第五十四話 ちょっとしたトラブル
セイたちはナフト王国の王都近くの街道へと転移してきた。
セイが異次元の扉から魔道具を出そうとしている最中ずっとリーゼは落ち着きがなかった。
「ずいぶんそわそわしてるね」
「まあ仕方ないんじゃない」
エンネシアのいる空間から出る前、エンネシアがリーゼに許してもらうためにある物を渡した。それを気に入ったリーゼはあっさりエンネシアを許し、それからずっとそわそわしているのだ。
「これだね。はい」
「それでどうやって王都に入るつもりなの」
ティファは腕輪を身に着けた。
「入るにも身分証が必要よ。私が持ってるものを見せれば入れるけど私だってばれるから元も子もなくなるわよ」
「そこは考えてるから安心して、リーゼもこれをつけて」
「私もですか?」
「そうだよ」
セイはリーゼにティファに渡したのと同じ魔道具を渡した。
リーゼは特段、魔力量が多いわけでもないためつける意味はないと感じられるがこれにはちゃんと意味があるのだ。
「ティーネは一度会った人の魔力は忘れないのよ」
フェンティーネはリーゼの魔力を覚えているためたとえ魔力が多くなくとも王都に入れば容易に気づかれてしまう。
「すごいですね」
「元々あの子にはそれだけの才能があったからね」
リーゼは感心する。
「さてそろそろ行こうか」
リーゼが腕輪をつけるとセイたちは街道を歩いて王都へと向かった。街道は王都へと近づくにつれ人が多くなっていく。
「ずいぶんにぎわってるわね」
「たぶん自分たちが呪われてるって気づいてないんだよ」
「ちっ、つくづく気にくわないわ」
ティファは怒りをあらわにした。
街道を行きかう人々は皆活気にあふれていた。誰も自分が呪われているなどみじんも思っていない。
リーゼはティファとは違う観点で人々を見ていた。
「今ここにいる人たちって吸血鬼なんですよね」
「そうだよ」
「勝手ですけど吸血鬼って夜に活発に動いて、昼間は寝ているものだと思ってました」
「いつの時代の吸血鬼よ」
ティファからの突込みが入る。
リーゼの吸血鬼へのイメージは、昼間は棺桶の中に入り寝ており夜になると暗い部屋から黒いマントを羽織り出てきて牙をたてて血を飲むものだと思っていた。
「リーゼの思っている吸血鬼は2000年以上前の吸血鬼だよ。今は、そんな生活をしている吸血鬼はいないし、実際ティーネは違かったでしょ」
「確かに」
フェンティーネは朝早く起きて夜もリーゼたちと同じ時刻に寝ていた。それに加え黒いマントは着けていないし血を飲んでいる所も見たことがない。
「じゃあ、吸血鬼は自由人なんですね」
「それもちょっと違うと思うよ」
「?」
リーゼの吸血鬼=フェンティーネという思考にセイは苦笑いをしてしまう。
「ほら馬鹿なこと言ってないで早く行くわよ」
ティファにそくされ二人は急いで足を進める。
しばらく歩くと王都に入るための関所へと辿り着いた。関所には行列ができておりセイたちはその最後尾へと並んだ。
「どのくらいかかるのかしら」
「たぶん1時間くらいじゃないかな」
「はぁ退屈ね。そうだセイ、相手に気づかれないで転移が使える魔道具を今から作ってよ」
「無茶言わないでくれよ」
ティファの無茶なお願いにセイは呆れてしまう。
いくらセイとはいえ、そこまででたらめな性能の魔道具は作ることはできない。そんなもの作れたのなら今頃もう王都へと入っている。
「仕方ないわね」
「なんで君がそんなに偉そうにしてるんだい」
ティファはやれやれといった感じで納得した。
それからしばらくするとセイたちの順番が回ってきた。関所には、鉄の防具で身を包み鉄の槍を持った兵士たちが複数人立っていた。
「通行証もしくは身分証を出せ」
「これでいいかい」
セイはギルドカードを兵士へと提示した。
「金ランク冒険者でしたか、どうぞ通ってください」
「ありがとうね」
兵士は驚いた様子でギルドカードを返した。
金ランク冒険者ともなればギルドカードが身分証代わりとなる。そのためこのように各国の関所などで見せれば特に詳細を聞かれることなく入国することができるのだ。それだけ冒険者ギルドは各国から信頼されているというわけだ。
セイたちは関所を抜け王都の中へと入った。
「うわぁ、すごいです」
リーゼは初めて来たナフト王国の王都の街並みに興味津々だった。
ナフト王国の王都はベイルダル王国の王都とは違い黒を基調とした古い建物が多く、人の量もこちらの方が少ない。
「へぇ、あまり変わってないね」
「長命種は皆そんなものよ」
人間は、寿命が短く人の入れ替わりも激しい、その分人が生まれる度にその人たちが新しいものを求めどんどん文明を発展させていくが吸血鬼やエルフといった長命種は変化を好まないため、昔から同じ物を大切に使っているのだ。
「それじゃあ、宿屋を探そうか」
「宿屋?今からお城に乗り込むんじゃないんですか。というか早く行きましょう」
リーゼはやる気満々で剣の柄を持ちお城へと乗り込もうとする。早くエンネシアからもらったものを使いたくて使いたくて仕方ないのだ。
「あのね、そんな一日で対処できるならこそこそ行動しないわよ」
「そうだね。早く使いたいのは分かるけどまだ使うタイミングじゃないから我慢してね」
「むぅ~」
リーゼが珍しく不満そうにしている。それだけあれを使うのが楽しみなのだ。
「明日には使えるからそんなに拗ねないの」
「…分かりました」
「それじゃあ探そうか」
リーゼが渋々納得するとセイたちは宿屋を探しに王都を歩き回った。しかしどこも満室で利用することができない。最後の望みをかけ残り一つの宿屋へと入った。
「すいません。部屋空いてますか」
「空いてますよ」
「やった」
やっと泊まれるところを見つけ喜んでいるのも束の間
「二部屋お願いできますか」
「申し訳ございません。ただいま一部屋しか空いてなくて」
なんと一部屋しか空いてなかったのだ。男一人に女子二人というのは色々と問題がある。セイは二人の方を見た。
「私は別に一緒で構わないわよ」
「えっと、私も構いません」
「それじゃあ、その部屋でお願いします」
「それでは銀貨二枚になります」
セイはお金を払い部屋の鍵を受け取った。部屋は二階にあるため階段を上っていく。
「銀貨二枚だなんてずいぶん安いわね」
ティファの言う通り一部屋とはいえ王都にある宿にしては格安だ。高いところだと一部屋一泊金貨数十枚するところもあるのだ。
「ここかな」
セイが木の扉を開けると何故一部屋銀貨二枚という安さなのか理解できた。
部屋の中に入るとそこには木でできたベッドが一つと小さなテーブルといすが置かれているだけだった。つまるところこの部屋は一人部屋だったのだ。
「ベッドは二人で使いなよ。僕はこの椅子に座って寝るからさ」
「その椅子でちゃんと寝れるんですか?」
部屋にある椅子は背もたれが低く、クッションもない。そのため眠るのに適していない。
「野宿とかよくしてたから大丈夫だと思うよ」
「待ちなさい。それだとちゃんと疲れがとれないでしょ」
「そうだけど、どうしようもないでしょ」
セイは椅子で寝る以外の方法を思いつかない。
「そ、それなら、私たちと一緒にベッドで寝ればいいわ」
ティファから飛び出たとんでも発現にリーゼの思考が停止した。
「無理する必要はないよ」
「無理なんかしてないわ。ねぇリーゼ」
「え⁉え⁉あわわ」
急に振られ、理解が追いついたリーゼは慌てふためく。ティファもリーゼの慌てぶりからだんだん自分の発言が恥ずかしくなってしまいセイから顔をそむけた。
「や、やっぱりこの話は後にしましょ……」
「そうしようか」
ティファの羞恥心が最高に達しこの話は保留となった。




