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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第三章 呪われた王国と吸血鬼の弟子
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第四十四話 ダイヤランク冒険者『黒魔』

 リーゼがセイの家を取り囲む結界に触れると扉が現れる。リーゼは扉を開けて外へと出た。

 

「お待たせ」

「大丈夫よ。私も今来たところだから」


 リーゼがアイナの姿を見るとその姿に違和感を覚えた。

 

「あれ?なんでそんな格好してるの?」


 アイナはいつもの高価な服ではなく、一般人が着るような簡素なワンピースを着ていた。

 

「似合ってるでしょ」


 アイナはひらりとその場で回って見せる。そのしぐさはいつもの彼女とは違い無邪気な子供のようでとても可愛らしい。

 

「似合ってるけどそうじゃなくて、どうして普通の服を着てるの」

「私が普通の服を着たらダメかしら」


 アイナが少ししょんぼりする。

 あまりの落ち込みように悪いことを言ってしまったと思いリーゼは慌てて訂正する。

 

「ダメじゃないよ。とってもよく似合ってるよ」

「やっぱりそうよね」


 アイナはさっきまでの雰囲気はどこに行ったのやらとてもいい笑顔でそう言ったのだ。リーゼはもう理解した。

 

「……またからかったね」

「ふふ、なんのことかしら」

「もう!それで本当にどうしてそんな格好してるの」

「実はお城を抜け出してきたの」


 舌を出し可愛らしく言った。しかしやっていることは王都中が大騒ぎするような大問題だ。

 

「何してるの⁉」

「安心しなさい。メイドたちには言ってあるから」


 アイナはリーゼと一緒に出掛けるのに護衛がいたら邪魔だと考えメイドたちに頼んで服を貸してもらったのだ。貸してもらったワンピースに着替えそのままこっそりお城を抜け出してきたのだ。

 

「これなら二人で回れるわよ」

「私の王女様のイメージが完ぺきに崩れたよ」


 リーゼは王女というものはお淑やかでとても優しいと思っていた。実際アイナの姉であるレイラはとても優しくお淑やかだった。だがアイナはどうだ、人をからかって楽しみ結構大胆な行動をする。リーゼの想像していた王女とは真逆だった。

 

「早速見て回りましょう」

「はぁ、もう知らないからね。それでどこに行こうか」


 リーゼはもうこの王女様を止めることはできないと理解した。

 

「リーゼなら分かってくれるって思ってたわ。それじゃあ早速行きましょう」


 アイナはリーゼの手を引っ張り大通りへと出た。

 大通りは、人が多く。活気づいている。

 

「やっぱり人が多いわね」

「それでどこに行くの」

「まずはあそこね」


 アイナが向かったのは行列の出来ている屋台だった。

 

「ここは?」

「王都で有名な氷菓子のお店よ。メイドたちが話してて一度来てみたかったのよ」


 先に並んでいた人たちがかき氷を買って戻ってくる。かき氷はとても色とりどりなシロップがかけられていてとても美味しそうだ。

 

「へぇ、美味しそうだね」

「でしょ。それよりリーゼはお金持ってる」

「うん、セイからお小遣い貰ってるから大丈夫だよ」


 リーゼは月に一度セイからお小遣いをもらっている。金貨一枚という大金だったため最初は遠慮していたのだが何かあったときに使えるようにということで受け取るようにしたのだ。

 しばらく待っているとリーゼたちの番になった。

 

「次の方」

「抹茶とイチゴをください」

「大変申し訳ございません。ただいま抹茶が品切れでして」

「あら残念。だったらメロン味でお願い」


 アイナはメイドから珍しい抹茶味のかき氷があると聞いてやってきたのだが品切れだった。少し残念がるもすぐに思考を変える。

 

「かしこまりました」


 しばらくすると店員がふわふわのかき氷を持ってやってきた。

 

「お待たせしましたイチゴとメロンです」


 二人はそれぞれ受け取ると店の近くにあるベンチで食べ始める。

 

「うん、美味しいわね」

「アイナのも一口ちょうだい」 

「いいわよ」


 リーゼがアイナのかき氷をスプーンですくい、一口もらう。

 

「メロンもいけるね。あ、そうだ。アイナの言ってた抹茶味ってどういう味なの。私食べたことないんだよ」

「抹茶は極東の飲み物よ。ちょっと苦いけど美味しいわよ」

「へぇ、そんなのがあるんだ」

「知らなくてもしょうがないわよ。極東は今内乱状態で輸入もたまにしかできないから」


 極東にある国では内乱状態が続いているためうかつに近づくことができない。そのため極東産の物はまれにしか輸入できないのだ。

 そんな他国の情勢を知りながらかき氷をほおばった、

 

「次行きましょう」

「そうだね」


 二人はかき氷を食べ終えると次の場所へと向かおうとしたのだが

 

「なんだとてめぇ!」

「だからそこをどいてって言ってるの」


 冒険者ギルドの前で何やらもめごとらしい。

 ガラの悪い冒険者数名と小さな黒髪の少女が言い争っていた。

 

「あ!てめぇ俺たちが先に入ろうとしてんだぞ!」

「うるさいな、いいからそこをどいてって言ってるのが分からないの木偶」


 まさしく一触即発

 周りから見れば黒髪の少女がピンチに見えてしまうが少女が引く気配はない。

 

「もう我慢の限界だ!お前らこの小娘に金ランクの実力を思い知らしてやれ!」


 キレた冒険者たちが自分の得物を抜き黒髪の少女へと近づく。

 通りの一般人たちが叫び逃げ始める。

 

「助けないと」

「でも私たち武器を持ってないわ」

「なら、素手でも」


 リーゼは黒髪の少女を助けようとするがその必要はなかった。

 

「はぁ、王都の冒険者は態度が悪いな~、これはティファに文句を言わないと」


 黒髪の少女は危険な状況にもかかわらず頭を抱えながら暢気にため息を吐いた。

 

「全てを凍らせしものよ・その者たちを捕らえよ・アイスバインド」


 詠唱したのにもかかわらず一瞬で魔法が発動し冒険者たちが凍り付いた。

 今の詠唱はリーゼたちには聞き取れないほどの早口だった。

 

「はぁ、態度が悪いだけじゃなく質まで悪いなんて、今からティファに文句を言いに行こうかな」


 黒髪の少女は何事もなかったかのようにその場を後にしようとする。

 よく見るととても可愛らしい顔立ちをしており少女が羽織っているローブはセイが羽織っているローブに少し似ている。

 その時冒険者ギルドの扉が勢いよく開かれた。

 

「これは何の騒ぎだ!」


 冒険者ギルドの中から恐ろしい風貌の男が出てきた。支部長であるゲネロだ。

 ドアが開いたことにより中にいる冒険者たちも外を見始める。

 

「な⁉凍ってる。誰だこれをやったのは」


 ゲネロは目の前で凍り付いている冒険者たちを見て驚く。

 

「ふぁ~、私だよ」


 黒髪の少女が面倒くさそうに名乗り出た。

 

「お前みたいなやつがこんなこと、を……」


 ゲネロは少女を見た瞬間不自然に固まった。

 

「お~い、どうしたの」

「ど、どうしておま、あなたがここに居るんです」

「私がここに居ちゃいけないわけ」

「い、いえそうじゃありません」


 ゲネロが動揺しながら慣れない敬語を使っているのを見て、ギルド内の冒険者と受付嬢たちが驚いている。

 

「それで君がここの支部長なの」

「は、はい」

「そしたらティファに文句言うのは筋違いか、で、君はここの冒険者にどういう教育をしてるわけ、態度は悪いし金なのに弱すぎ、どうなってるの?」

「いやあなたの基準で考えられても」


 小声で呟いたのを少女は見逃さない。

 

「なに、文句でも」

「い、いえ」


 少女に睨まれるとゲネロは縮こまった。

 

「まあいいよ。そんなことより私は人を探してるんだ~」

「『黒魔』様がお探しの方とは」


 『黒魔』ダイヤランク冒険者にしてこの時代において最強の魔法使い。単独で、数千の魔物をせん滅し、白金ランク冒険者がパーティーで討伐する魔物を単独で何度も討伐している。そんな化け物がこんな小さな少女だとはだれが想像できたか

 

「この前この支部にレッサードラゴンを持ってきたセイっていう冒険者、どこにいるか分かる?」

「黒髪の魔法使いの事ですか」

「そう!その人どこにいるか知らない」


 少女が興奮しながらゲネロに近づいた。予想外の食いつきにゲネロの表情が若干引きつる。

 

「あ、あなたがそんなに興味を持つということはもしかしてあの青年はあなたの弟子ですか」


 ゲネロの言葉が気に障ったのか少女の瞳からハイライトが無くなった。

 

「……あの人が私の弟子?馬鹿にしてるの」


 少女から膨大な魔力がゲネロへとぶつけられた。

 

「…あ、が……」


 ゲネロは魔力による圧で呼吸ができなくなり震えが止まらない。向けられてないのは分かってはいるがその小さな体から放たれる怒りにより他の冒険者たちや周りにいた人々も震えだす。

 

「あの人はね。私のお師匠様、分かる?あの人と私じゃ圧倒的に格が違うの。ねぇどう見たらあの人が私より下に見えるわけ?ねぇ」

「………」


 ゲネロはもう答えることができない。

 このままではゲネロが少女の魔力圧により死んでしまう。

 

「あ、あの、セイがどこにいるか、知ってます」


 そんな中リーゼが勇気を出し少女を止めるべく前へと出たのだった。 


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