第五十一話 呪われし王国
セイたちは大聖堂へとやってきていた。
「うわぁ、すごいですね」
「『勇者』様にそう言っていただけるとは光栄です」
現在セイたちは神父に大聖堂を案内してもらっていた。何故こうなっているかというと神父にリーゼが『勇者』だと伝えたら、ぜひこの大聖堂を案内させてほしいと言われこうしてかれこれ30分近く大聖堂を案内してもらっている。
やがてすべての場所の紹介を終えると祭壇の前へと来た
「それでは私はこれで失礼したいと思います」
「ありがとうございました」
神父は一礼すると大聖堂から出ていった。
「ふわぁ、別にああいうのは律義に聞かなくてもいいわよ」
「せっかく教えてもらえるなら聞いた方がいいと思いますよ」
ティファは退屈そうにあくびをしている。見慣れたものを見てもつまらない。
「それじゃあ行こうか」
「あ、その前にリーゼ創造神エンネシアのイメージってどんな感じ」
これは重要な質問だ。今から会う女神さまはエンネシア教で教えられているような女神さまではない。そのイメージで会いに行けば幻滅しかなりのショックを受けてしまうことになるだろう。
「えっとこう言っては何ですけどこの前声を聴いた時にはダメそうな女神さまだと思いました」
リーゼの女神像はエンネシアが会話に入りたくて干渉してきた時からがらりと変わった。それまではエンネシア教の教え通りとても優しく、聡明だと思っていたが、声を聴く限りは聡明ではないなと思ってしまった。
「今リーゼが思ってるより10倍はひどいと思うわ」
「覚悟しといて損はないかもね」
二人の言いようにリーゼは息をのんだ。
「そんなにひどいんですか」
「ひどいときは本当にひどいわ」
ティファは頭を抱える。
これ以上聞くのはちょっと怖くなってしまったのでリーゼはどれだけひどいか想像することにした。
「エンネも流石にこの状況でひどくはなってないから大丈夫だと思うよ」
「それもそうね。それじゃあ私に掴まって」
セイとリーゼはティファに掴まった。
「我神の信徒なり・我神に忠誠を誓いし使徒なり・故に道を開かん・ロードサイン」
セイたちを白い光が包み込んだ。
セイたちが目を開けるとそこには白い空間が広がりいつも通り物が散乱しているかと思いきや、いつも以上にひどかった。
「……一番ひどいときにきたんじゃないかしら」
「だね」
セイとティファの予想が外れた。
前に来た時とは違い広がっているのは本などではなく空になった瓶だった。しかもよく見ると全てワインの瓶だ。アルコールの匂いが薄いがセイたちの鼻腔を刺激する。
「ここがエンネシア様のいる場所?」
リーゼはたとえダメな女神さまでもこんな汚いところにはいないだろうと考えていると奥にあった布の山がむくりと動いた。リーゼは咄嗟にセイの後ろへと身を隠した。
「あ、あの布が女神様なんですか」
「はぁ、エンネ来たよ」
セイがそう言うと奥にある布の山がばっと舞い上がった。中には人影が見える。リーゼはビクッと驚きローブを掴む手の力が自然と強まる。
「セイく~ん」
人影の正体はセイへと飛び込もうとする金髪の女性
「リーゼちょっとごめんよ」
「え、ひゃ⁉」
セイはリーゼを抱きかかえると女性の飛び込みを避けた。そのまま女性は床へと顔面をぶつけた。
「うぐ、うぅぅ、避けるなんてひどいよ」
「あのね、いきなり飛び込んで来たら避けるのは当たり前だろエンネ」
床に顔を打ち付けて涙目になりながら立ち上がったのはこの世界を創りし創造神エンネシアだ。
セイはリーゼを下す。おろされた少女はというと顔を真っ赤にさせていた。
(セイにお姫様抱っこされちゃった)
心の中は慌ただしく嬉しさと恥ずかしさが交互していた。
「というか、いったいどれだけのお酒を飲んだんだい」
魔性の美貌を持つ女性からはお酒の匂いがプンプンする。
「確かに少しお酒臭いわね」
「ティファちゃんまで、私をいじめてそんなに楽しい?」
「人聞きの悪い言い方をしないでそれよりもちゃんとした服に着替えなさいよ」
「え~、服着てるだけましだと思うけど」
「それのどこが服っていうのよ」
エンネシアが来ていたのは服というよりただの布だった。少しでもずれてしまえば見えてしまうのではないかというくらいきわどい。
「セイ君はこっちの方がいいよね~」
「僕はどっちでもいいよ」
「もう、つれないな~」
エンネシアは少し頬を膨らませると白を基調とした幻想的なドレス姿へと変わった。
「えへへ~、セイ君だ」
懲りずにエンネシアはセイへと抱き着いた。
「離れてくれないかな」
「やだ~」
「まさか魔法をかけずに飲んだのかい」
「え~よくわかんな~い」
いつも通りセイにべたべたしているように見えるが今日はやけにくっついている面積が多い。よく見るとエンネシアの頬は少し赤みを帯びている。
(酔ってるね)
セイはすぐにエンネシアへと魔法をかけアルコールを飛ばした。しかしエンネシアは未だに抱き着いている。
「酔いがさめたなら離れてくれないかな」
「結婚してくれるなら離れてあげる」
エンネシアはにやにやしていた。女神さまは、セイにくっついて楽しんでいらっしゃる。
「はぁ、ふ」
「痛⁉」
今はそんなことにも付き合ってる暇はないためセイはデコピンをした。エンネシアは額を抑えうずくまる。結構強めに弾いたためエンネシアの綺麗な額が赤くなる。
「ふざけてないで今日は真面目な話をしに来たんだよ」
「え!やっと結婚してくれるの」
「ダメだ、話が進まない」
さっきまで痛がっていたのにパァと表情を明るくし自分の願望を言う。この楽観思考にはセイも呆れ果ててしまう。
「ふふ、冗談よ。ちゃんとセイ君が私のことを好きになったときにするわ」
「まあいいよ。それで話っていうのは」
「あ、リーゼちゃんも来てくれたんだ」
「話を聞いてくれよ」
エンネシアはセイの話を聞かずにリーゼの目の前へと立った。
「面と向かって会うのは初めてだよね。私がエンネシアだよ。よろしくねリーゼちゃん」
「……」
「あれ?どうしたのかな」
リーゼは喋りもせず硬直してしまう。
「誰だって初めてあなたを見たらそうなるでしょ」
ティファもまたエンネシアを初めて見た時リーゼのように硬直してしまった。その時はエンネシアの美貌に見惚れていたわけではなくその態度に幻滅していたのだが…
「そっか、私って綺麗だもんね」
「その自信はどこから出てくるのかしら」
ティファは自画自賛するエンネシアに呆れてしまう。
エンネシアの美貌は誰が見てもすぐに虜にされてしまうものだ。だがリーゼは虜になったわけではない。
「そろそろ僕の話を聞いてくれないかな」
「ああ、ごめんね。それで何の話?」
一方的だがリーゼとの挨拶を終えたエンネシアがセイの話に耳を傾けた。
「ナフト王国の現状を知りたい」
「ナフト王国?ティーネちゃんがいる国だよね。何かあったの」
どうやらエンネシアもナフト王国で何が起きているのか知らないらしい。
セイはエンネシアに今日起きたことを全て伝えた。セイの話はエンネシアにとって衝撃的だった。エンネシアもフェンティーネがセイのことをどれだけ慕っているか知っているためどうしてそんなことになったのか不思議でならなかった。
「ティーネちゃんがセイ君を殺そうとするなんておかしい」
「だからナフト王国の現状を教えてほしいんだ」
「分かったわ」
エンネシアはナフト王国の現状を見る。
しばらくすると信じられないといった様子で表情を強ばらせた。
「……嘘でしょ」
「何が分かったんだい」
「国民全員が呪われてる。それにブラド君まで強力な呪いがかけられてる」
エンネシア口から発せられたのはナフト王国が呪われ『十英雄』の一人であるブラド王までもが呪いにかけられているという衝撃的な事実だった。




