第五十二話 真実の記憶
・フェンティーネ視点
私たちの祖国、ナフト王国は主に吸血鬼たちが暮らす国。昔は地下にあったそうだが今は地上に都市を築いてそこから地上に暮らし始めた。これが今から二千年前に起きたことらしい。
私は転移で王城にある自分の部屋へと戻ってきていた。
「はぁ、はぁ、師匠と戦うのがこんなに辛いだなんて」
精神的にも魔力的にも私は疲れていた。
やっぱり師匠は強かった。私も少しためらってた部分もあったけど、空間魔法、炎魔法、色々な魔法を使ったのに全く歯が立たなかった。あの罠も魔力を隠してたのに気づかれるなんて師匠の魔力感知能力はどうなってるの。それに私の転移する場所まで事前に把握してたみたいだし、師匠を殺すなんて無茶すぎるでしょ。
でも早くしないと皆が……
「はぁ、愚痴を考えても仕方ない」
私は自分の部屋から出るとあいつの待つ部屋へと向かった。
扉を開けるとそこには、細身の陰気な男が立っていた。
「おや、お早いお帰りでしたね」
「作戦は失敗、師匠を殺すなんて無理、正直言って勝ち筋が見えない」
「お忘れですか、あなたにこれは断ることはできないんですよ」
男は醜悪な笑みを浮かべる。
ああ、この顔むかつく。今すぐ燃やし尽くしてやりたい
「まさかまだ殺してないわよね」
「っ⁉」
私が魔力を放つと男は顔をしかめ額から冷や汗を流した。
「え、ええ、そこはご安心をあなたが約束さえ守れば全員無事に解放しますよ」
「……」
私が魔力を抑えると男は表情を戻した。こんな格下にいいように操られるなんて師匠の弟子失格だよ。
「多分師匠たちはここに乗り込んでくると思うから準備しとくよ。約束は守ってよ。じゃないと、あなたを消すから」
消すからという部分を私は語気を強めて言った。
「うぐ、ええ分かってます」
私は男を脅し自室に戻った。
なんで私がこんな男に従ってるかというと一週間前にさかのぼる。
私はいつも通り『黒魔』として冒険者活動をしていた。
「今日もたいしたことなかったな」
最近はあまり強い魔物も出てこなくなって、依頼がつまらない。強力な魔法を色々試したいのに皆弱いから、素材が耐えられないんだよね。はぁ、強くなったのはいいけどこんな弊害があったなんて師匠は苦労してたんだろうな。
師匠今頃何してるんだろうな。
「考えても仕方ない。早くしまってもーどろ」
私は、討伐した魔物たちを異次元の扉へとしまった。
この魔法は師匠が円環魔法を使う前に残してくれた手紙に書かれていた魔法を応用したもの、覚えるのに一か月もかかっちゃったけど使えるようになると結構汎用性がいいんだよね。
私は冒険者ギルドへと転移した。
「うわ!『黒魔』様、何度も言っていますが受付の前に転移しないでください」
「あはは、ごめんね。こっちの方が速いからさ」
受付にいる獣人の女の子が驚いた表情をする。毎回言われるんだけどこの子の驚いた顔が面白くてついここに転移しちゃうんだよね。
「今日はどのくらい狩られたんですか」
「ざっと30体くらいかな。特に強い魔物はいなかったよ」
「いつもいつも、ダイヤランク冒険者様にこのような依頼をやらせてしまってすいません」
「いいよいいよ。私は好きでやってるんだから」
「そう言っていただけると助かります」
女の子は私に一礼した。
私が受けている依頼はここ獣連邦レインティーラにある支部から出される危険な魔物や大量発生した魔物の間引きだ。
獣連邦レインティーラは主に獣人が暮らす国。温泉街がとても有名で私もたまに入りに行く。
「じゃあいつもの場所に出しとくから報酬はまた来た時にもらうよ」
「分かりました」
私はギルドにある訓練場へと向かいそこへ討伐した魔物を出す。報酬は今度来た時にもらおう。私はそれを伝えるとナフト王国へと転移した。
「う~ん、今日も疲れたな」
私は、少し伸びをすると王都にある商店街を歩き始める。
「おう、王女様じゃねえか今日も魔法の練習か」
「フェンティーネ様、家で今日仕入れた新鮮な野菜いりませんか」
「それならうちの肉も持っててくれ」
商店街を歩いていると皆が私に声をかけてくる。こういってはなんだけど皆私のことを好いてくれてる。いつもここを通ると私の周りに人だかりができてしまう。
「うんそうだよ。あ、その人参イイね。おじさん、狼肉ちょっとちょうだい」
私は話しかけてくれたみんなに言葉を返していく。私にとってこの時間は一つの癒しみたいなものなんだ。
商店街のみんなと話してると優しそうな雰囲気の男と杖を突いてるお婆ちゃんが私に近づいてきた。
「王女様、どうか母の体調を見てもらえませんか」
「それくらい構わないよ」
「ありがとうございます」
男が頭を下げて感謝した。
私はお婆ちゃんの事を診た。う~んおかしいところはないな。
「どういう感じで悪いの」
「最近、よく疲れるんです」
「疲れるね。お婆ちゃん今いくつ」
「今年で834歳です」
老化で体力が落ちたのかと思ったけど違うか。私たち吸血鬼は大体900歳を超えないと老いはこない。
なんでだろう。後考えられるのは病気くらいだけどそんなすぐに症状が出てくる病気は知らない。
「お婆ちゃん、とりあえず回復魔法だけかけとくから。ちょっと私じゃ分からないから王城に戻って調べてくるよ」
「ありがとうございます」
「ううん、今治してあげられなくてごめんね」
私はお婆ちゃんに回復魔法をかけて王城へと転移した。
早く書庫に行って調べないと
そう思った時不穏な魔力を王城の中から感じた。こんなところに入ってくるなんて死にたいのかな。
私は不穏な魔力を感じたところへ転移した。
「うぅ……」
「お父様⁉」
私がその部屋に転移にするとお父様、この国の国王ブラド・ナフトが床に倒れていた。その近くには薄気味悪い男が立っていた。
「初めましてですね。私は『魔王軍』幹部ソラティス。あなたにお願いがあり参りました。もちろん拒否権はありませんが」
私はすぐに魔力を解き放った。
「お父様にこんなことして生きて帰れるとでも思ってるの」
「っ⁉すごい魔力、だがあなたは状況を理解しているのですか」
「何を言って」
「ブラド王に呪いをかけました」
「⁉」
私はお父様のことをよく見た。
く、よりによって呪いだなんて、だけど解除できない呪いじゃない。
「おっと解除しようとしたらだめですよ。その呪いは対象を徐々に蝕む呪いじゃない」
その言葉で全てを理解する。
「あんた性格悪すぎるでしょ」
ソラティスとか言うやつがかけた呪いは条件発動型の呪いだ。これはその条件が満たされるとき発動し対象を呪うというもの。『魔王軍』っていうのも嘘じゃなさそうだね。
だけど呪いってまさか⁉
「民にも呪いをかけたの⁉」
「おや、お気づきになったのですか」
最悪だ。まさかあのお婆ちゃんが呪いにかかってたなんて。民とお父様を人質に取られたらもう何もできない。
「話を聞いていただき感謝しますよ」
「思ってもないくせに」
「いえいえ、これは本心です。臆病になってしまった『魔王』様に変わり私たちが何とかしないと」
『魔王』?まさか復活したの⁉だけど臆病になったってどういう……
「おっと話しすぎましたね。それでお願いというのはですね。『魔道王』セイを殺してほしいのです」
「いい加減にしなよ」
自然と私からは魔力が溢れだしていた。
「師匠を殺せ?君は私がどれだけ師匠の事を想ってるか知ってて言ってるの」
「がぁ、私に、危害を加えれば、呪いが発、動しますよ」
「……」
今すぐここでこの屑を殺したい衝動を抑えた。
「……師匠を殺すにしても師匠はこの時代にはいない」
「はぁはぁ、『魔道王』はこの時代に現れました」
「⁉」
師匠がこの時代にいる。300年か、長かったな。やっと、やっと師匠に会うことができる。
だけど今の私にはそんな風に純粋に喜ぶことができない。
「殺せたら全員呪いから解放しましょう。それと念のためあなたにも呪いをかけさせていただきます」
「……分かった」
不本意だけどこいつの指示に従わないと
こうして私はこの男に従うしかなくなった。




