼへと放った。

 

「乱矢」


 ティファが軽く放った矢が無数に別れ私が展開した炎を貫いていく。

 

(何をしてるんですか!早く殺してください!)


 私の脳内に屑のうるさい声が響いた。殺せるならとっくに殺してるよ!

 改めて戦ってみて実感したことがある。


 ————ティファは強い。


 リーゼもそうだけどやっぱりティファの実力は別格だ。

 昔からそうだった。どんなに努力しても才能という壁には勝てない。ティファは才能の塊だった。弓を持たせればすべての的に百発百中、魔法を使わせれば魔法使いでもないのに簡単に成功させる。


 それに比べて私はどうだ?『黒魔』としてダイヤランク冒険者になれたけど決して特別じゃない。私は運が良かっただけの魔法使い、師匠に魔法を教えてもらってなかったら私はただの魔法使いだった。

 努力しても努力しても天才には敵わない。英雄になることはできない。

 だけど私は、師匠みたいになりたくて努力した。最強の魔法使いになるために、だから私はこの魔法をこの禁忌魔法を覚えた。

 この二人に使うのは気が引けるけどお父さんたちの命には代えられない。

 

「我はこの世界を憎むものなり」


 私が使う禁忌魔法は冥獄魔法

 

「全てを無にする魔を欲するものなり」


 冥獄魔法は元々悪魔が使った魔法だった。それを人間が使えるように改良したのが冥獄魔法

 私が『黒魔』って呼ばれるようになったのは髪の色が黒いからじゃない、この魔法こそ私が『黒魔』と呼ばれるようになった所以


 リーゼは、私から放たれる魔力を感じ取ってティファのいるところまで距離を取った。それでいい

 

「この世界を飲み込む黒とならん」


 ティファはこの魔法が何なのか感付いたみたいで余裕そうな表情だったのが少し崩れた。

 ごめんね、二人とも

 

「黒無」


 全てを飲み込む黒き悪夢がこの世に解き放たれた。


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