第四十六話 師弟の再会
ティファが放った矢が分裂しセイに襲い掛かる。セイは周りに浮かんだ炎や雷、水と言った魔法で矢を防いでいく。
「このままだと家が壊れてしまうよ」
「私はまだ負けてない!」
セイの言葉を無視しティファはまたしても矢を放った。
家の目の前で十英雄同士の戦いが行われている、と言ってもティファが一方的にセイを攻撃しているだけなのだが
それでも目の前では無数の矢が飛び交っている。あの矢が一発でもセイの魔法以外に当たればこの森が破壊されてしまうだろう。それくらいの威力がティファの矢にはある。
「うるさいな」
この戦闘音で部屋から眠そうにしながらフェンティーネが出てきた。
「あ!ティーネ、セイたちが」
「……プライドは捨てたと思ってたんだけどな」
フェンティーネはティファのむきになっている様子を見て呆れながら前へと出ると詠唱を始めた。
「全てを凍らせし者よ・その者たちを捕らえよ・アイスバインド」
ティファ目掛けて魔法が発動したが、ティファはすぐに気付き躱した。ティファは見知った魔力を感じた方を睨んだ。
「あんたが何でいるのよ。ティーネ」
「それはこっちのセリフ。私たちに黙って抜け駆けしたでしょ」
「うぐ……」
ティファはセイと再会したのにもかかわらずそのことを誰にも言わず一人セイの家に居ついていたのだ。そのため何も言い返せない。
「それに昔みたいに師匠に噛みついて」
「な⁉なんであんたがそのことを知ってるのよ」
ティファが激しく動揺する。
「師匠から教えてもらった」
「セイ~」
ティファはセイのことを睨んだ。しかしフェンティーネがそのことを切り出してからティファに追及されることを予想していたセイはティファを無視しフェンティーネに話しかける。
「やあ、久しぶりだね。ティーネ」
「お久しぶりです。師匠」
「おや?昔みたいに飛び込んでこないのかい」
「からかわないでください。私はもう立派な大人です」
セイがからかうとフェンティーネはそっぽを向いた。
予想外の反応にセイは少し違和感を覚えた。昔のフェンティーネならセイにあった瞬間満面の笑みを浮かべてよく抱き着いていた。しかし今は全くその様子が無い。成長したからというのもあるのだろうがセイはこの違和感をぬぐえない。
ここで考えても仕方ないのでセイは考えを止める。
「そうかい。ティファを止めてくれてありがとう。僕じゃ手におえなくてね」
「大丈夫ですよ。ティファを止めるなんて容易なことですから」
「ティーネ、その喧嘩かうわ」
ティファが『深弓』を構えた。
「年下の言うことを真に受けるの」
「年下ってあんた私とほとんど歳の差が無いじゃない」
「だけどティファより若いよ」
「若いってあんた300超えてるじゃない」
「それはティファもでしょ」
「む…」
「ん…」
二人はにらみ合いながらティファは弓を弾きフェンティーネは魔力を高め始める。
「はぁ、君たちは相変わらずだね。ほらやめないか」
「いた⁉」
「…痛いです」
セイは二人の間に入り頭を軽くたたいた。
叩かれた二人は同じように拗ねたように叩かれたところを抑えた。
「仲がいいのは構わないけどこれ以上僕の敷地で喧嘩するなら追い出すよ」
そう言われると二人はあっさりと引いた。
「それでティーネはどうしてここに居るんだい」
「可愛い弟子が師匠に会いに来たらいけないんですか」
「構わないよ」
セイはフェンティーネの頭を軽くなでると黒髪の少女はとても気持ちよさそうに目を細めた。
「む~」
そんな二人を不満そうに見つめる二つの影が、それに気が付いたフェンティーネが口元をニヤリとさせた。
「セイ、撫ですぎよ」
「そうです!ティーネだって撫でられすぎ」
「おっと、君はどうだいティーネ」
「いえ、まだ撫でてほしいです」
「だそうだよ」
二人の訴えもむなしくセイはフェンティーネのことを撫で続ける。
「昔からあんたはティーネに甘すぎよ」
「まあ僕の弟子だからね」
「ふふん、私は師匠の一番弟子だから」
フェンティーネは勝ち誇った。言っていることは間違ってないためセイは否定しない。
「それでティーネはどうやってここに入ったんだい」
「リーゼに連れてきてもらいました」
「おや、二人はいつの間に知り合ったんだい」
「実は—」
フェンティーネはここまでのことをセイとティファに説明しると二人は微妙な表情をした。
「……うん、言いたいことは色々とあるけど言わないでおくよ」
「セイが言わないなら私が言うわ。なんであんたは我慢を知らないのよ」
ティファは冒険者に向けて魔法を放ったことを怒った。あれはフェンティーネが悪い。先に入ろうとしていた冒険者に邪魔と言い氷漬けにするのはどうなのかと思ってしまう。
それにフェンティーネがゲネロにセイが自分の師であると言ってしまったためセイは当分冒険者として活動できない。
「だってあの男が師匠の事、馬鹿にしたから」
「怒ってくれるのは嬉しいけどゲネロに魔力をぶつけるのはよくないよ」
「は~い」
フェンティーネはふてくされたように返事をした。
「反省してるの」
「プライドを捨てきれずに師匠に噛みつくどこかのエルフよりはましだと思う」
フェンティーネの自然な煽りにティファが怒りに震えだす。
「おっけ、もう我慢できないわ。ちょっと来なさい」
「師匠~、ティファがいじめてくる」
わざとらしくフェンティーネは怖がりセイの後ろへと隠れた。
「あんたね~」
「きゃー」
なんとも感情のこもっていない叫びだ。攻撃できないことをいいのにどんどんティファを悪者に仕立てていく。
「待ちなさい!」
「捕まえられるなら捕まえてみなよ」
ティファはフェンティーネを捕まえようとするが黒髪の少女はすぐに森へと逃げていく。
「あの二人って昔からこうなんですか」
「そうだね。まあ喧嘩するほど仲がいいっていうしね」
「そういう次元じゃないと思うんですけど」
二人の目の前で繰り広げられているのは可愛らしい追いかけっこではなかった。フェンティーネはテレポートを何度も使い逃げ回り、ティファは彼女の転移場所を予測し先回りするという高次元な駆け引きが行われていた。
セイの言いつけ通り戦闘ではないがこんなものを見たら一般人は何かの戦いだと思ってしまうだろう。
「夕飯前にはやめてよ。それじゃあリーゼお茶でも飲もうか」
セイは、二人にそれだけ伝えるとあの駆け引きが見えてないのか何事もなかったかのように家の中へと戻ろうとする。
「放っといていいんですか」
「うん。いつもの事だから」
改めてセイのことをすごいと思うリーゼだった。
段々と日が傾き始め夕暮れ時になる。セイは夕飯の準備をしていた。そうしていると玄関の扉が開いた。
ティファがフェンティーネを後ろから抱き着いた形で入ってきた。
「やっぱり私の方が強かったわね」
「何で転移する場所が分かるの」
「あんたの視線で丸わかりだからよ」
「次こそは」
「まあ頑張りなさい」
フェンティーネは決意を見せそんな少女をティファは温かく見る。
こうして見ると仲のいい姉妹に見えてしまうのだが人たちに言えば違うと言い張るだろう。
「二人ともまず手を洗ってきて」
「「は~い」」
二人は仲良く一緒に手を洗いに行った。
「師匠、手伝いますよ」
「助かるよ」
「いえ、私あれから料理がもっと上手になったんですよ」
「それは楽しみだ」
セイは、300年前何度かフェンティーネの料理を食べたことがありどれも美味しかった。
二人は手際よく調理を進めていく。
そんな二人をソファから見ている者たちがいた。
「ティファさん、ティーネって料理もできるんですか」
「あの王女、気にくわないけど家事は得意なのよ」
「何ですかそれ、完ぺきじゃないですか」
フェンティーネは可愛らしい美少女の王女、魔法使いとしても優秀で、あげくのはてには家事までできる完璧ぷりだ。しいて欠点を上げるとするならば体が少し幼いというだけだろう。
「しかもセイはティーネに甘々、悔しいけど勝てるところを見つけて立ち向かうしかないわ」
「強敵ですね」
二人はティーネのことを警戒する。
(聞こえてるんだよね)
セイの耳には二人の会話が聞こえていた。
その後も二人は作戦会議と称して話し合うのだがその内容が全て聞こえているセイは、何とも言えない表情になるのだった。




