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第三十九話 英雄たちの実力

 セイは目の前で凍り付いているレッドドラゴンを見た。

 

(レッドドラゴンか。まだ何とかなるな)

 

「ちょっとセイ、先に行かないでよ」


 セイがどうやって倒そうか考えていると後ろからティファが走ってきた。

 

「こいつはレッドドラゴンね…ん?なんで生きてるのよ」

「今の僕じゃ力が制限されてて禁忌魔法は使えないんだよ」

「あれだとすぐ解かれるわよ」


 ティファがそう言った直後レッドドラゴンの氷にひびがはいり拘束が解けた。

 

「グルァァァ!!」

「だから言ったじゃない」

「あれはいちじしのぎだよ」


 レッドドラゴンが動き出したのにもかかわらず二人はいつも通りに話している。

 

「ドラゴンが⁉」

「それで私は何をすればいいの」

「ティファには援護をお願いしようかな」

「今のあんただとあのドラゴンは切れないわ」


 リーゼが危険を知らせるが二人はレッドドラゴンがまるで脅威でないように気にせず話している。

 

「グルァァァ!!!」


 レッドドラゴンは凶暴な口を広げブレスを放った。

 

「私がやる?」


 ティファはマジックバックに片手を突っ込み自分の得物を取ろうとする。

 

「ここは僕に任せてパーフェクトウォール」


 セイを中心に結界が張られた。超高熱のブレスは結界へとぶつかると側面を滑るようにブレスが曲がっていった。結界にはひび一つはいっていない。

 

「すごい」


 アレンはこの魔法にただただ見惚れていた。

 

「でたらめね」

「そうかな」

「はぁ、まあいいわ。それであなたたちは魔力欠乏が二人に負傷者一人ね」


 ティファはリーゼたちの状態を確認しているとアイナが持っている物に目がついた。

 

「アイナその手に持ってるのって」

「え?これのことですか」


 アイナの手に握られている物はセイから貸してもらった悪魔の角だ。

 

「そうよ。それどうしたの」


 ティファの目の色が変わった。少しだけ怒っているように見える。

 

「う……」


 ティファの圧に押されアイナは答えることができない。そんなティファを止めるようにセイが口を開いた。

 

「それは僕がもしものために渡したものだよ」

「な⁉だからって子供になんてもの持たせてるのよ!」


 ティファはセイへと掴みかからんばかりに怒る。ここまで怒りをあらわにしたティファの姿をリーゼたちは見たことが無い。

 

「大丈夫だよ。悪魔については説明してないから」

「……後でちゃんと説明しなさいよ」

「分かってるよ。嫌な思いをさせてごめんね」

「私も少し頭に血が上ったわ。ごめんなさい」


 『悪魔』それが何を意味するのかリーゼたちには分からないがセイたちの様子からとても危険であるということだけは理解できた。

 

「セイ、ドラゴンは」

「話がそれちゃったね。早く倒そうか」

「そうね。だけど私が援護をすれば一撃で仕留めることになるけどいいの」

「違うよ。僕が言いたかったのはね、あれの事」


 セイがレッドドラゴンの後ろを指さした。するとそこには複数の黒い人が立っていた。ファントムアサシンだ。その数ざっと100は超えている。

 普通なら数的不利なこの状況では絶望的だが二人は未だに毅然としている。

 

「昔から数だけは多いわね」

「あの魔物は<幻影>が使えない劣化版だ。君なら簡単に倒せるだろう」

「私を誰だと思ってるの」


 ティファは好戦的な笑みを浮かべながらマジックバックから自分の得物を取り出した。

 

(剣じゃないの?)


 リーゼはティファの得物は剣だと思っていた。しかしその手に持たれているのは深緑色の1mほどある弓

 

「10秒もあれば動く的くらい射貫けるわ」


 10秒つまりは一秒間に10体ものファントムアサシンを仕留めなければならない。だがそんな不安すら感じさせないほどの自信がティファから伝わってくる。

 

「それは心強いね」

「あんたもそのくらいあれば倒せるでしょ」

「昔ならね。それじゃあ僕はあのドラゴンを相手するよ」


 そう言ってセイは結界の外へと出た。セイはレッドドラゴンにむけて魔法を連発

 結界内でティファは矢を使わず弓を構える。

 

(こうして『深弓』を構えるのも久しぶりね……手になじむわ)


 ティファの本来の得物は剣ではなくこの『深弓』だ。握るのは実に100年ぶりになるだろう

 意識をファントムアサシンたちに集中させる。それぞれ別方向へと動くがそんなことティファには関係無い。

 

「今」


 無いはずの矢を解き放った。

 『深弓』は魔弓だ。魔弓は魔剣と同じようにある魔法が込められた弓の事だ。ティファが持つ『深弓』が持つ魔法それは魔力で矢を創り出すというシンプルな能力、一見するとたいしたことないように思えるが実際は恐ろしい能力だ。

 

「乱矢」


 ティファが放った矢はそのまま真直ぐに突き進むかに思えたが途中で複数の矢に分かれた。その数百以上。ちょうどファントムアサシンと同じ数だ。

 寸分狂わず矢は全てファントムアサシンたちの脳天を貫いた。


 ここまでにかかった時間わずか五秒

 ティファの宣言通りだ。


 これが『深弓』の恐ろしいところだ。矢を創り出すことができるということは一本の矢から無数の矢を創り出すこともできるということだ。そこにティファの技術まで加わると一撃が全ての敵を倒す攻撃へと変わるのだ。


「こんなところね」


 ティファは弓を下した。

 

(あれがティファさんの力……)


 ティファの本来の力を見たリーゼは複雑な気持ちになる。一瞬で敵を倒した力に見惚れたそれと同時に追いつこうとしていた目標が本当の力ではなかったことにショックを覚える。今の自分の力がどれだけ無力だったのかを思い知らされた。

 

「やっぱりティファは強いね」


 セイは横目にティファを見ながらレッドドラゴンを相手取っている。レッドドラゴンの翼は焼け焦げ使い物にならなくなっていた。セイがレッドドラゴンに近づいた瞬間翼にサンフレアを打ち込んだのだ。

 それにより飛ぶことができなくなったレッドドラゴンの機動力が格段に落ち容易に攻撃をかわすことができている。

 

「そろそろ僕も終わりにしようか」


 レッドドラゴンはセイが魔法を発動する前に巨大な腕を振り下ろす。何の抵抗もなく振り下ろせた腕を不思議に思ったレッドドラゴンが腕を上げるとそこにセイの姿はなかった。

 

「やっぱりドラゴンの一撃は怖いね」


 レッドドラゴンが上空を見上げるとそこにはセイが浮かんでいた。

 セイはレッドドラゴンが腕を振るう前に上空へと転移していたのだ。

 

「今出せる全力を見せようかな」


 すると大気を震わせるほどの魔力がセイへと集まった。この魔力にはレッドドラゴンも恐れをなし自然と後ずさりしてしまう。

 

「サンフレア」 


 太陽のごとき輝く巨大な炎の球が巨大なレッドドラゴンを包み込んだ。

 

「——⁉」


 断末魔すらあげられず一瞬にして燃やし尽くされる。

 

「終わりかな」


 セイがそう言うと炎は無くなった。

 

「ちょっとセイ、禁忌魔法は使えないんじゃなかったの」


 ティファの目には今セイが使ったサンフレアの威力が禁忌魔法と同等に見えた。

 

「今のはただの炎魔法だよ」

「やっぱりでたらめね」


 ティファは改めてセイの実力を思い知った。

 

「さてとレッドドラゴンの処理は後にするとして、隠れても無駄だよ」


 セイは誰もいない森の奥へと話しかけた。

 

「そうね。早く出てきなさい。じゃないと射貫くわよ」


 ティファはもう一度弓を構えた。

 

「流石は英雄だな」


 空間が歪みそこから一人の男が現れた。

 その姿を見た時リーゼたち、三人が言葉を失った。

 

「やぁ、君が今回の黒幕だね。サイラ」

「せん、せい?」


 男はゼノフ学院の教師であるサイラだった。


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