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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第三章 呪われた王国と吸血鬼の弟子
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第五十話 裏切りの魔法使い

 セイの家にあるフェンティーネの部屋

 時刻はもう午後10時を過ぎておりセイたちはもう自分の部屋で眠りについていた。そんな中フェンティーネはベッドの上でセイに買ってもらった白金のブレスレッドを眺めていた。

 

「心に従う、か」


 あの時の質問の答えを思い出していた。

 白金のブレスレッドに映る自分の目はどこか遠くを眺めているようだった。しかし段々と全てが定まり決意に満ちた瞳へと変わる。

 

「師匠、ごめんなさい」


 フェンティーネはブレスレッドを空間魔法でしまい眠りにつくのだった。自分の瞳にまだ暗がりが残っているとは気づかずに……


~~~~


 セイたちは朝から誰もいないとある峡谷へときていた。

 

「こんな所で練習したいだなんて何を考えてるの」

「本当に何もないですね」


 リーゼの言う通りこの峡谷には本当に何もなかった。周りを見渡しても茶色で代り映えの無い景色が広がっている。雑草一本すら生えていない不毛の大地だった。

 そんな深い谷の底を四人は歩いていた。

 

「ちょっとティーネそろそろ教えてくれたっていいんじゃない」

「……」


 フェンティーネは答えようともせず歩いていく。

 三人は、フェンティーネに魔法の練習をしたいからついてきてほしいと言われて来たのがここだった。だがこの峡谷に来てからフェンティーネは喋らずこうして黙々と歩いている。

 

「セイ、何か聞いてないんですか」

「僕にもさっぱりだよ」


 谷のちょうど中間地点へと来た時にフェンティーネの足が止まりセイたちの方へ振り向いた。その無表情だがセイにはその瞳からは少しの悲しみが感じられた。

 

「師匠」

「どうしたんだい」

「師匠は心に従えって言いましたよね」

「そうだね」

「それじゃあ……死んでください」


 唐突に言い渡された死の宣告と同時にセイたちの足元から鎖が現れた。

 

「⁉」


 セイはそれを横へ飛び躱すことができたがリーゼとティファは鎖の捕らわれてしまった。

 

「やっぱり師匠は気づいてましたか」

「ちょっとティーネどういうことよ!」

「言葉のまんまだよ。師匠を殺そうと思っただけ」


 フェンティーネは冷ややかに言った。

 ティファは無理やり鎖を解こうとするが一向に解ける気配が無い。

 

「無駄だよ。その鎖はティファを縛るためだけに作った魔法だからどんなに力を加えようとも解けないよ」


 この鎖はフェンティーネが事前に仕掛けていた魔法だ。

 ティファにかけた魔法は対ドラゴン用に開発した拘束魔法をティファに悟られないよう隠密性と拘束力を強めた魔法。フェンティーネの計算では少なくとも十分は持つと考えている。

 その間にセイを仕留める。そう言う作戦だ。

 

「計画通りってわけね」


 ティファは苦虫をかみつぶしたような表情になる。鎖に縛られ腰につけているマジックバックに触れることができないため『深弓』を出すことができない。

 

「そういうこと、流石に師匠とティファを相手するのは厳しいからね。リーゼはついでかな」

「私、だって」

「今のリーゼじゃその鎖は絶対に解けないよ」


 リーゼを縛り付けている鎖も突然リーゼの持つ勇者の力が覚醒しようとも大丈夫なよう念のため強固なものにしている。

 

「何があったのか説明はしてくれないのかい」

「ただ殺したいと思ったから殺すだけです。それ以外に理由なんてありません」

「……そうかい、なら僕は君から本当のことを聞くだけだ」


 両者ともに魔力が溢れだした。

 

「それじゃあ死んでください。我太陽のごとき輝きを持つものなり・故に汝を照らす炎を放たん・サンフレア」


 フェンティーネが高速で詠唱しセイへ向け太陽のごとき光を放つ炎を放った。

 

「パーフェクトウォール」


 セイは自分自身をティファたちと共に結界で囲んだ。

 フェンティーネが放ったサンフレアは結界に阻まれた。しかしセイの弟子だ。ただでは終わらない。よく見るとサンフレアが当たった部分にひびがはいっていた。

 

「ずいぶんと本気だね」

「言いましたよね。師匠を殺すって」


 フェンティーネから放たれるのは凄まじい殺気、セイを本気で殺そうとしていることが伝わる。

 セイは剣を取り出すとフェンティーネの近くへと転移した。

 

「それは知ってます」


 フェンティーネもまた転移しセイとの距離を取り剣は空を切った。

 

「我太陽のごとき輝きを—」


 フェンティーネは高速で詠唱を繰り返し魔法を連続で放ち続ける。セイはというと魔法は転移のみしか使わず全て近接で何とかしようとしている。そのためすべてが後手に回ってしまいまともに攻撃することができていない。

 

「どうしてセイは魔法を使わないんですか」

「私たちがいるからよ。ティーネも随分考えたわね」


 セイが魔法を使わずに剣で戦っているのはリーゼたちがいるからだ。もし魔法を使ってしまえばこの狭い谷に当たり崩れて落ちてくる可能性がある。そうなれば鎖で動けなくなっているリーゼたちは抵抗することもできずに埋もれてしまう。

 フェンティーネはここまで考えリーゼたちを人質として捕らえたのだ。

 

「まともに師匠と戦うなんて馬鹿がすることだしね」


 リーゼたちの会話に答えたのは転移していたフェンティーネだった。

 ティファは警戒をあらわにする。

 

「安心して二人は殺したりしないからさ」

「何が目的」

「おっと早く行かないと」


 フェンティーネは答えずに転移した。

 言葉通り二人に危害が及ばないように戦っていた。魔法を放つときもリーゼたちがいない方にセイがいるときに放つようにしている。

 

「なんでこんなことをするんだい」


 転移してきたセイが聞くが答えの代わりに魔法を放ち距離を取ろうとする。

 

「もう鬼ごっこは終わりにしよう」


 セイは決着をつけにかかる。フェンティーネが転移したのと同時にセイもまた転移した。

 

「アイスバインド」


 転移した先でセイはすぐに魔法を発動させた。氷がフェンティーネの足へとまとわりつき体勢を崩し地上へと落ちる。セイはその隙を逃さず、フェンティーネを受け止めると剣を首元へと突き付けた。

 

「僕の勝ちだね。さぁ何があったのか話してもらうよ」

「く」


 セイの勝利宣言、詠唱しようものなら口を塞がれる。もはやフェンティーネに勝ち目はないと思われたが


「やっぱり無理だったか」


 それは最初からこうなることを悟っていたかのような諦めの表情


「……だけど師匠…ごめんなさい」


 突如大きな爆発音が峡谷内に響いた。セイが後ろを振り返るとちょうどリーゼたちの上にある岩が爆発していた。

 その一瞬セイが目を離した隙にフェンティーネはどこかへ転移してしまった。

 

「サンフレア」


 セイがすぐに崩れ落ちてきた岩を燃やし尽くした。

 セイが見に行くがそこにはリーゼたちの姿はなかった。

 

「痛」

「うう…」


 奥から二人の声が聞こえてきた。

 セイはすぐに二人の魔力を感じ取り生きていることを知ると奥から二人が歩いてきていた。

 

「私たちの扱い雑すぎでしょ」

「大丈夫かい」

「ええ、私たちは何ともないわ。岩が落ちる前にティーネが鎖を解いてくれたのよ」


 爆発が起きる少し前リーゼたちの拘束は解けたのと同時に風によって飛ばされたのだ。

 本当にフェンティーネは二人に危害を加えるつもりはなかったのだ。


「それでティーネは」

「目を離したすきに転移しちゃったよ」

「セイを殺そうとするなんて何を考えてるの」


 ティファからしたらセイのことを慕っていたフェンティーネがセイを殺そうとするなど考えられなかった。

 

「詳しいことは分からないけど今すぐ戻ってナフト王国の現状を知った方がいいかもしれない」

「そしたらエンネのところね」


 この世界で起きていることを知るならエンネシアの所に行くのが一番だ。

 大聖堂に行くためティファはセイの手を掴んだ。

 

「リーゼも」

「私も行っていいんですか」


 リーゼは自分の実力が足りないことくらい理解している。そのため連れて行ってもらえないものだと思っていた。

 

「当然でしょ。ほら早くしなさい」

「うん、リーゼなら信用できるしね」


 リーゼの中でティファに認めてもらえてうれしい気持ちが溢れてくる。実力はセイたちには届かないだろう。しかし今回の件で自分が戦力に入れられていることがとても嬉しい。


「はい」


 リーゼは元気よく返事をするとセイのもう片方の手にしがみついた。それを見たティファはムスッと頬を膨らませた。

 

「ちょっとセイにくっつきすぎじゃない」

「そんなことないです。そうですよねセイ」

「君の好きなようにすればいいさ」


 セイが優しく微笑むとリーゼはさらに強くしがみつく。

 

「は!まさかセイってロリ」

「断じて違うよ。ほら馬鹿なこと言ってないで転移するからね」


 変な性癖を付けられかけたセイは話を区切りすぐに転移した。


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