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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第三章 呪われた王国と吸血鬼の弟子
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第四十二話 家族

 第三章の始まりです。

 今回、最初の話はセイ視点の話となっています。

 ブックマーク登録、評価が励みになるので、ぜひよろしくお願いします。

・セイ視点



 僕は何もない空間を歩いていた。

 進んでも進んでも光はなく暗闇が続いている。

 

「どこだろう」


 どうして僕がここに居るのか分からない。直近の記憶が無い。

 しばらく進むとやっと光が見えた。僕はそこへ惹き付けられた。

 

「眩しい⁉」


 光の中へ入ったと思ったら急に光が強くなり僕は咄嗟に顔を覆う。

 

「え?」


 恐る恐る目を開けてみるとそこは森の中だった。

 僕にとってなじみある森、魔の森だ。

 

「こんなに目線低かったっけ。それに魔力をそんなに感じない?」


 いつもより目線が低い気がする。しかもこの前魔の森に来たときは魔力を感じることができたのに今はほとんど感じることができない。こんなに魔力を感じない魔の森って僕が子供のころの…

 僕はすぐに自分の体を確認した。

 

「やっぱり」

 

 予想通り今の僕は子供の頃の僕だった。身長は小さく、服装はいつものローブ姿ではなく子供の頃よく着ていた子供服。腰には大人用の木剣が提げられている。


 だけどどうして子供になってるんだ?


 時魔法で体を幼くしようとしても今の僕には時魔法は使えない。他に考えられる可能性は誰かに魔法をかけられた可能性だけど……だめだ、分からない

 

「セイ~」


 

……え?

 


 思考が止まった。夢でも見てるのか

 

「こんなところにいたのね。まったく、練習に戻るわよ」

「……かあ、さん」

「どうしたの、幽霊でも見た顔をして」


 僕の目の前に現れたのは木剣を持った金髪の女性。

 忘れるわけもない僕の母さん

 なんで母さんがいるの、まさか誰かの幻?…だって母さんはあの時……

 

「まあいいわ。それでセイ、リオはどこにいるの?」


 あ、本物の母さんだ。

 笑ってはいるが目が笑っていない笑顔。母さんは父さんを探すときいつもこんな顔をしていた。僕を動揺させるつもりならこんな母さんを幻で出すわけがない。

 僕はこの母さんが怖くて一緒に隠れてた父さんの場所をよく教えてたっけ

 

「セイ~早く教えてくれないと夕飯なしにするわよ」

「そこ」


 何となくそこだろうなと思い僕は咄嗟に近くの茂みを指さした。

 

「リオ~、早く出てこないと……切るわよ」


 母さんは笑顔で僕が指した方向とは別な方向に斬撃を放った。斬撃はそこにあった大木を数本簡単に切り裂きそのまま奥へと消えていく。

 ドサドサッと大木がなぎ倒される。

 こ、怖い

 

「そ、それだけは勘弁してくれ」


 茂みの中から黒髪の男が出てきた。茂みに隠れていたからか服のいたる所に葉っぱがついている。

 

「やっとでてきたわね。リオは夕食なしよ」

「息子との扱いの差がひどすぎる⁉」


 ショックを受けてるこの人は僕の父さんだ。

 

「嫌ならすることがあるでしょ」


 母さんは自分の唇を妖艶に指でなぞると笑みを浮かべた。

 あ~、いつもの奴ね。

 

「いや、セイの前だぞ。少しは自重してくれよアリス」

「え~このままだとリオの夕飯はなしかな~」

「うぐ、セイも母さんに言ってくれ」


 父さんは僕に助けを求めてくるが後ろにいる母さんの圧が凄い。セイは私の味方よねと無言の訴えをしてくる。僕の家は母さんがルールなのだ。

 

「父さん、ああなった母さんはもう無理だよ。それに散々見せられてるから何とも思わないよ」

「セイ~」

「ほら息子に泣きつくなんてみっともないでしょ」

「はぁ、分かったよ」


 父さんは母さんに近づくと軽くキスをした。二人はとっても仲がいいのだ。こうして僕がいるのにもかかわらずよくイチャイチャしてる。

 

「…これでいいかな」

「もうちょっとちゃんとしてもいいと思うんだけど」

「あのな。子供のいる前でそんなことできるわけないだろ」


 父さんは呆れている。

 

「はぁ、仕方ないわね。それじゃあセイ戻って続きをするわよ」

「うん」


 僕は二人と一緒に家へと戻る。僕の家は平屋建ての一軒家だ。周りには父さんが作った魔物除けの結界が張られている。

 

「さぁ、剣を構えなさい」 

「やっぱりセイにその剣はでかくないか」


 僕は木剣を構えた。僕が握っている木剣は大人用のためサイズがあっておらず振りづらい。

 それなりに使ってるから慣れたけど父さんの言う通りやっぱりサイズの合った剣を使うべきだと思うんだよな。

 

「いいのよ。もう慣れてるだろうし」

「アリスが無理やり矯正したようなもんだろ」


 父さんはそう小さく呟いた。

 おお、言い返した。僕は少しだけ父さんを見直す。

 

「何か言った~」

「いえ、何も」


 父さんは母さんに睨まれ視線を外した。やっぱり弱いな

 

「どこからでもきていいわよ」

「今日こそ勝つ!」


 僕は母さんへと切りかかった。僕は一度も母さんに勝ったことが無い。だけど今の僕なら勝てるかもしれない。

 まずは斜めに


 そう僕は考えたが体が言うこと聞かない。どうして?考える間も無く、そのまま僕は、突きを放っていた。

 

「分かってきたじゃない。だけどそれじゃあ簡単に躱されるわよ」


 母さんはそう言うと僕の剣をあっさりとかわし木剣を僕の喉元へと突き出した。

 

「はい、おわりね」

「いけると思ったのに」


 僕はその場に座り込んだ。

 

「ふふ、まだ息子に負けるわけにはいかないわ」

「ちょっとくらい手加減してくれてもいいじゃん」

「ダメよ。剣で手加減なんてしたくないもの」


 母さんは自分の好きな物には嘘がつけないのだ。難儀な性格してると思うんだけど父さんも案外そうだからな。何とも言えない。

 

「ぶ~」

「ブーイングしてもだめよ」

「セイ、父さんと魔法を練習しようか」

「やる!」


 僕は元気よく父さんの下へと駆け寄った。魔法は学んでいてとても楽しい。詠唱によりおこる様々な事象、同じ詠唱をしても少し魔力操作を変えるだけ起こる事象が変わってしまう緻密な操作、これがとても面白い。


 たまに来るおじさんには子供らしくないと言われるけど父さんもそういった性格だったためよく似たもの親子だと言われる。

 

「ちょっとリオ、セイを取らないでよ」

「セイは俺が立派な魔法使いにするぞ」

「何言ってるのよ。セイは、私が立派な剣士にするの」

「だけど実際セイは剣より魔法の方が好きみたいだぞ」


 父さんが勝ち誇った顔をした。

 あぁ、やっちゃった。僕はすぐにこの場を立ち去る。

 

「父さん魔法は一人で覚えられるから僕一人で部屋に行ってるね」

「ちょ、セイ」


 僕は父さんを無視しすぐに家の中へと退避した。

 

「……リオ、言いたいことはそれだけかしら」

「ああ、そういうことか。我が息子ながらなんて賢いんだ」


 母さんは陽光を鋭く反射する鉄剣を鞘から抜くと惚れ惚れする笑みを浮かべながら父さんへ近づく。それを見た父さんは自分が置かれている状況を一瞬で理解した。額には冷や汗が見える。

 

「ふふ」

「アリス落ち着いてくれ。さっきのは間違いでな。ほらセイは剣をずっと持ってるだろ。やっぱり剣が好きなんだよ」


 父さんは、慌てて母さんの機嫌を取ろうとするがもう遅い。

 

「問答無用!」

「ひ⁉」


 母さんが鉄剣を振るった。母さんの斬撃で父さんの服の裾が切れた。

 そこからは母さんの一方的な攻撃だった。父さんも強いのだが魔法使いなのでこうして詠唱ができないと一方的にやられるだけなのだ。


 僕の家ではこれが日常茶飯事だ。僕はこうしてよく窓から二人の痴話げんかを見ていた。その後はいつも二人でいちゃついている。

 


……ああ、ずっとここにいたいな



 現実ではないと分かっていても家族と一緒に居られるこの幸せな空間から出たくないと思ってしまった。

 現実に戻ってもこの二人はいない。母さんと父さんはもう……

 

「うわぁ、またかい」

「はぁ、あなたたちは相変わらずね」


 そんなことを思ってると奥から人が現れた。一人は極東の着物と呼ばれる服を着た女性その隣にいるのは簡素だが高級な服を着た男性だ。その二人の後ろにいる黒髪の少女。


 少女の姿を見た時、僕は無我夢中で外へ出ようと急いだ。

 ドアが開き少女の視線がこっちを向くと笑顔を見せた。

 

「セイ」


 

ああ……また…君に会えるなんて……



 あの子の下へ僕は走ろうとするが近づくことができないそれどころかどんどん離れていく。

 

「待って!行かないで!」


 僕は叫ぶが全く近づくことができない

 嫌だ、嫌だ!

 やがて光が少女を包み消えてしまった。

 

「…僕を……置いてかないでよ」


 僕はその場で止まると光に包み込まれた。


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