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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第三章 呪われた王国と吸血鬼の弟子
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第四十九話 師弟デート

 セイとフェンティーネは人の多い王都の大通りを歩いていた。周りに出ている出店にはさまざまな料理や装飾品、武器までもが売られている。

 

「師匠、どこから見ましょうか」

「ティーネの好きなところでいいよ」

「じゃあ、あそこ行きましょ」


 フェンティーネはセイと二人きりなのが嬉しくて仕方ないのかはしゃいでいる。こう見ると見た目通り幼い女の子といった感じだ。

 フェンティーネに連れられやってきたのは、大通りから少し外れた場所にある古本屋だった。一見するとただの民家にも見えるのだが看板が立っているため古本屋だと分かる。

 

「本屋かい」

「そうです。ちょっと見たいものがあって」


 二人は中へと入った。店内には客はおらず、いるのは店主と思われる男性のみだ。ひっそりとした店構えとは違いたくさんの本棚が並びそこに本が綺麗に敷き詰められていた。

 

「それでどんな本を探してるんだい」

「魔導書です」


 魔導書とは魔法について書かれた本の事だ。魔導書には詠唱や魔力操作についてなどその魔法について細かく書かれているため初心者でも魔導書を読めば大抵の魔法は使うことができるようになる。

 そのため高度な魔法について書かれている魔導書ほど高価で手に入りにくいのだ。だがたまにこういう古本屋などで埋もれていることがある。フェンティーネはそれを求めてここへセイと一緒にやってきたのだ。


「ティーネはまだ魔法を覚えるつもりかい」

「はい、もっといろいろな種類の魔法を覚えれば戦いの幅が広がりますから」


 本棚の本を見ると『炎魔法入門』、『風魔法のすゝめ』などの簡易な魔法の魔導書はあるがフェンティーネが求めているような魔導書は見当たらない。


「う~ん、見つからないな」

「へぇ、こんな本もあるんだ」


 フェンティーネが魔導書を探している間セイは、本棚に置かれている様々な本に興味を示していた。そのほとんどがセイが魔力となっていた300年間に描かれた本だった。セイは本を手に取り興味深く読んでいく。


「…師匠」


 フェンティーネのジト目がセイへと向けられていた。


「ああ、ごめんね。少し面白そうだったからつい」

「興味が出るのは分かりますけど、まずは魔導書を探してください」

「分かってるよ」


 セイは読んでいた本を戻すとちゃんと魔導書を探し始める。

 しばらくするとある一冊の本がフェンティーネの目に留まった。


「あった」


 手に取ったのは『複合魔法大全』と書かれた魔導書だった。状態はとてもよく傷一つない。


「複合魔法か。面白そうだね」


 複合魔法とはその名の通り魔法を複合しより強力な魔法へと昇華させる魔法の事だ。


「欲をいえば禁忌魔法の魔導書があればよかったんですけど、これでもいいです」

「僕はどこで君の教育を間違ったんだろうか」

「?」


 笑顔でそんなことを言う弟子にセイは少し後悔した。

 禁忌魔法の魔導書なんて見つかれば人の目がとどかないような場所に厳重に保管するかその場で燃やしてこの世から無くすかの二択だ。それほど危険視されるものを笑顔で欲するフェンティーネは周りから見たら危険人物だ。

 本人は分かっていないようだが……


「はぁ、まあいいよ。それでその魔導書だけでいいのかい」

「はい」

「そうかい、じゃあ会計をしてくるから魔導書を貸してくれるかな」

「そんな悪いです」

「遠慮しないで、たまには弟子にいいところを見せないとね」

「じゃあ、お願いします」


 セイは魔導書を受け取るとさっき読んでいた本と一緒に会計を済ませた。フェンティーネは魔導書を異次元の扉へとしまった。


「さて次はどこに行こうか」

「どこでもいいですよ」

「それじゃあ次は僕が行きたいところに行こうか」


 セイたちは古本屋を出るとあるところへと向かった。


「着いたよ」

「すごい並んでますよ。何があるんですか」


 セイたちが目的地に着くとまだ午前中だというのに行列ができていた。


「確かクレープとか言う食べ物らしいよ。ティファから美味しいって聞いて一度食べてみたかったんだよ」


 この行列は皆クレープを求めて並んでいるのだ。どれだけ美味しいのかと楽しみになる。


「師匠はクレープを食べたことが無かったんですね」

「そうなんだよ」


 クレープはセイが魔力となった後にできた食べ物なのでセイは一度も食べたことが無く見たことすらない。そのためティファから聞いた時にはいったいどんな食べ物なのかと想像を膨らませていた。


「種類が色々とあって美味しいですよ」

「ティーネは食べたことがあるのかい」

「はい。うちの国でも売っているお店はありますから」

「ずいぶん有名みたいだね」


 他国にも同じような店があると聞きますます楽しみになる。しばらくするとセイたちの番が回ってきた。

 メニューには色々な種類のクレープが書かれているがセイにはさっぱり分からない。


「ティーネ、僕の代わりに選んでくれないかな」

「任せてください。えっとイチゴとチョコバナナください」

「かしこまりました」


 店員がその場でクレープを作っていく。


「お待たせしました」

「ありがとう。はい師匠」


 セイはフェンティーネからクレープを受け取った。


(へぇ、生地で具材をくるんでるのか、中はバナナにチョコソースそれに生クリームだね。ティファが美味しいっていうのがよく分かるよ)


 セイはクレープを一口食べた。


「美味しい」

「こっちも美味しいですよ」


 フェンティーネがイチゴのクレープを差し出してきた。セイはそれも一口


「美味しいよ」

「私の選択は間違ってませんでした」


 セイが笑顔で答えるとフェンティーネは嬉しそうに答えた。

 クレープを食べ終えた二人は、その後大通りにある屋台を見て回った。


「わぁ、綺麗」


 フェンティーネが目を付けたのは屋台の装飾店だった。


「お、嬢ちゃん、お目が高いね。それは白金で造られたブレスレッドだ」


 そこにあったのは白銀色に輝く装飾がくわえられたブレスレッドだった。周りに置いてある商品と比べ明らかに品質が違う。


「今日は特別だ。金貨3枚で売ってやる。どうだ兄さん、こんな綺麗な嬢ちゃんにプレゼントとしてはちょうどいいと思うが」


 店主の男はにんまりとする。つまりは買えということだ。


「分かったよ。金貨三枚だね」

「まいど!」


 店主の男はいい笑顔でお金を受け取った。


「ティーネ腕を出して」


 フェンティーネは、腕をセイへと向けるとセイはそこへ白金のブレスレッドをつけた。


「ちょっと待ってね」


 セイはそう言うと魔法を発動し風を発生させる。風がブレスレッドを細かく削っていく。


「わぁ」


 ブレスレッドにはフェンティーネの名前が彫られ花の装飾も加えられていた。


「すごいです」

「兄さんだいぶすごいことするな」


 店主の男までもが今の魔法を興味深く見ていた。


「一生大切にします」

 

 フェンティーネはブレスレッドを大切そうに触れながらとても嬉しそうに笑うが少し影があるように見えた。


「そろそろ戻ろうか」


 もう日はかなり昇っておりそろそろリーゼたちが帰ってくるころだ。

 帰り道、不意にフェンティーネの足が止まった。


「師匠は……師匠なら大勢の人の命か大切な人の命どっちを選びますか」


 唐突の質問だった。

 セイがフェンティーネの方を振り返ると彼女はとても真剣な表情をしていた。弟子が真剣に考えてるなら師として道を示さなければならない。


「僕は、もし選ぶならその時の自分の心に従うかな」

「心に、ですか?」

「そうさ、心に従えば悔やむこともない。だってそうだろ、自分が正しいと思ったことをしたんだから。だから僕ならそうするかな」


 フェンティーネの瞳からは決意のようなものを感じることができた


「そっか、そうですよね。急に変なことを聞いてすみません」

「いいんだよ」


 セイがフェンティーネの頭を撫でようとした時、少女は避けるようにして急いで先に進んだ。


「師匠、早く帰りましょう」

「……今行くよ」


 セイは不自然な弟子の様子が気になったが、いつもの態度でフェンティーネの後についていくのだった。


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